19/11/2025
【第15回リリー・オンコロジー・オン・キャンバス写真部門 入選のご案内】
絵画・写真・絵手紙で想いを綴る「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」。
第15回写真部門 入選 『壁を越える』(長谷川 勝士さん)の作品をご紹介いたします。
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『壁を越える』
私は74歳。慢性リンパ性白血病と診断されてから、今年で9年になる。病気を宣言された当初は、頭が真っ白になった。「あとどのくらい生きられるのか」と不安が押し寄せた。白血球も人の20倍に増え、体はだるく髪は抜け、7キロ痩せた。しかし、不思議と次の年には、妻と一緒にベルリンの壁を訪れていた。
ベルリンの壁は、私たちの世代にとって象徴的な存在だった。分断の象徴であり、冷戦時代の苦い記憶そのものだ。壁が崩壊したとき、自由という言葉がこれほど重く、そして希望に満ちた響きを持つものだと初めて知った。私はその場所を実際に自分の目で見てみたかった。癌になったことで、「行きたい場所に行こう」「やりたいことをしよう」という思いが一層強くなったのだと思う。
ベルリンで撮った一枚の写真がある。壁があった地面に「THE WALL MUSEUM」とペイントされているその上に、私と妻のスニーカーが並んで写っている。写真を撮った瞬間、なぜか込み上げてきた感情があった。あのときの自分は、白血病という「壁」を背負いながらも、それを越えようとする意志で満ちていたのかもしれない。
あれから10年。病気を抱えながらも、なんとかここまで元気に生きてこられた。ベルリンの壁を訪れたことは、私の人生にとって大きな意味を持っている。それは単なる観光地ではなく、「壁を越える」ということの象徴だったからだ。あの場所に立ち、写真を撮った瞬間、私は自分の人生の壁を越えられるという小さな確信を得たのだと思う。
病気になってからの10年は、簡単なものではなかった。それでも、私を支えてくれる家族や友人、医師の存在があった。ベルリンの壁のように、どんな壁もいずれ崩れ去ることを信じて、今日もまた一歩を踏み出す。
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「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」のテーマは「がんと生きる、わたしの物語。」
言葉だけでは伝えきれない“想い”をアート作品とエッセイで表現し、分かち合う“場”です。
https://www.lilly.com/jp/locj/
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