30/07/2025
<広島で頑張る放射線腫瘍医Mの独り言(162)>
注)この投稿の掲載内容は放射線腫瘍医Mの個人的見解で,必ずしも当科の立場,意見を代表するものではありません.
超絶久しぶりの独り言です。
放射線療法の集約化の検討が必要という記事を読むと,なんか悶々としてしまいました。
その記事のベースである第 19 回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(令和7年7月 25 日)の資料“2040 年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(案) ”を厚生労働省ホームページで見ることができます。
以下,資料からの抜粋です。
“放射線療法の需要は、2040 年に2025 年比で24%増加する事が見込まれる中、放射線療法を専門とする医師数は需要の増加を上回り、2040 年に0.2 万人まで増加(2025 年比で43%増加)することが見込まれている。”
“一方で、放射線療法を提供するにあたっては、高額な放射線治療装置が必要となる。放射線治療装置は、2019 年時点で、全国で約1,100 台配置されているが、我が国では諸外国と比較し、放射線治療装置が分散して配置されていると報告されており、放射線治療装置1台あたりの患者数にばらつきが大きく、放射線治療装置の効率的な配置を検討する必要がある。”
“放射線治療装置1台あたりの年間照射患者数の適正数は、250~300 名と報告されており、この基準を用いた場合、放射線療法の需要の増加を踏まえて2040 年に必要となる放射線治療装置数は1,190~1,428 台となり、2019 年時点の放射線治療装置配置数1,100 台と比較して8~30%の増加が必要と見込まれる。”
“このため、地域ごとに、放射線療法の需要を予測し、放射線治療装置の配置を適切に見直していくことが望まれる。特に、放射線療法の需要が減少することが見込まれる地域や、がん患者数が少ない地域では、放射線治療装置の維持が困難になる場合が想定されることから、都道府県内で、集約化を含めた、適切な放射線療法の提供体制を検討する必要がある。”
広島県をみてみると・・・
放射線治療施設数は,2023年度のデータで18施設です。
そのうち厚生労働省が示す「放射線治療装置1台あたりの適正な年間照射患者数」(250~300名)を満たしていたのはわずか1施設のみでした。
年間300名以上の放射線治療を行っていた施設は10施設あります。このうち,2台以上の放射線治療装置を有していたのは4施設で,それぞれの装置1台あたりの年間患者数は,369名,351名,192名,170名でした。うち2施設では,厚生労働省が示す「1台あたりの適正患者数」を上回っています(ちなみに,当院はその2施設のうちの1つです)。
残る6施設は,いずれも装置が1台であり,言うまでもなくすべての施設で「1台あたりの適正数」を超えて治療が行われています。
一方,年間患者数が250名以下だった施設は7施設あり,そのうち4施設は200名以下,2施設は100名以下です。
このような状況のなかで、「集約化」をどのように考えるべきでしょうか?
広島県内には,厚生労働省が示す「放射線治療装置1台あたりの適正な年間照射患者数」を超えて治療を行っている施設が8施設あります。
今後,症例数の少ない施設や過疎地域の施設で治療装置の更新が行われない場合,それらの患者は他の治療施設で診療を受けることになります。
2040年までは患者数の増加が予想されています。そのため,既に「適正数」を超えて治療を行っている施設にさらなる患者が集中することとなれば,施設側の負担はますます増大します。もし治療装置が更新されず,放射線治療科そのものが閉鎖されることになれば,そこで働いていた医師、放射線技師,看護師,その他のスタッフはどうなるのでしょうか。
現在,全国の病院の約65〜70%が赤字とされる中で,他施設がそうした人材を受け入れるのは正直なところ難しいでしょう。
また,既存施設の治療装置やスタッフの負担が増加しても,治療装置の増設や人員の確保は容易ではありません。
──これからどうなっていくのでしょうか。ああこりゃこりゃ。