18/04/2024
【脳卒中後の軽度歩行障害における歩行予後 -2022論文-】
2022年、【Associations between changes in gait parameters, balance, and walking capacity during the first 3 months after stroke: a prospective observational study.】という論文が公開されました。
PMID: 32569492
この研究では、脳卒中発症2週間以内の軽度歩行障害を有する患者さん79人を対象に、3ヶ月後に
⚫︎歩行速度
⚫︎歩行距離
⚫︎時空間パラメータ
…などの “歩きかた(歩容)” がどのように変化しているかを報告しています。
こういった一般的な経過のデータは、患者さんの予後予測に使うことができます。
▪︎ 脳卒中後の歩行障害における予後予測のやりかた
私たちセラピストの仕事は『患者さんによくなっていただくこと』ですが、脳卒中には “自然回復” があります。
リハビリをやっても自然回復くらいまでしかよくならないならリハビリの意味がないので、自分がやろうとしているリハビリが『自然回復(一般的な経過)よりもよくなるのか?』を判断する必要があります。
#自然回復よりよくなるなら実施する価値あり
自然回復(一般的な経過)の予後予測で役立つのが
⚫︎予後予測ツール(モデル)
⚫︎一般的な経過データ
…です。
今回の論文は『一般的な経過』を報告してくれているものです。
▪︎ 脳卒中後の軽度歩行障害における歩行予後 -2022論文-
一般的な経過データを報告してくれている研究論文はいくつかあるのですがいずれもアウトカムは
⚫︎ 歩行自立度
⚫︎ 歩行速度
⚫︎ 歩行距離
であることが多いです。
1970年代に、脳卒中患者さんが “歩行で困ることはなにか” を調べた研究があるのですが、そのとき挙げられたのが
⚫︎ 歩行自立度
⚫︎ 歩行速度
⚫︎ 歩行距離
⚫︎ 歩きかた(歩容)
…の4つでした。
歩行自立度、速度、距離については予後予測に役立つデータがわりと多いのですが、 “歩きかた(歩容)” については予後予測に役立つデータが多くありません。
なので、患者さんから『きれいに歩けるようになる?』と聞かれたとき、返答に困るセラピストさんも多いのではないかと思います。
そこで役立つのが今回の論文です。
今回紹介する2022年論文は、平均年齢 75歳くらいの軽度脳卒中患者さんの歩行の時空間パラメータとして
⚫︎ ステップ長
⚫︎ 歩隔
⚫︎ ケイデンス
⚫︎ 単脚支持期の割合
…など歩きかた(歩容)が発症2週間から3ヶ月までにどのように変化するかを教えてくれます。
例えば
ステップ長(m/s): 55.7 (12.9) → 62.3 (13.1)
歩隔(cm):8.1 (3.1) → 7.6 (3.5)
ケイデンス(steps/min):96.5 (16.7) → 104.2 (12.9)
単脚支持期の割合(%):33.9 (3.6) → 35.1 (3.0)
…などです。
これらのデータをもとに、
『○○さんは発症1週間でステップ長が56cmだから、3ヶ月後に62cmくらいまで改善するだろう』
という一般的な経過の予測ができます。
ちなみに2010年の研究【Spatial and temporal parameters of self-selected and fast walking speeds in healthy community-living adults aged 72-98 years】によると、70歳代の健常者高齢者のステップ長は “68.9 (8.8cm”、歩隔は “9.5 (2.5) cm”、ケイデンスは “120.23 (11.88) steps/min” であることが報告されています。
PMID: 21717921
なので
『3ヶ月後に62cmだと健常高齢者よりも少し短いから、歩きかたを綺麗にするためにステップ長を長くするリハビリプログラムを組んでおこう』
といった意思決定ができます。
▪︎ エビデンスに基づく軽度歩行障害患者さんの予後予測
歩行障害が重度の患者さんは歩きかたよりも “まずひとりで歩けるようになるか” という自立度が課題になることが多いと思います。
一方、歩行障害が最初から軽度の患者さんは自立度よりも “元通りに歩けるようになるだろうか” という歩きかた(歩容)が課題になることが多いと思います。
そんなとき、
⚫︎ 担当患者さんの歩きかたはどのようによくなるのか
⚫︎ 歩きかたを綺麗にするためのリハビリが必要か
などの判断をする上で今回の研究が役立ちます。
BRAINではこのように、データを活用しながらリハビリを提供しています。