
05/08/2025
【第15回リリー・オンコロジー・オン・キャンバス絵画部門 最優秀賞のご案内】
絵画・写真・絵手紙で想いを綴る「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」。
第15回絵画部門 最優秀賞 『来週の約束』(中井 智子さん)の作品をご紹介いたします。
---------------------------------------------------------
『来週の約束』
私の父は、何かにつけて凝り性だ。
気になり始めたらとことん深みにはまる。
その一つに耳掃除があり、我が家には竹製、金属製、シリコーン製の耳掻棒だけではなく色、大きさ、形が異なった綿棒がいたるところに置いてあり、痒みを感じると長時間耳を掻き続ける。
ある日、耳の中にできものができ痛みだし近所の耳鼻咽喉科、市民病院あっと言う間に大学病院の診察室にいた。
レントゲンやCT画像を見たお医者様から
「外耳道がんですね、このままなにもしなかったら、もって二年です。」
「治療法としては、高齢だけど体力があるので外科手術の方向で進めていきましょう。」
父に余命宣告と二年先の希望を告げた。
二週間も前から入院して挑んだ手術の日。
遠方に嫁いだ姉が来てくれた。
待合室で、久々の姉妹の時間を過ごした。
予定時間より三時間程遅れて不安になったけど、姉の陽気な性格に助けられ無事終了。
退院すると、私に三つの変化があった。
一つ目、毎朝夜耳の丸綿と絆創膏の交換は、私の係りとなった。
二つ目、週末に父と母と私の三人で祖父の畑仕事をするのが生活スタイルとなった。
三つ目、夕食時ぐらいだった家族団欒会話
「入院前に植えた里いも、葉が枯れてきたから来週収穫しようか」
畑仕事帰りの車内で、今日と来週の作業の話をするようになった。
世間一般的な人達には、只の来週の予定。
私には、余命宣告された父と来週の約束ができるという幸せな時をかみしめられる時間。
自分のことながら、この数ヶ月間で家族の有り難みを感じられるようになった心境の変化には驚くばかりだ。
手術の傷口は日々小さくなってきているがまだ二年先には辿り着いていない。
父ががんになったことは良くないことだが家族との在り方を考え直す良いきっかけとなった。
一年中楽しめるように作られている畑。
毎週「来週の約束」を穏やかに積み重ねて未来があると信じて共に歩いていこう。
---------------------------------------------------------
「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」のテーマは「がんと生きる、わたしの物語。」
言葉だけでは伝えきれない“想い”をアート作品とエッセイで表現し、分かち合う“場”です。
https://www.lilly.com/jp/locj/
#アート #アートセラピー #絵画 #写真 #絵手紙 #エッセイ #がん #がん患者