12/09/2025
日本人の女性に特有かもしれませんが、臀部から下肢にかけて皮下脂肪が偏在する体型があります。30代後半から目立ち始め、下半身には厚い脂肪が速やかに形成される一方で、上半身やお腹には2~3cm程度の薄い皮下脂肪しかつきません。下肢の脂肪は5cmを超えることもあり、そのために「なぜ下半身だけ太るのか」「自分の浮腫の原因は何か」と疑問を抱いて受診される方が少なくありません。特徴的なのは、こうした患者さんが痛みや圧痛を訴えることはほとんどない、という点です。
海外の文献ではこの病態は「lipedema(脂肪浮腫)」として紹介されることが多く、日本の成書にも同様の記載が見られます。しかし欧米で報告される lipedema の典型例は、痛みや圧痛、あざを伴うことが多く、日本人症例とは大きく異なります。むしろ日本の臨床現場で見られるのは、痛みを欠き、下肢に無症候性の脂肪が集積するタイプであり、これは「lipohypertrophy(脂肪性肥大症)」として理解するのが適切ではないかと考えています。
発症の背景には、思春期・妊娠・更年期といったホルモン変動期が関与することが報告されており、家族内に同様の体型を示す人がいることも少なくありません。つまり生活習慣だけでは説明できず、体質や遺伝的素因、ホルモンの影響が深く関わっている可能性があります。診察の際には、左右対称に下肢が肥厚しているかどうか、足の甲の脂肪は保たれているか、そして何よりも痛みや圧痛を伴わないかを見極めることが重要です。こうした特徴はリンパ浮腫や lipedema との鑑別に役立ちます。
治療については、現状では脂肪そのものを根治的に取り除く方法はありません。しかし、圧迫ストッキングを用いて下肢の形態を保ち、だるさや夕方のむくみを予防することは効果的です。また、水中運動やウォーキングといった運動は下肢の循環改善に役立ちますし、全身の肥満を防ぐための体重管理も欠かせません。こうした保存的な対応によって、患者さんの不安を軽減し、生活の質を向上させることができます。
この「下半身に偏在する脂肪性肥大(lipohypertrophy)」は、日本ではまだ十分に知られていない病態です。「生活習慣の問題」ではなく、体質やホルモン、遺伝に由来する体型であることを理解していただくことが、患者さんの安心につながります。欧米の lipedema と同列に語るのではなく、日本人の臨床に即した病態概念として lipohypertrophy を重視することが、診断と治療の新しい指針になるのではないかと考えています。今後も症例を重ね、日本人女性に特徴的な病態として広く発信していきたいと思います。
#脂肪性肥大症
#日本人女性の体型特徴
#下半身だけ太る理由
#体質とホルモン
#遺伝と脂肪分布