一般社団法人信州上田みらい塾

一般社団法人信州上田みらい塾 宮坂昌之(大阪大学免疫学フロンティア研究センター・招へい教授、大阪大学名誉教授)が代表理事です。医学健康情報の発信を行います。

オメガ3脂肪酸とは、EPA, DHA, αリノレン酸などの不飽和脂肪酸の総称で、青魚(サバ、イワシ)やアマニ油、えごま油などに豊富に含まれ、血液をさらさらにするとか脳機能の維持に役立つとか言われ、しばしばサプリメントとして使われています。オ...
04/05/2026

オメガ3脂肪酸とは、EPA, DHA, αリノレン酸などの不飽和脂肪酸の総称で、青魚(サバ、イワシ)やアマニ油、えごま油などに豊富に含まれ、血液をさらさらにするとか脳機能の維持に役立つとか言われ、しばしばサプリメントとして使われています。

オメガ3脂肪酸の血液や循環器系への効能については、これを確認するしっかりとした臨床試験結果があるのですが、脳機能や認知機能への影響については改善するという結果はランダム化臨床試験では、私が知る限り、出てはいないと思います。

中国の研究グループがこの点について詳細に調べ、専門誌Journal of Prevention of Alzheimer’s Diseaseに発表しています(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2274580726000932)。

調査対象となったのは「アルツハイマー病神経画像イニシアチブ」というデータベースに記録されている人たちです。対象になったのは、55-90歳で(1)認知機能が正常な高齢者、(2)記憶障害が著しい人たち、(3)軽度認知障害(MCI)あるいはアルツハイマー病の診断を受けた人たちで、これらの人たちをオメガ脂肪酸摂取者と非摂取者に分けて、認知症の進行の度合いに関して違いがあるのか、調査が行われました。認知症検査として行われたのは、主に(1)MMSE検査(認知症の疑いがある際に記憶力や見当識、計算力などを11項目・30点満点で客観的に評価する簡易検査、点数が低いほど認知力が低下していると判断される)、(2)ADAS-Cog13(アルツハイマー病の認知機能障害を13項目で評価する国際的な指標で、点数が高いほど障害が重いことを示す)、(3)CDR-SB検査(認知症の重症度を6項目(記憶、見当識、判断力、社会生活、家庭生活・趣味、介護)で評価し、点数が高いほど障害が重いと判断される)でした。

その結果、驚いたことに、用いられた3つの検査結果はいずれも同様であり、『オメガ3摂取者のほうが非摂取者に比べて認知症の進行が早い』という結果でした。調べてみると、この変化は、脳におけるアミロイドβ沈着、タウ凝集や灰白質の萎縮とは関連しておらず、むしろ脳実質におけるグルコース代謝の低下と関連していて、このことから神経細胞死よりもシナプスの機能低下が認知力低下の根底にある可能性が示唆されました。

以上、オメガ3脂肪酸摂取では認知力向上(あるいは維持)にはつながらず、むしろ認知力低下を早める可能性があるという結果でした。ただし、これはいわゆる観察研究なので、これが因果関係を示しているかどうかはわかりません。しかし、用いられた3つの検査において「非摂取者よりも摂取者のほうに認知力低下が早く見られていた」という同様の結果であったということは、因果関係は別にしても、注目すべきことだと思われます。

世の中で販売されているサプリメントのうち、大規模な臨床試験などは行っているものは非常に少なく、多くのものはメーカーが関連した小規模な研究によるデータに依存しています。オメガ3脂肪酸に関しては、血液や循環器系に対しては良い効果があるという臨床試験の結果はあるのですが、認知症に対しては今回のものが初めてであるようです。そして、その結果は実ははかばかしいものではなかった、ということです。

サプリメントを摂る、摂らないは個人に任されていることですが、薬効に関して科学的根拠が示されていないサプリメントについては、どうもその使用に気をつけたほうが良さそうです。

昨日のNHKテレビの番組で、タモリと山中先生が「がん克服のカギ」という番組をやっていましたが、そこでは「運動が癌のリスクを30%も減らす」、「がん克服には運動が大事」とのことで、これはまさに、かねてから私が信州上田みらい塾の講義で話している...
03/05/2026

昨日のNHKテレビの番組で、タモリと山中先生が「がん克服のカギ」という番組をやっていましたが、そこでは「運動が癌のリスクを30%も減らす」、「がん克服には運動が大事」とのことで、これはまさに、かねてから私が信州上田みらい塾の講義で話していることでもあり、私自身、大いにうなずきながら視聴しました。

この番組ではある論文を引用して、運動の重要性を強調していましたが、この論文については私のポストで紹介していなかったので、ここでお示ししましょう。

これは、カナダの研究グループが2009-2024年の間、合計55の医療施設で行った第三相ランダム化比較試験(=新しい治療法の有効性と安全性を標準療法と比較し、薬事承認を得るための最終試験)の結果です。2025年6月に専門誌New England Journal of Medicineに論文が発表されました(https://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa2502760)。

大腸がんのステージ2のハイリスク(深達度、低分化がん、リンパ管・静脈侵襲、神経周囲侵襲、術前高CEA、腸閉塞・穿孔などの再発危険因子を1つ以上有する状態)群やステージ3(がんが腸管壁を超えて周囲のリンパ節に転移している状態、しかし遠隔転移なし)群では、手術と化学療法を組み合わせても20-40%の人に再発が見られることが知られています。この時にこれらの治療法に運動を組み入れると、がんの再発・死亡率がこれまで低下するという報告が二、三ありましたが、いずれも小規模な調査でした。そこで、カナダの医療施設で化学療法を終えた大腸がんのステージ2ハイリスク患者およびステージ3患者に対して、運動がどの程度の効果を持つのか、臨床第三相試験が行なわれました。

患者は、運動の重要性について3年間講義を受けた群(444名)ともう一つは講義だけではなくて実際に運動療法を3年間受けた群(445名)に二分され、それぞれの群において、その後の無病生存率(再発や二次がんがなく、病変が検出されない状態で生存している人の割合)と全生存割合(治療開始日から、死因に関係なく「死亡」するまでの人の割合)について調査が行われました。

その結果、教育+運動群では教育だけの群に比べて、無病生存のハザードが0.72とリスクが約3割減っていました。この差は運動療法を開始してから1年後あたりからはっきりと見られるようになり、その後10年間でその差が次第に大きくなっていました。運動群では教育だけの群に比べて肝転移の割合が半減していて、運動はがんの転移に対しても効果があることがうかがわれました。一方、死因を問わない全生存を見ると、運動群では8年生存のハザードが0.63とリスクが約4割減っていました。

以上のことから、化学療法後に開始した3年間の体系的運動プログラムを受けることによって、無病生存期間、全生存期間ともに有意に延長していました。運動の量にしてみると、これはこれまでの運動の上に、週3-4回、45-60分の早足歩きをするということだそうです。

これまで言われてきた通り、運動療法は大腸がんの再発防止と新たながんの発症防止に有効であるということが確認されました。

以前のことですが、新型コロナウイルスに感染した時にどのような免疫反応が起きるのかを明らかにする目的で、イギリスで人チャレンジ実験が行われたことについてフェイスブックに紹介しました(https://www.facebook.com/masay...
02/05/2026

以前のことですが、新型コロナウイルスに感染した時にどのような免疫反応が起きるのかを明らかにする目的で、イギリスで人チャレンジ実験が行われたことについてフェイスブックに紹介しました(https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid02Y6VQXxH8p7QSw3k5t5mp7WnBciTyjDVsnEq8SRB2ooUbZs3QH1DWsLVVg3eUnxcjl)。

図の左半分に示すように、この試みでは34名の若年ボランティアに対して一定量の新型コロナウイルスを点鼻し、その後の体内のウイルス量、抗体量、T細胞の活性化の変化などを調べました。その結果、驚いたことに、直接ウイルスが鼻の中に注入されたにもかかわらず、約半分の18名が感染しただけで、残りの16名では感染が成立せず、まったく症状が出ませんでした。さらに調べてみると、感染しなかった16名のうち、5名では、鼻腔あるいは咽頭でウイルスが一過的に検出されたものの感染は途中で止まってしまい、11名ではまったくウイルスが検出されませんでした。これらの人たちの血液を調べてみると、感染した人たちに比べて、NK細胞やT細胞の活性が高く、抗体の関与なしに、これらの細胞の働きによって感染が不発に終わったことが示唆されました。これらの人たちのT細胞は新型コロナウイルス以外のコロナウイルスに対しても反応性が高く、以前にこれらのウイルスあるいはそれとよく似たウイルスによって感染を起こして交差反応性のT細胞が出来ていて、これがウイルス排除に働いた、と推測されました(https://www.nature.com/articles/s41467-025-67017-8)。

これまで教科書的には、ウイルスに対する初期防御は樹状細胞、マクロファージや好中球などの自然免疫細胞によるもの、一方、後期防御はT細胞やB細胞が関わり、特に抗体がウイルスの排除、キラーT細胞が感染細胞を排除に働く、と考えられていたのですが、過去に新型コロナウイルスあるいはそれと似たウイルスに感染経験のある人では交差反応性のT細胞が出来ていて、これが抗体の関与なしに、ウイルスの排除に働くことがあるようです。
このようなことを考慮した上での新しい知識では、次の3つの可能性が考えられます。
(1) 予めウイルスに対する抗体が十分に存在していた時には、いわゆる殺菌免疫が働いてウイルス感染は起こらない。
(2) 以前に同じウイルスあるいは似たウイルスによる感染経験があるとメモリーT細胞が出来ていて、それがタイミング良く働くと、初期段階でウイルスが排除され、不発(あるいは不稔)感染となる。
(3) そのような免疫を超えるほどのウイルスが侵入してきた時にはウイルスがどんどん増え、いわゆる増殖感染あるいは生産的感染が起こり、感染が成立し、病気が発症し、免疫がうまく働くと、やがて感染が終息する、
ということになります。

これまでの知識では、T細胞は感染後のウイルス排除に働くとだけ考えられていましたが、図の右側にあるように、同じようなウイルスが日常的に飛び交っているような社会では感染したことを覚えているメモリーT細胞が出来ていて、それが一定数以上ある場合には「不発感染(不稔感染)」ということを起こしてくれる、と考えてよいと思います。つまり、ウイルスが体内に飛び込んできたからといって、感染が起きるわけではありません。からだに存在する免疫の力との相対関係によって感染が起きたり起きなかったりします。その際には、抗体だけではなくて、T細胞も、感染の成立において重要な役割をします。

このように、免疫学の知識は日々新しくなっていきます

最近、抗糖尿病薬のセマグルチドが肥満症の治療にも有効に使われていますが、さらにアルコール使用障害の治療にも有効らしいという報告があります。セマグルチドは、遺伝子工学技術を用いて生産されるペプチド医薬品で、GLP-1(インスリン分泌を促進し、...
01/05/2026

最近、抗糖尿病薬のセマグルチドが肥満症の治療にも有効に使われていますが、さらにアルコール使用障害の治療にも有効らしいという報告があります。

セマグルチドは、遺伝子工学技術を用いて生産されるペプチド医薬品で、GLP-1(インスリン分泌を促進し、食欲を抑制するホルモン)と同様の作用を持つことから、GLP-1受容体作動薬として分類されます。代表的な商品として、注射薬のオゼンピックやウゴービ、経口薬のリベルサスなどがあります。いずれも体内ではGLP-1受容体に働いて、血糖管理や体重減少に対して高い治療効果を示します。GLP-1は全身のさまざまな細胞に発現し、特に脳の報酬系(側坐核や腹側被蓋野)にも発現していることから、セマグルチドがこの部位のGLP-1受容体にも働いて、快楽をもたらすドーパミンの過剰分泌を抑制する可能性があり、アルコールの使用障害やニコチン依存症の治療にも有効である可能性が指摘されていました。

最新号のLancetに、デンマークで、BMI 30以上の肥満者でアルコール使用障害のある人108名に対して、セマグルチドあるいはプラセボを週に1回 2.4 mg、26週間投与し、二重盲検ランダム化試験を行った結果が報告されています(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(26)00305-3/fulltext)。

結果は明らかで、セマグルチド投与は体重減少に有効であるだけでなく、アルコール使用障害の治療にも有効であることが、二重盲検ランダム化試験によってはじめて確認されました。有害事象は一過的で、軽度から中等度の消化器症状が主であり、大きな問題はありませんでした。

この臨床試験ではメカニズムの検討は行っていませんが、これまで言われているように、セマグルチドが、脳の報酬系のGLP-1受容体に作用して、快楽をもたらすドーパミンの過剰分泌を抑制し、過剰な飲酒を防ぐのに寄与している可能性が考えられます。もしそうであれば、セマグルチドは他のタイプの依存症(ex. ニコチン依存症、性依存症[強迫的性行動症] etc)にも効果がある可能性があります。今後のさらなる研究の進展が期待されます。

食べること(摂食)と免疫力の間にはどのような関連があるのでしょうか?これに関して、英語では “Feed a cold, starve a fever”(風邪には食事を、熱には食事を控えろ)という言い伝えがあります。風邪を引いたときはしっかり...
01/05/2026

食べること(摂食)と免疫力の間にはどのような関連があるのでしょうか?これに関して、英語では “Feed a cold, starve a fever”(風邪には食事を、熱には食事を控えろ)という言い伝えがあります。風邪を引いたときはしっかり栄養を摂るべきだが、熱があるときは消化にエネルギーを使わず、体を休めるために食事を控えるべきだ、ということです。

一般に、からだに侵入してきたウイルスや細菌を追い払うためには、免疫の力が必要です。特に、その主役であるT細胞の活性化には、エネルギーが必要であることが知られています。

アメリカの研究グループが、食事がT細胞の機能にどのぐらい影響するのかについて詳細に解析し、その結果をNatureに報告しています(https://www.nature.com/articles/s41586-026-10432-8 )。

具体的には人やマウスで、12時間絶食後に摂食し6時間後にT細胞を採取し、絶食時のT細胞とその機能を比較するということをしています。すると、次のことがわかってきました。
(1) 摂食後のT細胞は、絶食中T細胞に比べて、細胞内へのグルコースの取込み、脂肪の蓄積、ミトコンドリアのサイズなどが上回っていた。
(2) 摂食後のT細胞は、絶食中のT細胞に比べて、活性化をする際にIFNγ や TNF などのサイトカイン産生が高かった。
(3) マウスでは、摂食後のCD8 T細胞は、絶食中の CD8 T細胞に比べて、活性化の際に好気性代謝、解糖能力や増殖能力が高かった。
(4) マウスの実験的感染モデルでは、摂食後に回収したT細胞は、絶食中のT細胞に比べて、感染を防ぐ能力が高かった。
(5) ヒトのがん免疫の際に使うCAR-T細胞は、摂食後に明らかに強い抗がん作用を発揮した。
(6) 以上の傾向は脂質の多い食事の時に顕著に見られ、血清リポ蛋白質であるカイロミクロンがT細胞刺激能力を持ち、T細胞でmTOR経路を活性化することによって、T細胞機能を強めていた。
以上、まとめると、『摂食によって血中で増えてくるカイロマイクロン(=食事から摂取した脂質を小腸で吸収して全身へ運搬するリポタンパク質)がT細胞に対して脂質を提供し、これによってT細胞の代謝がリプログラミングされて、T細胞の機能が強化される』というシナリオが明らかになってきました。

これはすなわち、『食事はT細胞の機能強化に重要である』ことを意味しています。もしかすると、”Feed a cold(風邪には食事を)”の根拠の一つがここにあるのかもしれません。

最近、B型肝炎の治療に核酸アナログ製剤(エンテカビルやテノホビルなど)がよく使われますが、これにより肝機能が改善し、ウイルス抗原(HBsAg)が大きく低下はするものの、一方で、肝細胞の核内にはいわばウイルスの設計図ともいうべきcccDNAが...
30/04/2026

最近、B型肝炎の治療に核酸アナログ製剤(エンテカビルやテノホビルなど)がよく使われますが、これにより肝機能が改善し、ウイルス抗原(HBsAg)が大きく低下はするものの、一方で、肝細胞の核内にはいわばウイルスの設計図ともいうべきcccDNAが居続けるために、投薬をやめると再びウイルスが作られるようになります。このために必然的に治療が長期化するのですが、それでも肝がんの発生をゼロには出来ないという問題点がありました。
これに対して、核酸アナログ製剤を中止して観察を続けると、実は4分の1以上の患者で免疫反応が働いてウイルス抗原が完全に消失することがわかってきました。そこで、アメリカの研究グループが、B型肝炎ウイルス感染のために慢性肝炎となり核酸アナログ製剤投与を受け続けている人たち76名(主にアジア系)に対して、薬剤投与中止をして、その後の体内のウイルス量の変化とともに免疫細胞がどのように変化をするのか、詳細に調べました(https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adx1523)。
その結果、核酸アナログ製剤投与を中止すると一時的にウイルス量やALTを含む逸脱酵素(肝臓に破壊されたときに漏れ出す酵素)が増えるのですが、約半数の人たちではウイルスに対する免疫が回復してきて、B型肝炎ウイルス抗原が長期的にゼロとなり、体内からウイルスが完全に消失していました。
これらの人たちとウイルス抗原が残存したまま消えなかった人たちを比べると、前者では血液中で樹状細胞(cDC2)やCD4 T細胞の数が後者に比べて有意に多く、一方、ウイルスを殺すはずのCD8 T細胞の割合はあまり変わっていませんでした。また、単細胞レベルでの解析を行うと、ウイルス抗原完全消失群ではCD8 T細胞も活性化されていて、CD8 T細胞も良く機能していることが確認されました。
そこで、マウスのB型肝炎感染モデルを用いて感染防御のメカニズムを調べてみると、人間で見られた結果とほぼ同様で、ウイルス防御には予想通り、樹状細胞とCD4 T細胞の働きが重要であり、CD4 T細胞の働きを介してCD8 T細胞が働いていると考えられました
以上、B型肝炎ウイルスの排除には、樹状細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞の働きが重要であり、特にCD4 T細胞が中心的な役割を果たすことがわかりました。
一方、B型肝炎の治療に核酸アナログ薬の投与は有効なのですが、長期的使用が必要となります。これは「核酸アナログ製剤が火事(炎症)を鎮めて家(肝臓)が壊れるのを防いではいるものの、火種(cccDNA)を完全に除去はできないので、やむを得ず患者の長期的な見守りが必要になる」ということでもあり、完全治癒をもたらすのは難しいということになります。これに対して、上記のごとく、慢性肝炎患者でも約半数にはウイルスを完全に追い出せるだけの免疫が残っていて、特に樹状細胞とCD4 T細胞が働いてCD8 T細胞を活性化し、このような「合わせ技」によって薬剤投与なしにウイルスの免疫学的な排除が可能である、ということが今回、確認されました。
今後、新しいB型肝炎治療の方法として、CD4 T細胞の活性化をもたらす薬剤やワクチンの開発が期待されます。

ちょっと難しい話です。私たちの細胞表面にはMHC(ヒトではHLA)と呼ばれる分子が発現しています。細胞がウイルス感染したりがん化したりすると、細胞の表面で「ウイルスの断片」あるいは「がん細胞の抗原」をHLA分子の上に載せて、「これが異物です...
30/04/2026

ちょっと難しい話です。私たちの細胞表面にはMHC(ヒトではHLA)と呼ばれる分子が発現しています。細胞がウイルス感染したりがん化したりすると、細胞の表面で「ウイルスの断片」あるいは「がん細胞の抗原」をHLA分子の上に載せて、「これが異物ですよ」と免疫細胞(T細胞)に対して提示する分子です。HLAには主に二つのクラスがあり、HLAクラスⅠ分子で少なくとも3種類、HLAクラスⅡ分子で少なくとも3種類発現し、個々人でその組み合わせが異なります。このために、個人ごとに異なるMHC分子が発現していて、お互いに同一のHLA分子を発現する人は何万人に一人という低い確率です。つまり、HLAは非常に多様な分子群からなり、個人の目印としても機能します。

このHLA分子は、長い歴史の中で感染症やがんなどの病気によって自然選択され、地域ごとの偏在が生まれてきたと考えられています。たとえば、マラリアや結核が流行し続けている地域では、これらの感染症に抵抗性を示すHLAを持つ人が相対的に増え、逆に、感受性を示す(=病気にかかりやすい)HLAを持つ人は少なくなっています。これは、抵抗性がある人が生き残り、感受性がある人が死ぬ傾向があるためで、このようなことが長い間続くとHLA発現にバイアスが生まれ、特定の地域で特定のHLA分子を持つ人が増えていたり、減っていたりするのです。ただし、このような自然選択は、起きるとしても何千年もの長い間のことである、とこれまでは理解され、免疫学の教科書にもそのように書かれてきました。

ところが、エイズのような致死性の高い病気が流行すると、このような自然選択がもっと早く起きるようであり、一方、ARTのような非常に有効な療法(複数の抗HIV薬を組み合わせる薬剤療法)が出てくると、感受性のある人が死ににくくなるので、このような自然選択のプロセスが急激に止まる、ということがわかってきました。エイズの流行がひどかった南アフリカのクワズール・ナタール州における解析結果で、アメリカ・ボストンの研究グループがアメリカ科学アカデミー紀要に論文を発表しています。

それによると、HIVに関する「疾患感受性」HLA遺伝子であるHLA-Bアレル(HLA-B*18/B*45:01/B*58:02)を持つ人ではHIVの進展を促進して垂直感染のリスクを増加させていましたが(オッズ比1.6)、一方で、防御性遺伝子である(HLA-B*57/B*58:01/B*81:01)を持つ人では予想通りにHIVの進展を遅らせて垂直感染のリスクを減少させていました(オッズ比0.57)。ところが、ART療法が用いられるようになると、このような傾向はほぼ消失していました。

これらのデータを用いて、クワズール・ナタール州におけるHIVウイルスがHLA-Bアレルの頻度に対してどのぐらいの影響を及ぼすのかシミュレーションをしてみると、1990年から2035年までの45年間においてもしART療法が存在しなかったと仮定すると、「保護的」HLA-Bアレルを持つ人の割合は23%から42%に増加し、「疾患感受性」HLA-Bアレルを持つ人の割合は28%から18%に減少すると予測されました。

つまり、エイズのような感染性と致死性の高い病気が特定の地域で大流行すると、その地域での人口構成がわずか数十年の単位で変化が起こることがあること、一方、ART療法のような有効な治療法が出てくると、その人口変化が大きく抑えられうること、などがわかります。

今まで免疫学の教科書に書かれていたことを書き直す必要がありますね。

MHC polymorphism is explained by natural selection driven by the MHC-dependent impact of certain infections, inflammatory conditions, autoimmune di...

かねてから、私はからだを動かすこと、特に頭部、頸部、上半身や下半身に順番にひねりを加えることが、脳からの老廃物の排出に有効であろう、それがひいては認知症の予防策として有効であろうとして、そのような運動を組み合わせた「脳洗い体操」を私のフェイ...
28/04/2026

かねてから、私はからだを動かすこと、特に頭部、頸部、上半身や下半身に順番にひねりを加えることが、脳からの老廃物の排出に有効であろう、それがひいては認知症の予防策として有効であろうとして、そのような運動を組み合わせた「脳洗い体操」を私のフェイスブックのサイトで紹介しています(https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid02roi6Hgt6pfmMMjB9ZHwKqc8SbBPU7ABeKekgpaGsWTZ2u9mL7c5u61jg29g6MLzAl)。この「脳洗い体操」では、体軸を中心に頸部、上半身、下半身を繰り返して回転させる(=捻る)ことによって胸腔圧や腹圧を一時的に変動させ、これによりリンパの流れを頭部から頸部を介して体幹部へと導こう、そしてそれを促進しよう、とするものです。

これに関連した話題です。最新号のNature Neuroscienceに腹筋運動や腹圧の変化によって脳内の体液移動が制御されていることが報告されています(https://www.nature.com/articles/s41593-026-02279-z)。アメリカの研究グループが、麻酔したマウスの頭部を二光子顕微鏡で持続的に観察するという方法を用いて、脳の微妙な動きを測定し、そこからシミュレーションにより脳内体液の動きを分析しています。

すると、確かに、わずかではあるものの、脳は確かに頭蓋内で物理的に動き(吻側方向と左右方向)、それは呼吸や心拍周期とは無関係であることが分かりました。さらに解析を進めると、この動きは主に腹筋の収縮や腹圧上昇によって引き起こされていました。腹筋収縮や腹圧の上昇によって、頸部の椎骨静脈叢が圧迫され、これにより脳脊髄液の流れや脳の動きが誘発されていて、椎骨静脈叢がいわば頭部と腹部の間の水圧を介した連結路となっていると考えられました。つまり、身体運動が間接的に血管系を介して脳を動かしていたのです。そして、シミュレーションをしてみると、この動きによって頭蓋内の間質液が脳内を通り抜けてくも膜下腔に移動していることが示唆されました。

以前から、間質液が脳内を通り抜けることが脳からの老廃物排出につながることがわかっていたので、このことは腹筋収縮や腹圧上昇が脳内にまで働いて、脳からの老廃物を含む間質液の移動を促す、ということを意味します。脳内間質液がくも膜下腔に移動すると、そこからは髄膜リンパ管が頸部リンパ節につながっているので、腹圧上昇によって脳内の老廃物を含む脳脊髄液がリンパ管を介して頭蓋内に排出されることになります。

私自身、毎朝10分ぐらいかけて上述の「脳洗い体操」をやっていますが、体操を終えると、明らかに頭がすっきりするとともに身体の動きが良くなることを自覚しています。私は、すぐにその後、道場に移動して剣道の朝稽古をしますが、そこで大きな気合いを出しながら稽古をすると、腹圧、胸腔圧が繰り返し上下するので、これもまさに脳内からの老廃物排出に良かろうと思っています。

今日は面白い論文を読むことができ、さらに、それが、かねてから私が考えていたことを支持するものなので、とてもすがすがしい気持ちです。皆さんにも是非、腹圧、胸腔内圧がかかるような、ご自分に合った運動をすることをお勧めします。

膵臓がんは、初期症状があまりないために見つかった時には進行しているケースが多く、5年生存率はわずか1割程度と他のがんに比べてきわめて低いのが現状です。これは一つには、すい臓が後腹膜臓器といって消化器系の臓器の中では一番背中側に位置しているの...
27/04/2026

膵臓がんは、初期症状があまりないために見つかった時には進行しているケースが多く、5年生存率はわずか1割程度と他のがんに比べてきわめて低いのが現状です。これは一つには、すい臓が後腹膜臓器といって消化器系の臓器の中では一番背中側に位置しているので、がんの早期発見が難しいためです。さらに、すい臓では「上皮間葉転換」といって、本来は細胞同士が密着しているはずの上皮細胞が、がん化とともに接着が緩くなり、極性を失って、移動・浸潤性の高い間葉系細胞へと性質を変える、という現象がしばしば見られます。このために周囲への浸潤や他臓器への転移が起きやすくなっています。

最近、このがんの上皮間葉転換を制御する機構としてネトリン1(Netrin 1)とその受容体であるネオゲニン(Neogenin)の存在が明らかになってきました。これとともに、抗ネトリン1抗体を投与すると、がんの上皮間葉転換が一定程度抑えられることもわかってきました。

そこで、フランスの研究グループが、この抗ネトリン1抗体をすい臓がんの化学療法に加えるとどのぐらい治療効果があるのか調べました。その論文がNatureに掲載されています。

臨床試験の対象となったのは、進行したすい臓がん患者43名です。第一相試験(Ib)なので、対照群は設けられておらず、観察研究となっています。すい臓がんでは、これまでにmFOLFIRINOXと呼ばれる4つの抗がん剤(オキサリプラチン、イリノテカン、レボホリナート、5-FU)を組み合わせた多剤化学療法が行われていますが、ここではそれに加えて抗ネトリン1抗体であるNP137の投与が行われました。

mFOLFIRINOXとNP137は隔週で、最大12サイクル投与されました。 驚いたことに、無増悪生存期間(がん治療において治療開始からがんが進行(増悪)または死亡せずに安定している期間のこと)の中央値は10.85ヵ月、全生存期間の中央値は16.43ヵ月と、これまでの治療に比べてかなり長くなっている印象がありました。また手術検体に対してマイクロバルクRNAシーケンス解析の結果、mFOLFIRINOXとNP137の併用療法によって上皮間葉転換に関する経路が著しく抑制されていたことがわかりました。がん細胞のネオゲニン(=ネトリン1受容体)の発現の程度で比べると、無増悪生存期間の中央値はネオゲニン高発現群で15.65ヶ月、ネオゲニン低発現群で10.22ヶ月と、ネオゲニン発現が高い群で生存期間が長くなっていました。一方、化学療法に加えて抗ネトリン1抗体投与をしても化学療法単独に比べて副作用が増えることはありませんでした。

これらの結果から、進行性すい臓がん患者では、ネトリン1阻害をすることにより、特にネオゲニン高発現すい臓がんにおいて上皮間葉転換が抑制され、化学療法に対する効果が高くなっていることが示唆されました。今後、臨床第二相試験が行われ、その結果がいずれ出てくるでしょう。先に述べたように、すい臓癌の治療法には現時点ではこれというものがなく、このような新しい治療法が開発されていくことが必要です。期待しましょう。

The Lap-NET1 phase 1b trial reports that combined netrin1 antibody (NP137) plus modified FOLFIRINOX therapy on patients with locally advanced pancreatic cancer was well tolerated and improved progression-free survival and overall survival via inhibition of epithelial–mesenchymal transition.

ドイツでは2023年4月から新型コロナワクチン接種が通常の医療に組み込まれ、公的医療保険の記録にも含まれるようになっています。このために、新型コロナワクチン接種の臨床的・経済的評価が可能となりました。ここでは、ドイツの研究グループが2022...
27/04/2026

ドイツでは2023年4月から新型コロナワクチン接種が通常の医療に組み込まれ、公的医療保険の記録にも含まれるようになっています。このために、新型コロナワクチン接種の臨床的・経済的評価が可能となりました。ここでは、ドイツの研究グループが2022年9月から2024年3月までの期間にザクセン州とテューリンゲン州で医療保険加入者である18歳以上の成人のデータを用いて、新型コロナワクチン接種の影響について調査を行ったところ、次のことが明らかになりました。

新型コロナワクチン接種を受けた人では、ワクチン非接種者と比べて、新型コロナ、呼吸器疾患や心血管疾患に関連する入院率が有意に低く、全死因死亡率と新型コロナ後遺症の診断件数も減少していました。その結果、ワクチン接種者ではワクチン未接種者と比べて医療費の削減と病欠日数の減少が見られました。このために、4ヶ月間の追跡調査期間だけを見ても、入院医療費で約100万ユーロ(=約1億8千700万円)、病欠による間接費で約130万ユーロ(=約2億4千300万円)減ったと推定されます。

以上、ドイツでは2023年以降の新型コロナワクチン接種により、新型コロナ患者だけでなく、他の呼吸器疾患や心血管疾患(そのかなりはおそらく新型コロナに続発して出てきたもの)による入院患者も減り、4ヶ月間で2億円近くの医療費削減につながった、と結論されています。今後より長期的な影響についてさらにデータが明らかになってくるものと思われます。

新型コロナワクチン接種に関しては、自分の見聞きしたことだけでなくて、よく周囲に目を広げて、他国ではどのような状況になっているのか、しっかりとした文献情報を得ることが大事です。ワクチン接種はゼロリスクではないものの、一方で、ドイツが一つの良い例ですが、はっきりとしたベネフィットも得られていることがわかります。

BACKGROUND Vaccinations against COVID-19 were integrated into routine care in Germany in April 2023. However, evidence of the impact of seasonal vaccination remains limited. AIM To assess the clinical and economic impact of COVID-19 vaccination in routine care during the early SARS-CoV-2-endemic pha...

アルツハイマー病に関する研究として有名なものにアメリカの「Nun Study」(尼僧院での研究)があります。ジョンス・ホプキンス大学の研究グループが、尼僧院のカトリック修道女が亡くなるたびに脳を調べて、その病理的変化と認知症の程度を詳細に調...
26/04/2026

アルツハイマー病に関する研究として有名なものにアメリカの「Nun Study」(尼僧院での研究)があります。ジョンス・ホプキンス大学の研究グループが、尼僧院のカトリック修道女が亡くなるたびに脳を調べて、その病理的変化と認知症の程度を詳細に調べたものです。すると、脳に大量のアミロイドβが蓄積していたとしても若い時から言語機能が優れていた人では、アルツハイマー型の認知症になりにくい傾向がある、ということがわかってきました。
このことは、たとえ脳にアミロイドβがかなり蓄積しても、脳にある程度の認知予備力(=痛んだ部分以外の神経ネットワークを使って認知機能を維持させる能力)があれば、日頃の知的活動や生活習慣によって、人生の晩期までずっと日常生活が可能である可能性がある、ということを示唆しています。これは高齢者にとっては一つの明るい希望となります。
この「認知になりにくさ」のことを「認知レジリエンス(cognitive resilience)」といいます。最新号の専門誌Lancet Neurologyに掲載された論文では、認知レジリエンスとは実際にどのようなものなのか、そして、どうしたらこの認知レジリエンスを維持・向上させることができるのか、などについて、これまでに発表されたさまざまな論文を元に議論しています(https://www.thelancet.com/.../PIIS1474-4422(26.../fulltext)。
それによると、認知レジリエンスとは、直訳すれば、認知に対する抵抗性であり、脳の加齢変化や病変がありながら、想定される以上に良好な認知機能を示す状態のことを指します。
この論文では、認知レジリエンスを維持・向上させるために必要なことを、以下のごとく、いくつか挙げています。それによると、
1. 体を動かす → 脳の血流改善,シナプス可塑性改善や神経栄養因子などの増加をもたらす。
2. 頭を使う → 読書,会話,学習などによって認知予備能が強化される。
3. 社会に出て人とつながる → 社会参加によって炎症反応やストレス反応が抑制される。
4. 生活習慣病に注意する → 慢性炎症を抑える。
5. 睡眠を整える → 脳神経系の機能維持、回復に役立つ。
6. 聴力・視力を補う → 感覚入力の低下を防ぐ。
7. うつ状態にならないように気をつける → 心理状態の安定化は認知機能維持に役立つ。
などが認知レジリエンスの形成・維持に重要とのことです。
以上まとめると、この論文からのもっとも大事なメッセージは「たとえ加齢とともに認知機能低下が始まっても、良い生活習慣を保ち、認知レジリエンスを維持・向上させることができれば、晩年まで日常生活ができるはずである」ということです。
高齢者の方々にはとてもポジティブなメッセージだと思います。Never give upです。そして、継続は力です。

肝臓や腎臓にはがんが出来ますが、心臓にはがんが出来ません。他所にがんが出来ても、心臓に転移することはまずありません。がん細胞にとっては、心臓は不毛の地であるかのようです。この理由としていろいろなことが推測されています。もっとも有力なのは「心...
25/04/2026

肝臓や腎臓にはがんが出来ますが、心臓にはがんが出来ません。他所にがんが出来ても、心臓に転移することはまずありません。がん細胞にとっては、心臓は不毛の地であるかのようです。

この理由としていろいろなことが推測されています。もっとも有力なのは「心臓は常に拍動しているので、その機械的負荷のために心筋細胞は細胞分裂ができない、だから再生能力がなく、がん細胞も増殖できない」というものです。なるほど…。確かに心筋細胞は常に拍動しているともに、細胞分裂が見られず、再生能力がないことも良く知られた事実です。

この仮説の真偽を確かめるためにイタリアの研究グループがさまざまな実験を行い、その結果をScienceの4月23日号に報告をしています(https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads9412)。ちょっと難しい内容ですが、とても面白いことが含まれています。

彼らはまず、マウスを使って、生体内で変異K-rasのような強力ながん遺伝子を人工的に体内で発現させても、あるいはがん抑制遺伝子であるp53を欠失させても、心臓以外の組織では容易にがんが出来てくるものの、心臓にはがんはできないことを確認しました。確かに心臓にはがんができにくいようです。さらに、異所性心臓移植という手技を使って頸部に本来の心臓以外の別の心臓を移植し、血液は流れるが拍動はしない(あるいは拍動が少ない)新たな心臓を作り、その後、がん細胞を動物に移植して、そのがんが心臓に生えるか調べてみると、拍動する心臓にはがん細胞はほとんど生えないが、拍動しない心臓にはがん細胞が生えることを観察し、確かに「拍動ががん細胞の増殖を抑える」ということを実験的に確認しました。

では、どうして拍動があると細胞分裂ができないのでしょうか?彼らはトラスクリプトミクス解析を行うことにより、拍動のある細胞ではヒストンのメチル化が低下し、このためにクロマチンの凝縮がうまく行かず、結果として細胞増殖に必要な遺伝子群の転写がうまくオンにならず、細胞分裂が起きにくくなっている、ということを見つけました。さらに、拍動を伝える細胞のセンサーとして、ネスプリン2(nesprin-2)という核膜上にあるタンパク質が必須であり、がん細胞からこの分子を欠失させると、心臓でそのがんが生えるようになることを見つけました。

もともとネスプリン2は、細胞にある細胞骨格と核の内部を連結するタンパク質で、収縮によるメカノ刺激を核内に伝える分子として知られていたのですが、今回の研究から、この分子が細胞のメカノセンサーとして働き、核内のエピゲノム状態を修飾することによって、細胞分裂を負に制御している(=細胞分裂を止めている)ことが分かりました。

このことは、なぜ心臓でがんができにくいのかを説明するだけでなく、なぜ心臓は一度傷つくと再生しないのか、ということも説明できることになります。心不全などの病気で、なぜ心筋細胞がうまく再生しないのか(なぜ心筋シートを貼ったぐらいではあまり効かないのか)、を考える上で、非常に大事なヒントを与えてくれる知見だと思います。

われわれが普段当たり前だと思っている単純な事実の中には、とんでもない「秘密」が隠れていることがあるようです。目の前にある現象を「当たり前だ」と思わずに、「なぜそうなのだ?」と考えることが、やがて新しいことの発見につながるのでしょう。今回の論文は複雑な内容でしたが、とても面白く読むことができました。

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