25/07/2025
先日報じられた記事にある通り、精神科クリニックやカウンセリング機関に対するネット上の口コミが重要な社会的テーマとして取り上げられ、判決が下されたことは、心理臨床の実践に長く携わる者としても非常に意味のある出来事であると感じております。今回の判決は、単に一つの施設や当事者に影響を及ぼすだけでなく、今後のメンタルヘルスやカウンセリング業界の在り方、またネット社会における評判管理の難しさと、その限界や責任について多くの示唆を投げかけるものと考えます。
まず、精神科やカウンセリング機関の口コミについて考える際、飲食店や化粧品店、あるいは娯楽施設などの通常の商業店舗とは、口コミそのものの質が大きく異なるという点を無視できません。精神的な悩みや生きづらさを抱え、時に極度に追い詰められた状態で相談に来られる方々が、その体験を口コミとして発信する場合、そこには他の分野の口コミとはまったく異なる心理的背景が作用します。
ユーザーや患者の多くは、悩みや苦しみに苛まれた中でカウンセリングや医療機関に足を運びます。そのため、時には心理的な余裕や視野が狭まり、周囲や自分自身を否定的にしか見られない状況に陥ることも少なくありません。精神分析でいう「陰性転移」が強く生じることも多々あり、カウンセラーや医師に対して、過去の重要な他者への感情を否定的に向けてしまうという現象も現場ではよくみられます。陰性転移そのものは、治療の一部として丁寧に扱うべき大切な現象です。しかし一方で、それが「行動化」という形で現れ、SNSやグーグルの口コミなどに否定的な感情をぶつけ、時には事実が歪められて書かれてしまう場合があります。
こうした書き込みは、患者やユーザーが感じた苦しみの表現であり、単に否定したり、なかったこととして扱うべきものではありません。心理臨床に携わる者として、その声の背後にある痛みや辛さに理解を示す必要があると常に思っています。一方で、その書き込みがインターネット上に残り、やがて一般の方やこれから来談を検討している方の目に留まることで、あたかも事実として独り歩きし、機関や個人の評判が大きく損なわれることも少なくありません。時として営業的な面においても深刻なマイナスとなり、ユーザーやクライエント、患者さんにとって有益な医療・支援の場が社会的に萎縮する事態を招くことも懸念されます。
私自身の経験でも、ホームページや各種口コミサイトにおいて、同様の現象に直面してきました。肯定的な意見もあれば、心無い批判や、実際の事実関係から大きく逸脱した書き込みに遭遇したことも一度や二度ではありません。そのたびに、自分がどう対応すべきか、カウンセラーとしてのみならず、サービス提供者・経営者としても深く悩みました。
私が一貫して心がけてきたのは、どのようなご意見であれ、まずは投稿者の感じた「不快な気持ち」や「疑問」、「怒り」といった感情に寄り添い、否定や反論から始めないようにすることです。その上で、事実関係に誤解がある場合には、感情を否定せず、事実のみを淡々と伝え、誤解を解くことに力点を置いています。これは、カウンセラーとしての倫理や姿勢とも深く関係している部分です。
しかしながら、すべての口コミに対して同じような対応が可能というわけではありません。時に、投稿内容が明らかに虚偽であったり、個人攻撃や誹謗中傷、差別的な表現、グーグルのポリシーに違反する内容を含んでいる場合もあります。そのようなケースでは、まずは「この内容はグーグルのポリシーに反している可能性があります」とやんわりと指摘し、相手を過度に刺激しないよう配慮します。その後、正式な手続きに則り、グーグルに対して「ポリシー違反」として通報します。実際、グーグル側でもポリシー違反が明確な場合は、一定の審査のうえで該当する口コミを削除してくれる場合があります。
このような対策は、現時点では最善と思われますが、インターネットという匿名性が高く、情報が瞬時に拡散する現代社会においては、根本的な解決策にはなり得ません。ネット上の口コミを完全にコントロールすることはほとんど不可能であり、どうすればこの問題をうまく乗り越えられるのか、私自身も明確な答えを持っているわけではありません。それでもなお、臨床現場で日々感じるのは、「発信された言葉の背後にある苦しみに寄り添うこと」と「冷静に事実を伝えること」を地道に積み重ねるほかない、という実感です。
精神科やカウンセリング機関の口コミを巡る問題は、サービス提供者とユーザーの間の信頼関係、社会における精神保健領域への理解の深さ、そして現代のインターネット文化の倫理性など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。今回の判決をきっかけに、当事者だけでなく社会全体でこのテーマを改めて考え、よりよい解決策や対話の方法が模索されることを願っています。
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