
23/09/2025
【救急医療のコスト】
前回、県立病院の厳しい現状に関する記事を紹介しました。
記事の後半(有料部分)でも触れられていましたが、今回は、現場のやりくりの話です。
夜中の交通事故。一見してあちこちに大きな怪我があり、大量出血で血圧が下がっています。
この時点で、広大な播磨地域に対応可能な医療機関は二つの救命センターに限定されます。この二箇所が対応不能だと、時間がかかっても神戸市内までの搬送を余儀なくされます。
なぜ、対応できる施設が少ないのか?
受け入れに際して、全身状態を維持しながら病態を把握するメンバーが必要です。どこに、どんな怪我があるのか。どのような治療が必要か。治療の順番はどうするか。医師、看護師、放射線技師、検査技師、薬剤師といった職種が待機している必要がありますし、危険な状態の患者対応に慣れたスタッフでないと、診療はスムーズに進みません。出血が続く患者の診療は、時間との勝負でもあるため、この部分はとても大切な要素です。
なんとか状態を安定化させつつ診断をつけたら、怪我の治療です。オンコールの麻酔科の医師と整形外科の医師二名を呼び出し、当直の手術室看護師に連絡して緊急手術の準備をします。
手術が終わると、まだ麻酔のかかった患者は夜勤看護師の待つ集中治療室へ。事故から数時間、まだまだ不安定な状態でたくさんの管が入ったまま、一般病棟に行くことはできません。
…という具合に、一人の重症患者の受け入れから数時間の間に、院内ではいくつもの職種の、多数の医療者が走り回ります。どの部分が欠けても患者の生命は危うくなります。播磨地域に救命センターがなかった時代には、遠方への搬送中に亡くなる外傷患者が少なからずおられました。
機材価格や人件費が高騰する中、このような当直やオンコール体制の維持を断念したり、縮小したりする医療機関も増えています。実際経営を考えた場合、そうせざるを得ない現状があることも理解できます。しかし、その結果、体制維持に努める施設には負担が集中しますし、やがては現場の疲弊につながっていきます。医師の働き方改革もまた、一部の医療機関の救急離れを招いています。