一般社団法人信州上田みらい塾

一般社団法人信州上田みらい塾 宮坂昌之(大阪大学免疫学フロンティア研究センター・招へい教授、大阪大学名誉教授)が代表理事です。医学健康情報の発信を行います。

心配されていたことですが、新型コロナウイルスはやはり垂直感染をします。垂直感染とは、から子へ病原体が伝わる感染様式のことです。母子感染とか胎内感染とか呼ばれることもあります。これまで風疹やB型感染ウイルスが胎盤を介して垂直感染をすることが知...
27/11/2025

心配されていたことですが、新型コロナウイルスはやはり垂直感染をします。

垂直感染とは、から子へ病原体が伝わる感染様式のことです。母子感染とか胎内感染とか呼ばれることもあります。これまで風疹やB型感染ウイルスが胎盤を介して垂直感染をすることが知られていたのですが、今回の中国からの論文を見ると、新型コロナウイルスも明らかに胎盤を介して胎児に感染をします。

これは中国・上海からの報告です。新型コロナ陽性で妊娠中期(妊娠4ヵ月目まで)に選択的人工妊娠中絶(本人の意思で事前に予定して行う中絶)を受けた妊婦あるいは胎児異常による中絶を受けた妊婦からの胎児(18個体)において調査が行われました。その結果、新型コロナウイルスは、母親から垂直感染によって胎児に伝わり、ウイルス粒子のみならず、種々のウイルス由来タンパク質が胎児の臓器に広く分布していました。さらに、プロテオーム解析の結果、ウイルス感染した臓器ではDNA損傷や免疫反応が起きていることが示唆されました。

何度も言っていることですが、やはり新型コロナは罹らない方が良い病気です。お母さんが妊娠中にかかると、垂直感染が起きて、胎児にまで影響が及ぶ可能性があります。

Infection with SARS-CoV-2 during pregnancy may result in maternal and fetal complications. Here, the authors analyze 18 fetuses following maternal SARS-CoV-2 infection and identify distribution in fetal organs through vertical transmission.

最新号のScience誌によると、「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されているーコウモリは海洋哺乳類と陸生哺乳類の架け橋となる可能性があるかもしれない」とのことです。困ったことで...
26/11/2025

最新号のScience誌によると、
「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されているーコウモリは海洋哺乳類と陸生哺乳類の架け橋となる可能性があるかもしれない」とのことです。
困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に広がりつつあるようです。

最新号のScience誌によると、「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されている」とのことです。困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に...
26/11/2025

最新号のScience誌によると、
「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されている」とのことです。困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に広がりつつあるようです。

新型コロナ後遺症が世界的に及ぼす経済的な負担について論じている論文があります。要点を訳すと、次のようです。『新型コロナに感染してから3ヶ月間症状が持続する状態を新型コロナ後遺症と定義すると、世界的な有病率は36%(1~92%)と推定されてい...
26/11/2025

新型コロナ後遺症が世界的に及ぼす経済的な負担について論じている論文があります。
要点を訳すと、次のようです。
『新型コロナに感染してから3ヶ月間症状が持続する状態を新型コロナ後遺症と定義すると、世界的な有病率は36%(1~92%)と推定されていて、世界的な健康および経済にとって重大な課題となっている。マクロ経済的、疾病費用、ミクロ経済的影響を含む経済的影響に関する最新の知見をまとめると、世界全体では年間平均1兆ドル(=約150兆円)、米国では患者1人あたり9,000ドル(=約140万円)の負担と推定されている。米国だけをみても年間の収入損失額は約1,700億約ドル(=約266兆円)と推定されている。新型コロナ後遺症による被害は、感染後最大3年間に渉って持続していて、失業、経済的苦境、労働障害の増加と関連している』
どうですか?新型コロナは大した病気ではないどころか、とんでもない経済的損失を世界的に引き起こしている病気ですよ。「新型コロナはインフルエンザ程度」などと言っている人たちには、正しい知識を持っていただきたいものです。

Long COVID, defined by symptoms persisting three months post-SARS-CoV-2 infection, presents a significant global health and economic challenge, with global prevalence estimated at 36% (ranging from 1–92%). This brief communication consolidates current knowledge on its economic impacts, including m...

新型コロナ感染後によくみられる後遺症症状として持続的な疲労がありますが、これが小児や若年者でどうなのかについてはあまりよく分かっていません。この点についてイギリスの研究グループが調査を行い、その結果をScientific Reportsに発...
26/11/2025

新型コロナ感染後によくみられる後遺症症状として持続的な疲労がありますが、これが小児や若年者でどうなのかについてはあまりよく分かっていません。この点についてイギリスの研究グループが調査を行い、その結果をScientific Reportsに発表しています(https://www.nature.com/articles/s41598-025-24868-x)。

この調査では、登録時に11歳から17歳で、感染後3、6、12、24か月の追跡調査に回答した新型コロナ感染経験者を対象としています。疲労はチャルダー疲労尺度(CFQ、スコア範囲:0~11、4以上は臨床的症例を示す)および単一項目(疲労なし、軽度、重度の疲労)によって評価しました。その結果、被験者943名のうち、581名(61.6%)が追跡期間中に少なくとも1回は強い持続的な疲労感を経験していました。症例経験者(未経験者と比較して)の割合は、女性のほうが男性より多めであり(77.1% vs. 54.4%)、年齢が高い傾向があり(平均年齢15.0歳 vs. 13.9歳)、感染後3ヶ月経っても後遺症症状を有していた人(35.6% vs. 7.2%)で高くなっていました。持続的な疲労感を持つ人の割合は、時間が経っても減らず、むしろ、感染後3ヶ月の35.0%から24ヶ月の40.2%に増加していました。図を見るとわかりますが、訴えた症状を多かった順に示すと、1.休息時間がもっと必要、2.エネルギーが不足、3.眠い、ぼーっとする、4.集中力不足、5.物事を始められない、6.発語の際に適当な言葉が見つからない、7.言い間違いしやすい、8.筋力低下、9.弱くなった、でした。

以上、新型コロナ感染後に見られる持続的な疲労は、イギリスの小児や若年者で多々見られ、感染後2年ぐらい持続するケースが多いことがわかります。ただし、これはアンケートによる回答を集めた研究結果であり、その点は考慮しないといけませんが、それを割り引いて考えても、11-17歳の年齢層では新型コロナの後遺症はかなりの割合で見られ、長く続くケースが多いと言えるでしょう。

イギリスは新型コロナの流行が非常に激しかったところであり、いまだに多くの子どもたちが、持続的な疲労感を含む後遺症症状で悩まされています。一方、日本では「子どもは新型コロナにかかっても大したことがない」などと言う人たちが結構多いのですが、是非、彼らにこのような深刻なデータを見てほしいものです。イギリスのこのような悲しい事例を「他山の石」として、日本では今後もきめの細かい感染対策を立てていくべきであると私は考えています。

今年はインフルエンザの流行が進み、私が普段ワクチン接種をお願いしているところの医師が言っておられましたが、大阪・高槻市ではこどもたちの間の流行がひどく、学級閉鎖が続々と起きているそうです。今年のインフルエンザ不活化ワクチンは、流行株と良く型...
26/11/2025

今年はインフルエンザの流行が進み、私が普段ワクチン接種をお願いしているところの医師が言っておられましたが、大阪・高槻市ではこどもたちの間の流行がひどく、学級閉鎖が続々と起きているそうです。今年のインフルエンザ不活化ワクチンは、流行株と良く型が合っていて効果が期待できそうなのですが、まだあまり多くの人たちが接種を終えていないようです。
ファイザーの研究チームが、mRNA型の新しいインフルエンザワクチンの効果について2つの論文を出しています。一つは臨床第二相試験の結果で、NEJM Evidenceに掲載されたもの(https://evidence.nejm.org/doi/full/10.1056/EVIDoa2500087...)、もう一つは臨床第三相試験の結果で、New England Journal of Medicine(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2416779)に掲載されています。
前者は第二相試験で中間段階のもの、後者のほうが第三相試験の結果なので、後者のほうを紹介しましょう。新しいワクチンのことをmodRNAワクチンと呼んでいます。この第3相試験では、18-64歳までの健康な成人18,476人を、2022~2023年のインフルエンザシーズン中に、米国、南アフリカ、フィリピンで、4価modRNAインフルエンザワクチン(modRNA群)または承認済みの不活化4価インフルエンザワクチン(対照群)のいずれかに無作為に割り付けて(=modRNAワクチン接種群9,225人、対照ワクチン接種群9,251人)、インフルエンザ様疾患を伴うインフルエンザと診断された人の割合の減少率を比較しています(ワクチン接種後14日以上経過した時点)。また、ワクチン接種後7日以内の反応原性、1か月間の有害事象、および6か月間の重篤な有害事象についても評価しています。
その結果、新しいmodRNAワクチンは、既存のワクチンと少なくとも同等かそれ以上の感染予防効果を示しました。両ワクチン群ともに、接種直後に軽度または中等度の副反応が認められ、この傾向はmodRNA群のほうが強めでした(局所反応全体、70.1% vs. 43.1%、全身性イベント全体、65.8% vs. 48.7%)。発熱は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%にみられ、有害事象プロファイルは両群で同様でした。
以上、新しいmRNAインフルエンザワクチンは、既存のインフルエンザワクチンと同等かそれ以上の効果を示し、接種直後の副反応は既存のものよりも強めであるものの、全体の有害事象プロファイルは同様でした。
mRNAワクチンは新しい型に合わせて迅速かつ安価に作ることができることから、いずれはインフルエンザワクチンにおいてもmRNA型のワクチンが主流を占める可能性が高そうです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2416779

Influenza remains a major health burden despite the use of licensed vaccines. Nucleoside-modified messenger RNA (modRNA) influenza vaccines have shown promising immunogenicity against influenza and...

現在、2025-2026年の新型コロナワクチンとして用いられているJN.1系統LP8.1株対応ワクチンは現在流行中の変異株やその周辺のものに対してどのぐらいの効果があるのでしょうか?この点、ドイツの研究グループが42名の医療従事者(年齢中央...
26/11/2025

現在、2025-2026年の新型コロナワクチンとして用いられているJN.1系統LP8.1株対応ワクチンは現在流行中の変異株やその周辺のものに対してどのぐらいの効果があるのでしょうか?
この点、ドイツの研究グループが42名の医療従事者(年齢中央値57歳、男性18%、新型コロナワクチンを平均6回接種済み、83%が少なくとも1回は新型コロナ罹患歴あり)に対して新しいワクチンを接種し、果たして種々の変異株に対して中和抗体がどのぐらいできたのか、調べました。専門誌Lancet Infectious Diseasesオンライン11月21日号に載った結果です。
その結果、新しいワクチンは調べられたほとんどの変異株に対して高い中和抗体価を作ることができていました。特に、ヨーロッパで流行中のXFG株と日本で流行中のNB1.8.1株に対しては高い中和抗体価を誘導していました。一方、過去に少しだけはやったBA.3.2.2株に対しては中和抗体価が低めでした。
中和抗体価は感染予防と密接に関連したパラメーターなので、このデータから考えると、今年の新型コロナワクチンは一定の感染予防効果を持つものと考えられます。今回の調査では重症化予防に必要なT細胞活性化については調べられていませんが、これまでのすべてのワクチンがT細胞活性化については良い結果をもたらしていることを考えると、重症化予防効果についても良く保たれていると思います。
私はひとに会う機会が多いことから、すでに約2週間前このワクチンの接種を済ませています。

26/11/2025

出産経験、授乳経験のある人では、未出産、未授乳の人たちと比べて乳がんのリスクが低く、特に母乳で子どもを育てた人たちではトリプルネガティブ乳がん(=乳がん細胞の増殖に関わる「エストロゲン受容体」、「プロゲステロン受容体」、「HER2」の3つのタンパク質がいずれも陰性のがん;ホルモン療法やHER2を標的とする分子標的薬が効かず、再発リスクも比較的高く、予後が悪いとされる)のリスクが下がるのですが、どうしてそうなるかについてはよくわかっていませんでした。

Natureの最新号に、オーストラリアの研究グループが「出産、授乳経験のある女性では乳房内に特定のタイプの T細胞が増え、それが30年以上も乳房にとどまり、これとともに乳がんリスクが低くなる」ということを示しています。

この研究によると、出産経験のある女性の乳房組織では、未出産の女性と比較して、上皮内または乳管周囲領域に CD8陽性の組織常在メモリー T (TRM) 細胞という特定のタイプの免疫細胞の数が増加していました。驚いたことに、このTRM細胞は乳房内で 30 年以上も維持され、細胞の位置決めに大事なITGAE、ITGA1、CXCR6 などの特定の遺伝子を発現していました。マウスの実験モデル(乳がん細胞を乳房内に注入してその後の腫瘍増殖度を調べるというモデル)では、妊娠、授乳、退縮の 28 日後では、出産経験のないマウスと比較して、がん細胞の増殖が少なく、一方、この時にCD8陽性T細胞を欠損させるとがん対する保護効果が消えました。ヒトにおいても、出産経験のある女性にトリプルネガティブ乳がんが出来た場合には、未出産の女性と比べて、多くのT細胞ががんの中に浸潤していて、臨床的な予後が良い傾向がありました。

以上、「出産、授乳経験のある女性では乳房内にCD8陽性の組織常在メモリー T (TRM) 細胞という特定のタイプの免疫細胞が増え、それが30年以上も乳房にとどまり、これとともに乳がんリスクが低くなる」とのことです。マウスの実験モデルでは確かにこのようなT細胞が存在すると、がんが増えにくく、がんに対する免疫反応が起きていることが示唆されています。ただし、このTRM細胞がどのようにしてがんのリスクを下げているのかについては不明で、これについては今後の解析が必要です。

Parity and breastfeeding reduce the risk of breast cancer, particularly triple-negative breast cancer (TNBC)1,2, yet the immunological mechanisms underlying this protection remain unclear. Here, we show that parity induces an accumulation of CD8+ T cells, including cells with a tissue-resident memor...

24/11/2025

子どもたちの新型コロナウイルス脳症とインフルエンザ脳症でどちらのほうが症状が重いのでしょうか?その比較をした論文が日本の研究グループから出ています。2017-2023年の間に7つの病院に入院した新型コロナ脳症患者29人とインフルエンザ脳症患者60人で比較しています。
その結果、両群の臨床的特徴はほぼ同じでしたが、退院時には小児脳機能カテゴリースコア4以上を示した患者の割合が新型コロナで37.9%、インフルエンザで16.7%と、明らかに新型コロナ脳症患者のほうが、回復が悪い(=予後が悪い)傾向がありました。
「子どもたちにとっては新型コロナはインフルエンザ程度、どんどん罹ったらいい」などと乱暴なことを言う人が居ますが、このデータを見たら、そんなことは言えませんよね。そもそも誰がコロナ脳炎に罹るのかわからず、罹った時には明らかにインフルエンザより悪いのですから。

アメリカの研究グループが、2024-2025年版の新型コロナワクチン、RSVワクチン、インフルエンザワクチンの効果と安全性について、これまでの論文を精査しています。その結果は次のようで、いずれのワクチンも有効であり、安全性も保たれているとの...
22/11/2025

アメリカの研究グループが、2024-2025年版の新型コロナワクチン、RSVワクチン、インフルエンザワクチンの効果と安全性について、これまでの論文を精査しています。その結果は次のようで、いずれのワクチンも有効であり、安全性も保たれているとのことです。
1.新型コロナXBB.1.5亜変異株に対するmRNAワクチンの入院に対するワクチン有効性は、成人ではコホート研究で46%、症例対照研究で50%、免疫不全状態の成人では37%といずれもまあまあの結果でした。
2.母親へのRSVワクチン接種(乳児予防のため)、乳児に対する抗RSV抗体製剤ニルセビマブ投与、および60歳以上の成人に対するRSVワクチンは、いずれも入院に対するワクチン有効性が68%以上であり、良い結果でした。
3.インフルエンザワクチンの入院に対する統合ワクチン有効性は、18歳から64歳までの成人では48%、小児では67%でした。
4.ワクチンの安全性は、これまでどおりで、新型コロナワクチン接種後の心筋炎の頻度は、青年期の男性で10万回接種あたり1.3~3.1件で、接種間隔が長いほどリスクは低下していました。RSVpreFワクチンは、高齢者において100万回接種あたり18.2件のギラン・バレー症候群の過剰発生がありましたが(=ギラン・バレーがやや多めに出るかもしれないが)稀であり、妊娠32~36週でワクチンを接種した場合、早産との有意な関連は認められませんでした。

SNSでは相変わらず反mRNAワクチンの人たちが上記のワクチンについていろいろ言っていますが、上に示したデータは世界中の論文を総合的に解析した結果得られたものです。どちらが正しいかは、私から見ると明らかだと思いますが…。

Changes in the vaccine advisory process in the United States have disrupted immunization guidance, which reinforces the need for independent evidence review to inform decisions regarding immunizati...

今回はちょっと難しい話で、分子生物学の知識が少し無いと理解が難しいかもしれません。遺伝病の約1割は、遺伝子のナンセンス変異によるものであると言われています。ナンセンス変異というのは、特定の遺伝子においてセンスコドン(普段は正常に読まれるべき...
21/11/2025

今回はちょっと難しい話で、分子生物学の知識が少し無いと理解が難しいかもしれません。

遺伝病の約1割は、遺伝子のナンセンス変異によるものであると言われています。ナンセンス変異というのは、特定の遺伝子においてセンスコドン(普段は正常に読まれるべきコドン:アミノ酸をコードする塩基3個の組合せ)が変異のために未成熟終止コドン(premature terminal codon; PTC)に変わることです。そのために、その遺伝子ではmRNAが途中までしか読まれず(翻訳が途中で終了してしまい)、その産物である特定のタンパク質の構造が異常となるためにうまく機能せず、結果的に特定の遺伝性疾患が発症することになります。

例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーではジストロフィン遺伝子でこのようなことが起きていて、筋肉の構造維持に必要なタンパク質であるジストロフィンに異常が生じ、そのために進行性の筋力低下が現れてきます。他にも、遺伝病としては有名な(少なくとも医学生や医師にとってはよく知られている(はず)の)嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、βサラセミア、神経線維腫症1型や、さらにはある種のがんにおいても、ナンセンス変異のために特定のタンパク質が異常になり、病気が起きることがわかっています。

今回、このナンセンス変異を修復する方法が新しく考案され、PTCを読ませないようなサプレッサー・トランスファーRNA(stRNA)というものを人工的に細胞内で作らせ、このstRNAによってPTCを機能しないようにさせる、ということが可能になってきました。最新号のNatureに載った論文です(https://www.nature.com/articles/s41586-025-09732-2 )。

この方法を用いると、まだ完全ではないのですが、目的とするタンパク質でしかるべき機能を持つものが一部、体内で作られるようになり、マウスの遺伝病モデルにおいては明らかな症状の軽減、改善がもたらされています。ただし、これをヒトに応用するためには、今後、PTCの抑制効率やその特異性、それと安全性の評価などが問題となってきます。

このようにまだ問題はあるものの、上記のナンセンス変異による病気では通常たった一つの遺伝子の異常によるものであり、PTCの機能を特異的かつ効率良くストップさせることができれば、かなり効率的な治療法となる可能性があります。ゴールは割にすぐそこにあるのかもしれません。ナンセンス変異による治療がなんとか可能になって欲しいものです。

潰瘍性大腸炎は、大腸に起きる炎症性疾患です。もう一つの腸管の炎症性疾患であるクローン病とともに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)と総称されます。潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍が...
21/11/2025

潰瘍性大腸炎は、大腸に起きる炎症性疾患です。もう一つの腸管の炎症性疾患であるクローン病とともに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)と総称されます。

潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍が見られます。主な症状は、血便、下痢、腹痛や疲労感などです。良くなったり悪くなったりして、繰り返す傾向があります。病気の原因は不明ですが、遺伝的要因や環境要因に加えて、自己に対する炎症が起きて組織が傷害されていることから免疫異常が関わっていると考えられています。

潰瘍性大腸炎の患者は日本だけで推計30万人で、最近、患者数が増えつつあります。若年者から高齢者まで広く発症し、男女比はおよそ1:1で性差が見られません。

潰瘍性大腸炎がなぜ起きるのか、中国の研究グループが非常に面白い論文を最新号のScienceに発表しています(https://www.science.org/doi/10.1126/science.adz4712)。彼らは潰瘍性大腸炎の患者の大腸粘膜では病変がない部分であってもマクロファージ(異物を食べる免疫細胞の一種)が激減していることに気づき、これがこの病気の原因と関係あるのではないかと考えました。患者の糞便献体を調べると、エロモナス属のグラム陰性桿菌の中でも特にaerolysin(エロライシン)という毒素を作るタイプのものが増えていて、調べてみると、この毒素はマクロファージを選択的に殺す能力がありました。

これらのことから、この研究グループは、大腸粘膜でエロモナス菌が増えると毒素を作ってマクロファージを殺し、これが潰瘍性大腸炎を悪化させているのでは?というシナリオを考えました。そこで、予め実験的に腸炎を起こしたマウスに、この細菌を投与したところ、腸炎が明らかに悪化しましたが、人工的にこの毒素を作らないようにしたエロモナス菌の投与では腸炎の状態は変わりませんでした。また、この細菌が作る毒素エロライシンに対する抗体を投与したところ、マウスでは腸炎が良くなり、エロライシンが炎症の悪化に関わっている可能性が考えられました。上で述べたように、潰瘍性腸炎患者の大腸では確かにエロモナス菌が増えていて、大腸粘膜には毒素エロライシンが存在していることが確認されました。それと面白いのは、この毒素産生性エロモナス菌は、通常、マウス大腸には棲みつけないのですが、抗生物質投与をすると棲みつけるようになるのだそうです。人間では、抗生物質投与により腸内細菌叢が乱れ、これが潰瘍性大腸炎のリスクが上がるのではないかとも言われていますが、興味深いことです。

以上のことは、潰瘍性大腸炎ではこのエロモナス菌が毒素を作りマクロファージを殺し、これが大腸粘膜病変の悪化につながっているのかもしれないという仮説を支持するものです。これが正しければ、エロモナス菌やその毒素が潰瘍性大腸炎の新しい治療標的となるかもしれません。非常に面白い知見だと思います。

住所

長野県上田市大手2-1/5
Ueda-shi, Nagano
386-0024

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