亀田総合病院 感染症内科

亀田総合病院 感染症内科 医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 感染症内科でのフェローシップ研修を検討している方に。
(※掲載される情報は投稿者あるいは感染症内科の意見であり、病院組織全体の意見ではありません)

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亀田メディカルセンター』は、亀田総合病院を中心とした、亀田クリニック、亀田リハビリテーション病院などの医療サービス施設の総称です。千葉県南部に位置し、基幹病院としての役割を担う当センターには、診療科目34科(亀田クリニックは31科) 1日の平均外来患者数3,000名と近年では国内の様々な地域、また海外からも患者さまが来院されます。亀田メディカルセンターは外来診療から急性期の治療(入院)そして、急性期の治療を終えた回復期のリハビリまで、患者さまお一人お一人に合った質の高い医療を提供することにより患者さまのQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指しています。

◆外来診療 亀田クリニック(病床数19床)
◆救急・急性期医療・総合周産期 亀田総合病院(病床数917床)
◆亜急性期医療 亀田リハビリテーション病院(病床数56床)
◆健康管理 検診センター(鴨川・幕張)
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我々は、全ての人々の幸福に貢献するために愛の心をもって常に最高水準の医療を提供し続けることを使命とする。

 ~亀田メディカルセンターの価値観~
その最も尊ぶところ:患者さまのために全てを優先して貢献すること
その最も尊ぶ財産:職員全員とその間をつなぐ信頼と尊敬
その最も尊ぶ精神:固定概念にとらわれないチャレンジ精神

~亀田メディカルセンターの主義~
患者さまは我々全ての行動の中心である
職員は常に信頼と尊敬をもって医療に従事する
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先日のMicrobiology roundではCryptococcus neoformansを取り上げました。【歴史】(1)• 分類:Basidiomycota門、Tremellomycetes網、Tremellales目、Cryptoco...
25/09/2025

先日のMicrobiology roundではCryptococcus neoformansを取り上げました。

【歴史】(1)
• 分類:Basidiomycota門、Tremellomycetes網、Tremellales目、Cryptococcaceae科、Cryptococcus属
• 1894年:Sanfeliceが桃ジュースからCryptococcusを同定した。
• 1895年:BusseとBuschkeがヒトでの初報告(若年女性の脛骨上部慢性潰瘍で酵母菌を確認)。
• 当初はSaccharomyces neoformans、Cryptococcus hominis、Torula histolyticaなど複数の名称が使用されたが、1950年にBenhamがCryptococcus hominisと命名し、疾患名を「クリプトコッカス症」とした。その後Sanfeliceの種名使用に基づきCryptococcus neoformansに変更された。
• 2002年にはC. neoformans var. neoformans(血清型D)、C. neoformans var. grubii(血清型A)、およびC. gattii(血清型B・C)が提案された。
【疫学】(2)
• 1955年以前の報告は約300例であったが、HIV感染者の増加に伴い症例数は劇的に増加した。
• 2022年報告:CD4数

先日のMicrobiology roundではCardiobacterium hominisを取り上げました。※培地は発育がなくGram染色の写真のみ掲載しております。【歴史】・1962年にTuckerらによってPasteurella様の菌...
03/09/2025

先日のMicrobiology roundではCardiobacterium hominisを取り上げました。
※培地は発育がなくGram染色の写真のみ掲載しております。

【歴史】
・1962年にTuckerらによってPasteurella様の菌による感染性心内膜炎として初めて報告された1)。
・語源2)→ギリシャ語で心臓を意味するKardiaとラテン語で桿菌を意味するbacteriumから名付けられている。hominisはラテン語で『人間』を意味する。

【微生物学】
分類: Pseudomonadati門、Pseudomonadota網、Gammaproteobacteria目、Cardiobacteriaceae科、Cardiobacterium属
・Cardiobacterium属には、C. hominisとC. valvarumの2菌種のみが存在する。

・グラム陰性桿菌。しばしば2連鎖、短鎖状、涙滴状、ロゼット状(花が咲いているような形)、または集塊状に配列する3)。
・通常、血液培養において1~7日後に検出可能。3%以上の炭酸ガス存在下で発育する。
・標準的な栄養培地(血液寒天培地、チョコレート寒天培地)では良好に発育し、5〜7%炭酸ガス存在下で35℃、48~72時間培養で直径1mm程度の小さく光沢のあるスムース型の丸いコロニーを形成する。
・腸内細菌用選択培地(マッコンキー寒天培地、エオシンメチレンブルー寒天培地)では発育しない3)。
・本菌はオキシダーゼ陽性、カタラーゼ陰性、亜硝酸塩陰性、ウレアーゼ陰性、インドール弱陽性である。また、グルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、ソルビトールから酸を産生する。
・鼻、口、咽頭の常在菌で、他の粘膜や消化管にも稀に存在する4)。
・微生物の発育が遅く、感受性試験は微量液体希釈法が良いと思われる5)。

【臨床像】
・Cardiobacterium hominisは 、HACEK群に属するグラム陰性桿菌であり、ヒトにおける感染性心内膜炎の原因菌として知られている。
HACEK:
Haemophilus spp. (H. parainfluenzae, H. influenzae), Aggregatibacter spp. ( A. actinomycetemcomitans, A. aphrophilus, A. paraphrophilus, A. segnis), Cardiobacterium spp. (C. hominis, C. valvarum), Eikenella corrodens, Kingella spp. (K. kingae, K. denitrificans)
・細菌性心内膜炎症例のうち、HACEKによるものはわずか2~6%で、HACEKによる心内膜炎患者の27%はC. hominis によるもの6)。
・他のHACEKと異なり、感染性心内膜炎以外の疾患を引き起こすことがほとんどない4)。
・ほとんどの患者は、基礎疾患として解剖学的異常(例:リウマチ性心疾患、心室中隔欠損症、先天性二尖弁)または人工弁を有している7, 8)。
・感染性心内膜炎の患者の多くは、重度の歯周炎がある場合や、抗菌薬の予防内服なしに歯科治療を受けた経験がある。 上部消化管内視鏡検査後のC. hominis感染性心内膜炎の報告もある9)。
・亜急性症状として、徐々に発症し(診断前平均2-5か月前)、診断時には発熱がないことが多い6)。
・疣贅のサイズは大きく、他のHACEKよりも大動脈弁に疣贅を認めることが多い。死亡率は約10%で、約30%の症例で弁置換が必要となる10)。
・弁の疣贅がないC. hominisによるペースメーカーリード感染症の症例報告もある11)。
・C. hominis は 毒性が低いと考えられており、既に損傷した心臓弁や人工弁に感染する傾向がある1)。

【治療】
・通常、β-ラクタム系の抗菌薬、フルオロキノロン、クロラムフェニコール、リファンピシン、テトラサイクリンに広く感受性がある。 アミノグリコシド、エリスロマイシン、クリンダマイシンに対する感受性は様々。β-ラクタマーゼ産生株が報告されている5, 6)。
・AZM(15員環)はCAM(14員環)より分子量が大きく、マクロライド感受性に関わるリボソームの結合部位への親和性の違いでマクロライド系抗菌薬の感受性が異なると思われる。
・American Heart Associationによる感染性心内膜炎のガイドラインでは、in vitroで十分な発育が得られない限り、HACEKはアンピシリン耐性と考えるべきであり、これらの症例ではペニシリンやアンピシリンを感染性心内膜炎の治療に使用すべきではないと記載されている。HACEK群のほぼすべての株はセフトリアキソンに感性であり、使用することは合理的である。12)
・自然弁感染性心内膜炎の治療期間は4週間が妥当であり、人工弁心内膜炎では6週間の治療期間が妥当である。ゲンタマイシンは腎毒性リスクのため、推奨されない12)。
・微生物学的な治癒は通常達成されるが、治療中に合併症が頻繁に発生する。全身塞栓症、感染性動脈瘤、または心不全により、弁置換術が必要となる症例も数多くある4)。

1. Tucker D.N., Slotnick I.J. et al.: Endocarditis caused by a Pasteurella -like organism: report of four cases. N Engl J Med 1962; 267: pp. 913-916.
2. CHARACTERIZATION OF AN UNCLASSIFIED GROUP OF BACTERIA CAUSING ENDOCARDITIS IN MAN: CARDIOBACTERIUM HOMINIS GEN. ET SP. N. Antonie Van Leeuwenhoek. 1964;30:261-272.
3. Malani A.N., Aronoff D.M.,et al..: Cardiobacterium hominis endocarditis: two cases and a review of the literature. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2006; 25: pp. 587-595.
4. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 10th
5. Kugler K.C., Biedenbach D.J., Jones R.N.: Determination of the antimicrobial activity of 29 clinically important compounds tested against fastidious HACEK group organisms . Diagn Microbiol Infect Dis 1999; 34 (1): pp. 73-76.
6. Chentanez T, Khawcharoenporn T, Chokrungvaranon N, Joyner J. Cardiobacterium hominis endocarditis presenting as acute embolic stroke: a case report and review of the literature. Heart Lung. 2011;40(3):262-269.
7. Pousios D., Gao F., Tsang G.M.: Cardiobacterium hominis prosthetic valve endocarditis: an infrequent infection . Asian Cardiovasc Thorac Ann 2012; 20 (3): pp. 327-329.
8. Revest M., Egmann G., Cattoir V., Tattevin P.: HACEK endocarditis: state-of-the-art . Expert Rev Anti Infect Ther 2016; 14 (5): pp. 523-530
9. Pritchard T.M., Foust R.T., Cantely J.R., Leman R.B.: Prosthetic valve endocarditis due to Cardiobacterium hominis occurring after upper gastrointestinal endoscopy . Am J Med 1991; 90 (4): pp. 516-518.
10. Brouqui P., Raoult D.: Endocarditis due to rare and fastidious bacteria . Clin Microbiol Rev 2001; 14 (1): pp. 177-207.
11. Nurnberger M., Treadwell T., Lin B., Weintraub A.: Pacemaker lead infection and vertebral osteomyelitis presumed due to Cardiobacterium hominis . Clin Infect Dis 1998; 27 (4): pp. 890-891.
12. Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al. Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association. Circulation. 2015;132(15):1435-1486.

先日のmicrobiology roundではMoraxella lacunata を取り上げました。【分類・命名】Pseudomonadota門 Gammaproteobacteria綱 Moraxellales目 Moraxellace...
22/08/2025

先日のmicrobiology roundではMoraxella lacunata を取り上げました。

【分類・命名】
Pseudomonadota門 Gammaproteobacteria綱 Moraxellales目 Moraxellaceae科 Moraxella属に属する。1900年にEyreが Bacillus lacunatus を報告し、1939年にLwoffが Moraxella lacunata として再報告した。属名はスイスの眼科医 Victor Morax に由来し、種小名 lacunata はラテン語で「穴」または「窪み」を意味する lacuna に由来する[1]。

【微生物学的特徴】
Moraxella lacunata は偏性好気性のグラム陰性球桿菌で、非運動性。0.8–1.2 µmのやや大型桿菌で、双桿菌または短連鎖で観察されることが多い。血液寒天・チョコレート寒天培地で35–37℃、CO₂ 5–10%条件下で24–48時間培養すると小さなコロニーが発育し、培地にくぼみ(pitting)を形成する。ブドウ糖非発酵菌で MacConkey 培地では増殖せず、ゼラチナーゼ活性および Tween80 エステラーゼ活性を持つ。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性で、βラクタマーゼ産生例も報告されている[2][3][4]。

血液培養では好気・嫌気条件下で陽性化し、グラム陰性桿菌を確認した。血液寒天・BTB寒天培地で24時間培養後にコロニーを観察し、MALDI Biotyperでは M. lacunata と同定(スコア1.86、カテゴリーB)、IDテスト HN-20 ラピッドでは M. lacunata / M. nonliquefaciens と判定された。16S rRNA 遺伝子解析では M. lacunata と100%相同性を示し、M. equi とは99.4%の高相同性であったが、ヒト由来報告がないため M. lacunata と判断された。正確な確認にはゼラチン液化試験の実施が推奨される[2][3][5]。

【臨床的特徴】
上気道常在菌として存在するが、結膜炎の原因菌となることが多い[6][7]。まれに菌血症、感染性心内膜炎(IE)、化膿性関節炎などの侵襲性疾患を引き起こすこともある。骨髄炎については小児の膝蓋骨骨髄炎の報告があるが、下顎骨骨髄炎の症例は報告されていない[6][7]。

【治療】
CLSIでのブレイクポイントは設定されていないが、β-ラクタム(ペニシリン含む)、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、アミノグリコシド、トリメトプリム/スルファメトキサゾールに感受性を示す報告が多い[8]。IEの場合は、非HACEKグラム陰性桿菌IEに準じて、β-ラクタムとアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系の併用を6週間行うレジメンが推奨されている[9]。

【疫学・考察】
Moraxella spp.菌血症の頻度は低い。2000年から2019年にかけてクイーンズランド州で行われた観察研究では、8,600万人年の期間中に375件の Moraxella spp.菌血症が報告され、年間発生率は住民100万人あたり4.3人であった。年齢別では乳児で最も高く、加齢に伴い減少した。Moraxella lacunata は3件(2%)にとどまった[10]。

Moraxella lacunata 菌血症と口腔由来感染症との関連では、IE症例の診察で歯肉からの出血が確認され、口腔がエントリーサイトである可能性が示唆されている[11]。IEに関しては、Moraxella spp.によるシステマティックレビューで31症例中12症例を Moraxella lacunata が占めていた[12]。

【参考文献(番号順)】
[1] LPSN: Moraxella lacunata
[2] MANUAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, 13th Edition.
[3] 小栗豊子. 臨床微生物検査ハンドブック, 第5版.
[4] Nagano N, Sato J, Cordevant C, et al. Presumed endocarditis caused by BRO β-lactamase-producing Moraxella lacunata in an infant with Fallot's tetrad. J Clin Microbiol 2003;41:5310-5312.
[5] Hughes DE, Pugh GW Jr. Isolation and Description of a Moraxella from Horses with Conjunctivitis.
[6] Acta Ophthalmol (Copenh). 1985 Aug;63(4):427-31.
[7] Jpn J Ophthalmol. 2019 Jul;63(4):328-336.
[8] Infect Dis Clin Pract 2017;25:131–133.
[9] Eur Heart J. 2023 Oct 14;44(39):3948-4042.
[10] Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2023 Feb;42(2):209-216.
[11] J Infect Chemother 2014;20:61–64.
[12] J Clin Med. 2022 Mar 27;11(7):1854.

  先日のMicrobiology roundでは腸チフスを取り上げました。(1)【語源】enterica:腸に関する typhi:混迷を伴う発熱 typhus:雲がかった、霧の(2)【歴史】• 腸チフス(Enteric fever, Ty...
04/08/2025


先日のMicrobiology roundでは腸チフスを取り上げました。(1)

【語源】
enterica:腸に関する typhi:混迷を伴う発熱 typhus:雲がかった、霧の(2)
【歴史】
• 腸チフス(Enteric fever, Typhoid fever)は、typhoid salmonellaと呼ばれる細菌(Salmonella enterica sbsp enterica serovar Typhi, Paratyphi A)により引き起こされる、非特異的な発熱を伴う病気のこと。
• Typhoid(typhus-like)、すなわち、発疹チフス(typhus)に似た、という意味を持っており、19世紀のヨーロッパにおいて、腸チフスが、同時期に流行していたもう一つの長期間の発熱の原因である発疹チフスと臨床的に区別することが難しかった事実を反映している。

【微生物学的特徴】
• Salmonella enterica subspecies entericaという種・亜種に属する通性嫌気性、無芽胞性グラム陰性桿菌である。
• SalmonellaはO抗原、H抗原およびVi抗原によって各種の血清型(2500種以上)に型別される。(3)
• Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhiは習慣的にSalmonella Typhiと記載されることがある。
• Salmonella Typhi, Salmonella Paratyphi Aは臨床的にチフス性サルモネラと分類され、それ以外の病原性のあるS. entericaを非チフス性サルモネラと呼んでいる。これらは同じ種に属しており、血清型により分類される。
• S. TyphiはVi抗原を持つ菌であることから、莢膜様構造に似た被膜が認められることがある。
• SS寒天培地上の特徴は、35~37℃で18~20時間の培養で、硫化水素非産生(コロニーが黒色にならない、または中心部がごくわずかに黒色になることがある)。無色透明のS形コロニーを形成する。また、血液寒天培地上のコロニーは無色透明、BTB乳糖寒天培地上では青色を呈する。

【疫学】
• 低中所得国、特に南アジア、東南アジア、アフリカで流行。田舎よりも都市部で多い。
• 散発地域ではほとんどが旅行関連。南アジア、特にインド旅行者のリスクが高い。
• 感染は主に糞便で汚染された水や食物の摂取によって起こる。
• 流行地域における非加熱の水摂取、ストリートフードの摂食は感染のリスクである。
• 菌血症は5歳未満の小児で多い。
• 腸チフスから回復し、慢性の保菌者として便や尿に排泄を続ける場合もある。

【臨床的特徴】
• 3日以上の発熱があり、過去1-6週間以内に高蔓延地域での暴露がある場合には腸チフスを疑う。
• 症状は非特異的であり、インフルエンザ様症状(発熱、頭痛、悪寒、咳嗽、筋肉痛)、腹部症状(食欲不振、腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢)などがある。
• 腹痛は軽度で局在がはっきりしないことが多く、局所所見のない発熱だけが唯一の症状であることもある。
• バラ疹(1-4mmの淡いピンク色の斑点)は合併症のない腸チフスではまれである。
• 比較的徐脈は古典的な徴候として知られているが、多くの患者では認めない、
• 消化器系の合併症には消化管出血、消化管穿孔があり、神経学的な合併症として脳症、脊髄炎、髄膜炎、Guillain-Barre syndromeなどがある。
• 潜伏期間は通常1-2週間だが、摂取した病原体数により3-60日間と幅広い潜伏期間を示す。
• 未治療の場合は4週間程度発熱が持続することがあり、解熱後2週間以内に最大10%程度の症例で再燃する。再燃時の症状は通常、初回より軽度である。

【診断】
• 血液培養の感度は40-80%程度、最近のメタアナリシスでは感度59%と推定されている。(4)
• 便培養の感度は小児で50%、成人で30%である。
• 骨髄培養の感度は80-95%程度と高いが、実際的ではない。
• 血清学的検査 (widal test) は感度、特異度に問題があり、既感染やワクチンの影響を受けるため有用ではない。
• 培養の感度、特異度に限界があり、培養陰性であっても臨床的に強く疑い場合には治療を行うことは理にかなっている

【治療】
• 初代第一選択:クロラムフェニコール、アンピシリン、ST合剤。1980年代にこれら3剤すべてに耐性の多剤耐性(MDR)サルモネラ菌株が拡散した。
• フルオロキノロン:世界の多くの地域で推奨される治療薬である。第三世代セファロスポリンと比較して再発率やキャリア状態になるリスクが低いとされる。南アジアではフルオロキノロン耐性株が増加している。ナリジクス酸耐性は、フルオロキノロンへの感受性低下を示す代用マーカーとして使用されることがある。
• 第三世代セフェム:フルオロキノロン感受性が低下したサルモネラ菌株の出現により、経験的治療の選択肢が第三世代セファロスポリン系抗菌薬にシフトしている。短期間(7日以内)のセフトリアキソン投与は再燃と関連している。
• アジスロマイシン:MDRおよびフルオロキノロン非感性の腸チフス治療に優れた選択肢である。7日間投与は臨床的失敗率が低く、第三世代セファロスポリンよりも再発が少ない。
• ショック、及びせん妄や意識障害を伴う重度の脳症を合併している場合、高用量のデキサメタゾンを併用する。
• 慢性保菌(1年以上)は胆嚢癌と関連していると考えられているが、除菌を行うことで癌のリスクを減らせるかどうかは不明である。
• 慢性保菌者が食品を扱う職業に従事している場合、公衆衛生的な観点から除菌が必要となる。28日間のシプロフロキサシン投与により80-90%の有効性で除菌できる。
• ポリサッカライドワクチンの接種により、腸チフスに対して50-80%の予防効果がある。

【参考文献】
1. Andrews JR, Harris JB, Ryan ET, Charles R. 102 - typhoid fever, paratyphoid fever, and typhoidal fevers. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases. :1300-1313.e4.
2. Species: Salmonella typhi [Internet]. [cited 2025 Aug 1]. Available from: https://lpsn.dsmz.de/species/salmonella-typhi
3. 細菌の検査 各論|神奈川県衛生研究所 [Internet]. [cited 2025 Aug 1]. Available from: https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_microbe/detailed.htm
4. Antillon M, Saad NJ, Baker S, Pollard AJ, Pitzer VE. The relationship between blood sample volume and diagnostic sensitivity of blood culture for typhoid and paratyphoid fever: A systematic review and meta-analysis. J Infect Dis. 2018 Nov 10;218(suppl_4):S255–67.

02/08/2025

昨年から流行し始めた百日咳は今年に入り大きな流行となり続いています。診断のための検査は近年大きく変わって来ています。
臨床微生物学会から百日咳検査についてのQ&Aが公表されました。
感度を考えると遺伝子検査が良いのですが、今流行しているマクロライド耐性株を確認するためには培養も併用すると良いと思います。保険ではどちらか片方しか認められない可能性がありますが、診療には重要です。(ちょっと困りますね)
ご参照ください。

https://www.jscm.org/uploads/files/news/2507_hyakunichizeki.pdf

#百日咳 #アジスロマイシン耐性 #百日咳検査

microbiology roundでStaphylococcus argenteusを取り上げました。【歴史・微生物学的特徴】ラテン語でStaphylo:ぶどうの房、coccus:球菌、粒、argenteus:銀の/銀色の/白銀時代の、と...
25/07/2025

microbiology roundでStaphylococcus argenteusを取り上げました。

【歴史・微生物学的特徴】
ラテン語でStaphylo:ぶどうの房、coccus:球菌、粒、argenteus:銀の/銀色の/白銀時代の、という意味である。
  
2015年にSteven Y C Tongらが、Staphylococcus aureus-related complexの中の新種、2つの内の1つとして発表した。なお同じ論文でStaphylococcus schweitzeri も発表されている1)。なお、S. argenteusは最初はオーストラリアの先住民から発見されたが、続いてニュージーランド、フィジー、その後アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパと他の地域で続々と報告されるようになった2)。ホットスポットは東南アジア、オーストラリア、アマゾンである。S. argenteusはS. aureusと同様にカタラーゼ/コアグラーゼ陽性、血液寒天培地でβ溶血し、ほとんどの生化学検査で同じ反応を示すが、唯一の例外はS. aureusは金色のコロニーを形成するのに対して、S. argenteusは白/銀色にみえることである。これはS. argenteusがcarotenoid色素をコードするstaphyloxanthin gene cluster(crtOPQMN)をもたないためとされている3)。S. schweitzeriはアフリカ大陸のみに限定して報告され、多くはフルーツコウモリ(オオコウモリ)やヒト以外の霊長類から分離されているが、これまでヒトに感染症を引き起こした報告はまだない2)。
 
 
【臨床的特徴】
 様々な観察研究が存在するため、S. argenteusの臨床的な特徴を一概に評価することは難しい。初期の報告では、S. argenteusはS. aureusと比較して毒性が低く、臨床的にも異なるとされていた。しかし近年の研究では、S. argenteusの医療関連感染症の頻度、罹患率、死亡率はS. aureusと同程度と示唆されている2)。過去にS. argenteusの膿痂疹や壊死性筋膜炎が報告され、その後骨関節感染症、血流感染症も報告されるようになった2)。またアジア (日本も含めて4)) からいくつか食中毒の症例も報告されている。また、15株のS. argenteusのゲノム分析の結果、S. aureusに認められる11個の病原性遺伝子が、S. argenteusの76.6%に認められた2)。特にS. aureusで有名なPanton-Valentine leukosidin(PVL)も皮膚軟部組織感染症を起こしたS. argenteus株で報告された5)。
 
 
【治療・抗菌薬耐性】
 CLSI(Clinical & Laboratory Standards Institute)では、S. aureus complexの中に、S. aureus、S. argenteus、S. schweitzeriを含み、S. aureus complex (S. argenteus)として報告し、表現型検査法やブレイクポイント/解釈カテゴリーはS. aureusと同じものを使用するように推奨されている。また欧州臨床微生物学会・感染症学会のワーキンググループも、S. aureus complexと報告することを提唱している。その理由は、臨床医が新たなCNSと認識して病原性や臨床的意義を過小評価すること、メチシリン耐性であった場合に感染対策が過小評価されてしまうことが挙げられている2)。
 
日本から2つのS. argenteusの抗菌薬感受性に関する調査が報告されている。
・2021年、北海道のS z 82株を調査した論文6)では、blaZ保有は19.5%(16/82株)、メチシリン感性率98%(81/82)であった(つまりメチシリン耐性は1株のみ)。この論文中に分離株の由来部位の記載はあるが、臨床診断名の記載はない。
・2025年5月名古屋市立東部医療センターの23株を調査した論文7)では、PCG感性67%、EM感性95%、MPIPC・CLDM・ST・VCM・TIECはいずれも100%感性だった。13名に臨床診断名があり、特に肺炎が多く(11/13人)、他の感染症は外耳炎や化膿性椎体炎だった。
 
 
【参考文献】
1) Int J Syst Evol Microbiol. 2015 Jan;65(Pt1):15-22.
2) Clin Microbiol Infect. 2019 Sep;25(9):1064-1070.
3) J Clin Microbiol. 2021 May 19;59(6):e02470-20.
4) Microbiol Resour Announc. 2021 Mar11;10(10):e01447-20.
5) Euro Surveill. 2015 Jun 11;20(23):21154.
6) Pathogens. 2021 Feb 3;10(2):163.
7) Jpn J Infect Dis. 2025 May 30.

こちらはKINDセミナーで頂いた質問(講義5の結核、及びアンケートで頂いた内容)への回答です。----------------------------------講義5 結核へのアプローチQ1. (会場) 痰培養、胃液培養の違いA) 喀痰が...
17/07/2025

こちらはKINDセミナーで頂いた質問(講義5の結核、及びアンケートで頂いた内容)への回答です。

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講義5 結核へのアプローチ
Q1. (会場) 痰培養、胃液培養の違い
A) 喀痰が採取できない小児や高齢者においては、胃液で抗酸菌検査を実施することがあります。米国感染症学会のガイドライン(1)には、胃液の抗酸菌塗抹検査や培養検査は感度が低いために、陽性の時のみ有用である(陰性であっても、活動性結核を否定する材料にはならない)、と記載されています。一方で、3回連続の抗酸菌検査を行う場合に、3連痰の中に胃液の検査を含める(3回のうち、1-2回を胃液にする)ことで結核の診断率が上昇したという日本からの報告もあり(2)、胃液は喀痰が採取できない時の選択肢になります。尚、胃液中には環境由来の非結核性抗酸菌(NTM)が混入し、培養検査結果が病態を反映していない可能性があるため(3)、胃液からNTMが検出された際には、臨床像と併せて、検出された菌の病態への関与を慎重に判断する必要があります。
(1)Clin Infect Dis. 2017;64:111-115.
(2)J Infect Chemother. 2022;28:1041-1044.
(3)Pediatr Infect Dis J. 2015;34:91-3.

Q2. 血液疾患に対して同種移植後、免疫抑制剤使用している症例で潜在性結核の治療期間は延長されてますでしょうか?
A) 日本結核病学会の指針(1-2)や、CDCのガイドライン(3)では、 潜在性結核の治療期間を延長すべき基準等に関して、特に記載はございません。一方でWHOのガイドライン(4)は、高蔓延国のHIV感染者のおいては、感染・発症リスクが高いことから、36ヶ月以上のイソニアジドによる治療を推奨しています。
(1)結核 2019;94:515-518.
(2)結核 2013;88:497-512.
(3)MMWR Recomm Rep 2020;69:1-11.
(4)World Health Organization. Latent tuberculosis infection: updated and consolidated guidelines for programmatic management. Geneva: WHO; 2018. Available from: https://www.who.int/publications/i/item/9789241550239

Q3. (会場)つば痰は検査しますか?
A) 質の悪い喀痰は、感度が低いため、検査する意義は下がります。可能な限り、高張食塩水の吸入により喀痰を誘発するなど、良質な検体採取に務めます。どうしても喀痰採取が困難な場合は、胃液検査や、気管支鏡による検体採取を検討します。

Q4. 結核症を疑い、骨髄液の培養取る際に何か手技的に注意点があれば教えてください。
A) 粟粒結核を疑った際に、骨髄の検査を検討することがあるかと思います。抗酸菌の塗抹・培養・遺伝子検査に加え、病理検査も提出いただくと、結核の組織診断(乾酪性肉芽腫の確認など)において有用です。手技的な注意点としては、骨髄穿刺の手技で空気感染をきたす可能性は低いと考えますので、標準予防策に留意いただければ良いと思います。

Q5.(アンケート)昨年11月に結核の接触者になってしまった方(男性)が今月一般内科外来に受診されました。その際、妊活は一時中断した方が良いのか質問されました。おそらく今後の結核発症リスクを考慮されたのだと思います(もしその方の妻が妊娠した後に、その方が結核を発症したら妻に感染させてしまうことを懸念されているようでした。)まだ保健所から連絡は来ていないとのことですが、このようなケースではどのようなアドバイスをされますでしょうか?
A) 仮に結核の感染が成立したとしても(潜在性結核の状態)、活動性結核を発症していない限り、他者への感染性はありません。そのため、結核の接触者になったことを理由として、妊娠活動を控える必要は無いと考えます。

その他(アンケートで頂いた質問)
Q1. 91歳の高齢の方で(おそらく神経因性膀胱のためでしょうか?)腎盂腎炎を繰り返すという理由で尿道カテーテルを留置され、ST合剤を週3回定期的にPCP予防のような形で投与され、私のクリニックの訪問診療に来られた方がいました。尿道カテーテルを数ヶ月留置されているようで、まずは抜去できないか検討しようと思うのですが、このような予防的STの使い方はあるのでしょうか?少し検索した限りでは、当たり前ですが、耐性菌の問題もあり慎重に考えた方がいいといった感じの見解しかない様なのですが・・・なお、前医からの紹介状では、STを継続するかどうかはお任せしますとのことでした。講義と直接関係ない症例の相談で申し訳ありませんが、ご意見をいただければ幸いです。

A1. 何をしても同一菌による腎盂腎炎(高齢者の腎盂腎炎は症状に乏しいことが多いので、尿培養で生えた菌が腎盂腎炎の起因菌なのか無症候性の細菌尿をみているだけなのか判断するのは難しいことが多いですが)を繰り返すような方では、エビデンスは乏しくてもexpert opinionとして、予防投与をすることはあるかもしれませんが、原則は予防投与はしないと思います。まずは、尿カテの抜去を試みたり、他に腎盂腎炎を繰り返す原因(結石など)がないかの評価を行うのをおすすめします。

Q2. 膿胸の対応に関して、通常、ドレーン留置や手術など、膿瘍に対する治療が必要かと思います。しかし、高齢で耐術能がなく、認知症などでドレーン留置が困難と考えられる場合、どのように対応されていますでしょうか? 教えていただけますと幸いです。

A2. 「膿瘍」に関しては、可能な限りドレナージするのが原則です。ドレーン留置が難しい場合は、単回の穿刺でのドレナージを試みるのが良いと思います。それも難しい場合は、抗菌薬のみで治療することもありますが、通常は4週間以上の抗菌薬投与が必要になります。

These new guidelines supersede previous WHO policy documents on the management of LTBI in people living with HIV, household contacts of people with active TB, other groups at risk of developing TB, and for LTBI testing. The consolidated guidelines are expected to provide the basis and rationale for....

【KINDセミナー開催のご報告と質疑応答のご返答】先日、KINDセミナー(亀田感染症セミナー)を開催いたしました。今回は、現地+オンラインのハイブリッド形式で実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。ご多忙の中ご参加くださった皆様、心...
16/07/2025

【KINDセミナー開催のご報告と質疑応答のご返答】
先日、KINDセミナー(亀田感染症セミナー)を開催いたしました。今回は、現地+オンラインのハイブリッド形式で実施し、全国から多くの方にご参加いただきました。ご多忙の中ご参加くださった皆様、心より御礼申し上げます。
セミナーを通じて、日々の診療に活かせる学びや新たな視点を一つでも多くお持ち帰りいただけていれば幸いです。
当日、会場およびオンラインでお寄せいただいたご質問については、以下にまとめて回答を掲載いたします。どれも鋭く実践的な内容ばかりで、皆様の感染症診療への高い関心と熱意が強く感じられました。

また、当科では現在、短期研修および3年間の感染症フェローシップを随時募集しています。感染症診療にご興味のある方、より深く実地で学びたい方は、ぜひ病院見学もご検討ください。
https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/fellowship.html

👇【質疑応答はこちら】👇
(講義5 結核へのアプローチについては後日追加させていただきます)
講義1 感染症診療の原則
Q1. 血液培養検査を行う閾値について質問したいです。
教科書的には、血液培養検査=菌血症を疑う際に提出する。と記載があります。具体的には悪寒戦慄やよくわからない意識障害やショック、菌血症になりやすい尿路、胆管感染症、そのほかにも、当院では、場合によって免疫抑制患者の発熱day1、高齢者の発熱day1でも外観やバイタルサインに問題なくても血液培養を検討したりします。
当院は他院から来た医師に血液培養の閾値が低いと言われますが、亀田ではどの様な患者に血液培養を提出しておりますか?高齢者の発熱day1に、問診、身体診察はもちろんとして、いわゆるfever work upとして血液培養を提出しておりますか?

A) ご質問ありがとうございます。ご紹介いただいたような事例での血液培養採取は適切だと思います。当院でもほぼ同様の閾値で血液培養を採取しています。血液培養は取っておかないとあとから取りたいと思っても抗菌薬が入ってしまってからでは菌が検出できなくなってしまいます。抗菌薬投与を考えた時には取っておくことがポイントだと思います。血液培養採取の閾値を下げて採取していると、「血液培養をとっておいてよかった」と思う事例を経験すると思います。感染症の確定診断は微生物の同定です。微生物が同定できて初めて de-escalation, 最適治療ができますので、起炎菌を捕まえるためのfever work upの一環として血液培養を採取するのは重要な診察手技の一つだと思います。日本の血液培養採取件数は諸外国に比べて少ないことがわかっています。国際的な標準と比較して、今の日本の状況で血液培養採取の閾値が低すぎる、ということはないと思います。

講義2 院内の発熱へのアプローチ
Q1. (会場) 長期投与している薬剤での薬剤熱は?

A) 薬剤熱を起こすまでの原因薬剤の投与期間の中央値は2-8日間です。ただし発熱までの時間は薬剤や発熱の機序によって大きく異なり、実際には、長期間投与していた薬剤が原因であった症例も経験します。例えば、ミノサイクリンを2年間内服して薬剤熱を発症した報告などもあります。基本的には被疑薬をやめてみて解熱するかを確認しますが、多くは2週間以内に開始した薬剤ですので、まずは頻度の高い1-2 週間以内に開始された薬剤から疑います。

Q2.(会場) CRBSIを疑う時、カテ先培養は基本的には出しますか?
>費用対効果のために近年米国では出さない傾向もありますが、当院では提出しています。
A) カテ先培養は歴史的に出されてきましたが、費用対効果を考えるとカテ先培養提出の意義は下がるとも近年考えられてきています。ただし、鑑別診断を考える上や、CRBSIの診断をより確かなものにするのには、提出する方が良いと当院では考えており、基本的にCRBSIを疑う症例は全例提出しています。

講義3 感染性心内膜炎へのアプローチ
Q1. (会場)人工弁で黄色ブドウ球菌が原因になっているときには、GMを使うことになっていますが、腎機能が悪いときにはどこまでGMを追加しますか?

A) ゲンタマイシンの腎障害は短期間であれば可逆性であり、耐用性がある場合は投与を行っている。予後が改善するという根拠は提示されていないが、菌血症の期間はやや短くなる。手術した瞬間に菌血症は無くなっていてほしいという思いもあるので、エビデンスではないが、直近で手術をするのであれば投与する。

Q2.TEEについて質問させてください。例えば MSSA一過性菌血症の際に、SABバンドルとしてTTEを実施したが疣贅は無く、経過も良好で2週間の抗菌薬治療を想定している様な場合はTEEまでしますか?また、おそらく口腔内を侵入門戸としたViridansの一過性菌血症の際に、IEを疑ってルーチンでTTE、TEEは施行しますか?

A)MSSA菌血症の場合、基本的には4週間の治療を行っています。またDuke criteriaを用いてIEの評価を行います。市中発症であり、人工物がなく、CVカテーテル挿入がなく、抗菌薬持続がなく、速やかに解熱しており、播種性病変がなく、IEが完全に否定されている場合など、いくつかの条件を満たす場合にはMSSA菌血症に対して2週間の治療も可能とされています(PMID:40193249)。CRBSI疑いで抗菌薬を2週間で終了する場合、TTE陰性が陰性であったとしても、IEがないことを確認するためにはTEEまで行う必要があります。
Viridans Streptococciが2セット以上で陽性になった場合は、IEが鑑別となるため、TTEは必ず行っています。TTEが陰性の場合は、Duke criteriaを確認のうえ、持続菌血症になっていないか、明らかな歯性感染症などの代替診断ないかなど、臨床的にどれほどIEを疑うかによってTEEまで行うかどうか判断します。

Q3. GMは3mg/kg q24hか1mg/kg q8hのどちらにされていますか?

A) 2015年のAHAのScientific Statementと、2023年のESCのガイドラインには、いずれも3mg/kg/dayで単回投与が推奨されています。AHAの文章には代替案として1日3回の分割投与も可能であると記載されています。投与の簡便性も考慮し1日1回投与とすることが多いです。

Q4. 脳梗塞合併例についてご相談させてください。MRI等で脳病変の合併が疑われる場合、抗菌薬の投与量について検討されることはありますでしょうか?

A) 脳梗塞を合併したIEに対して、抗菌薬の「量」を増量するなどして投与することはありません。MSSAのIEで脳梗塞を合併している場合、中枢神経感染症のリスクも考慮し*、髄液移行性のある抗菌薬を使用をしています。セファゾリンは髄液移行性がないとされており**、黄色ブドウ球菌用のペニシリン系薬(nafcillin, oxacillinなど)が選択肢となりますが、これらは日本にないため使用できません。どのような抗菌薬を選択するかは感染症内科医、施設毎に異なります。亀田総病院においては、第4世代セファロスポリンのセフェピムを使用したり、黄色ブドウ球菌用のペニシリン系薬であるクロキサシリンとアンピシリンの合剤であるビクシリンS®を使用したりしています。将来的には日本において黄色ブドウ球菌用ペニシリン系薬の単剤製品が使用できるようになることが望ましいですが、現状は上記の抗菌薬を用いて治療を行う必要があります。*脳梗塞の場合、厳密には血管内であるため、髄液移行性が本当に必要かどうかの判断は難しいところです。ただ、脳梗塞から脳膿瘍や出血性脳梗塞を発症する可能性もあり、脳梗塞を合併したIEに対しては基本的に髄液移行性のある抗菌薬への変更を行っています。
**セファゾリンの髄液移行性を示唆する研究も近年でてきており (PMID:40391958, 40393279, 30420481, 32437956)、セファゾリンでもMSSAの中枢性病変を治療可能であれば、脳梗塞を合併したIEをセファゾリンで治療するようになるのかもしれません。しかしながら現状ではまだセファゾリンの髄液移行性についてはコンセンサスが得られておらず、MSSAの中枢性病変についてはセファゾリン以外で治療を行っています。

Q5. 都立墨東病院の山室と申します。貴重なご講演をありがとうございます。IEと診断した際、明らかな理学所見を認めない場合も全身の画像スクリーニングを行っていますでしょうか。

A) IEの症例全てに対して膿瘍の検索目的で造影CTを撮像しているわけではありません。基本的には身体所見で腫脹や疼痛などの所見がある場合に膿瘍の検索目的で造影CTを撮像しています。黄色ブドウ球菌の場合は播種性病変を作りやすいため、身体所見で異常ないかどうかを日々診察し、異常が出現した場合は積極的に画像検索を行たほうがよいと考えます。
Q6. 他のフォーカスが明らかな場合の菌血症の場合にIEの精査をするか質問させてください.例として胆管炎で血液培養からS. anginosusが検出された場合胆管炎によるものとして培養フォローもせず治療をするか.IEの可能性考慮してフォロー血液培養+TTEも検討されますでしょうか?

A) IEを起こす典型的な微生物が血液培養で陽性となった場合は、他に代替診断があったとしても、持続菌血症がないかどうかを確認するために血液培養を再検することはリーズナブルであると考えます。Streptococcus anginosusが血液培養陽性の場合、臨床的に急性胆管炎が確かなのであれば、IEの精査は行わないこともありえます。代替診断がないかはっきりとしない場合は、Duke criteriaを用いてIEに合致する所見がないかどうかを確認していくことが必要です。

Q7. 脳塞栓症を伴うIE症例において、抗生剤の中枢移行性はどこまで考慮されますでしょうか。(例えばMSSAのIEでもCTRXやCFPMなどを使用されますでしょうか)

A) Q4の回答

Q8. 当院では黄色ブドウ球菌菌血症を診る機会が多く、化膿性椎体炎や腸腰筋膿瘍、膿胸を合併しているケースもよくみます。TEEまでやっても疣贅を発見できず、Duke criteriaでpossible IEに留まることも多々あります。このような病態は実質的にIEと認識した方がいいでしょうか?黄色ブドウ球菌菌血症という診断名にすべきか、Clinical IEとすべきか毎回悩んでいます。

A) 黄色ブドウ球菌が2セット以上で血培陽性の場合、TEEまで行って疣贅がない場合でも、Duke criteriaの小項目を3つ満たせばIEの確定診断となります。黄色ブドウ球菌菌血症であり、椎体炎や腸腰筋膿瘍、膿胸を合併している場合、Duke criteriaで確定診断とならなければpossible IEに分類されると思います。ただ、確定ではなくてもIEに近い病態であることが推察されます。診療に関しては、化膿性椎体炎であれば最低6週間(かつ赤沈が陰性かプラトーになるまで)、腸腰筋膿瘍であれば最低4週間(かつ画像的に膿瘍消失か縮小してプラトーになるまで)、膿胸であれば最低6週間は治療を行うことになり、治療期間はIEの場合とほとんど変わらなくなります。

Q9. (アンケート) 感染性心内膜炎で塞栓症がある場合、抗菌薬の投与期間の延長はせず、ガイドラインに記載されている治療期間でよいのでしょうか?(血栓に菌が付着しているなど、そういったことは考慮する必要はあるのでしょうか?) 何度でも聞きたい大切な内容ばかりで、大変勉強になりました。ありがとうございました。

A) 塞栓症状がある場合でも、必ずしも抗菌薬投与期間を延長する必要はありません。ただ膿瘍形成がある場合は、治療終了前に画像フォローを行うことはリーズナブルであると考えます。

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講義4 渡航歴のある発熱患者へのアプローチ
Q1. マラリアを疑った場合について質問です。マラリア蔓延地区への渡航歴のある人の発熱患者さんが来院し、マラリアを少しでも疑った場合にはすぐに専門機関をご紹介した方がいいでしょうか。院内で血液ギムザ染色をやって疑わしければ紹介、のほうがいいでしょうか。

A) 対応する病院のリソース、患者さんの重症度、発熱を説明する他の疾患の有無などにもよるので、一概には言えませんが、ご自身の施設でギムザ染色によるマラリア原虫の確認が行えるようであれば、まずは確認をしてみても良いと思います。専門機関に紹介した場合でも、まず確認するのはギムザ染色です。検査技師さんがギムザ染色でマラリア原虫のようなものを見つけてくれたので相談しましたというケースもしばしば経験します。既にギムザ染色の標本がある場合には、紹介状と一緒に末梢血のギムザ染色のスライドを持ってきてもらっています。一方で、診断、治療が遅れるとアウトカムに大きく影響する疾患ですので、マラリアの蔓延地域への渡航歴があり、潜伏期間的にも熱帯熱マラリアを想定するような症例で、自施設での評価が難しければすぐに専門機関に紹介しても良いと思います。近隣のクリニックや小さな病院などには、マラリアが考えられる国への渡航歴がある帰国後1ヶ月以内くらいの発熱症例については、すぐに相談して下さいと伝えています。

Q2. 腸チフスを疑った場合、骨髄培養まで提出されますでしょうか?

A) いきなり骨髄培養を提出することはまずありません。多くの場合は血液培養で診断が付きますし、渡航歴や経過から腸チフスを強く疑う症例では血液培養を提出した後に抗菌薬治療を開始してしまうからです。血液培養が陽性にならない不明熱のような経過をたどる症例の場合には、より感度の高い骨髄培養の提出を検討することはあります。

Q3. マラリアの罹患歴のある地域の方では症状が軽く出ることもあるというお話がありましたが、血液検査上の所見や傾向も同様に派手に出にくいものでしょうか。
A) 症状だけではなく、アウトカム、寄生率、貧血、血小板低下、AKI発症率などについても、差があるという報告はあるようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32161068/
実際の診療においても、同様の印象を受けます。

Q4. CTRXから抗菌薬変更する際に最初からAZMではなくMEPMを選択した理由を教えていただけますでしょうか。

A) 講義で紹介した症例は、比較的重症の入院症例でしたので、セフトリアキソンからアジスロマイシンではなく、メロぺネムに変更しました。�CDCのYellow Bookには以下のように記載されています。
For patients with suspected typhoid fever who traveled to Iraq or Pakistan, or who did not travel internationally before their illness began, empirically treat uncomplicated illness with azithromycin and treat complicated illness with a carbapenem.
XDR Typhoid症例では、メロぺネムとアジスロマイシンの併用も選択肢とされています。
Case reports have suggested that patients with XDR Typhi infection who do not improve on a carbapenem alone might benefit from the addition of a second antibiotic (e.g., azithromycin).
今回の症例でも、アジスロマイシンの併用については検討しましたが、メロぺネム単剤治療で徐々に解熱し、状態も改善したので併用は行わずに、退院をみこしてアジスロマイシンに変更しました。
詳しい経過は以下の症例報告をご参照ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39613102/

Q5. マラリアの薬剤耐性の疫学データについて参照可能なデータベースなどありますでしょうか。

A. WHOが提供しているMalaria THREATS MAPというサイトに、情報がよくまとまっていました。
https://apps.who.int/malaria/maps/threats/

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講義6 血液培養からアプローチする感染症診療
Q1. 質量分析器の利用によりこれまで臨床での分離報告が少ない細菌が報告されることも増えてきたかと思われます。その都度Mandellを参照したりCase series/narrative reviewなどを検索しているのですが感受性検査や病原性の情報に乏しくempiricalな治療薬選択に悩むことがあります。稀な細菌が検出されたときに先生方が参照されるデータベースなどありますでしょうか。またこのような場合に推奨される治療戦略などありますでしょうか。

A) ご質問ありがとうございます。
 会場でお話させていただいたとおり、私達も個別に調べております。ただ、自分これまでたまたま遭遇しなかっただけで微生物学領域では知られた微生物であることもあるので、私は以下のように検索しております。
まず教科書を調べる
Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases
Manual of Clinical Microbiology
次に総説を調べます。
Clinical Microbiology Reviewsなど
あとは会場で紹介した私達のMicrobiology Round (https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/microbiology/index.html)で議論したことがないか履歴を調べます。
ここまでで引っかかって来なければ文献検索をしてCase seriesや他にNarrative reviewがないか検索を行います。

参考になりましたら幸いです。

Q2. 血液培養からコンタミの可能性の高い菌を含め複数菌種類でた場合、コンタミの可能性のある菌は治療対象としなくて良いのでしょうか?状況にもよるかと思いますが教えて頂けると嬉しいです。

A) 複数菌が血液培養から発育してくるということもコンタミネーションの特徴ではありますが、コンタミネーションを起こす菌であったとしても患者の状況によっては真の菌血症である可能性があります。例えば人工関節が入っている患者で、血液培養2セット中1セットからStaphylococcus epidermidisとCutibacterium acnesが発育してきた場合などがこれにあたります。このような状況でもし患者が発熱して何ら感の感染があるという場合は治療を開始することもあります。その際は抗菌薬を開始する前に2回目の血液培養2セットを採取してから2菌種をカバーするように抗菌薬を開始します。人工関節が留置されている部分に感染兆候がなければ、抗菌薬を開始する前に採取した2回目の血液培養でこれらの菌が発育しなければその時点でS. epidermidisとC. acnesの治療の中止を検討することができます。仮に患者に発熱がなく状態が落ち着いており、尚且つ人工物が挿入されている部位に感染兆候がなければ抗菌薬は始めずに血液培養2セットのフォローアップのみで経過観察を行うこともあります。このように患者の状況に応じて対応を考えていきます。

Q3. 血液培養のフォローアップにつきまして、黄色ブドウ球菌やカンジダの場合は陰性化確認が推奨されていると思いますが、CNSなどが出てきてカテーテル血流感染症などを疑う場合に、血培再検は積極的にされていますでしょうか。

A) カテーテルが留置された患者でCNSがでた場合もフォローアップの血液培養を採取するようにしています。その理由は以下の二つになります。
 コンタミネーションの評価
血液培養の2セット中1セットで陽性になった場合はコンタミネーションの可能性があります。もし、フォローアップの血液培養からもCNSが発育するようであれば真の菌血症の可能性が高くなりますので、これを評価するためにフォローアップの血液培養を採取します。
 持続菌血症の有無(菌血症のクリアランスの確認)
フォローアップの血液培養でまたCNSが発育し持続的菌血症をきたしている場合、もし抗菌薬治療を開始後にCNSが発育してきたのであれば原因となるカテーテルの抜去(ソースコントロール)を考える必要があります。また、頻度は高くありませんが、化膿性血栓性静脈炎や感染性心内膜炎など他の感染巣の可能性も検討する必要があります。

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講義7 免疫抑制患者の感染症のアプローチ
Q1.  薬剤による細胞性免疫低下を定量的に比較することはできますでしょうか?
Q2. 化学療法による免疫抑制の程度についてNCCN guidelineを参照することがあるのですが、薬剤によっては記載がないものもあります。そういった場合、免疫抑制の程度を比較、評価する方法は何かありますでしょうか。

Q1とQ2をまとめて回答させていただきます。基本的にはNCCNのガイドラインなどを参照したり、その薬剤と感染症のリスクを論じたreview articleや、その薬剤と感染症についての多施設のコホート研究などをpubmedで探し、読み込んでいくという方法をとっています。発売直後などで情報が少ない場合は、その薬剤が承認された根拠となったRCTの論文の副作用の表やappendixに、多くの場合はどのような感染症がみられたかということが報告されていますので(nが小さいので稀な感染症までは報告はされていないことには注意が必要ですが)、それに目を通しておくと良いと思います。

microbiology roundでListeria monocytogenesについて取り上げました。Listeriaは2年ぶり3回目の登場です。 【歴史・微生物学的特徴】Firmicutes門 Bacilli綱 Bacillales目...
13/07/2025

microbiology roundでListeria monocytogenesについて取り上げました。
Listeriaは2年ぶり3回目の登場です。
 
【歴史・微生物学的特徴】
Firmicutes門 Bacilli綱 Bacillales目 Listeriaceae科 Listeria属
 
 L. monocytogenesは、1926年にケンブリッジ大学で実験動物に発生した突然死の原因として初めて同定され報告された。感染した動物の血液では、大型の単核球増多が顕著に認められたことからBacterium monocytogenesと名付けられ、その後、イギリスの外科医Joseph Listerの姓にちなんでL. monocytogenesに改名された。1929年に初めてヒトの病原体として認識された。L. monocytogenesは自然界に幅広く存在して、土壌や腐朽した植物および多数の哺乳動物の糞便細菌叢の一部である。ナチュラルチーズ※、肉や魚のパテ、生ハム、スムークサーモン、カンタロープ(メロン)などがL. monocytogenesの媒介食品となる。
 ※ナチュラルチーズとは、乳、クリーム、バターミルクまたはこれらを混合して凝固させた後、ホエーを除去して製造されたもの(カマンベールチーズなど)。製造過程に加熱処理が含まれない。加熱処理を含めるものはプロセスチーズとよばれる(スライスチーズなど)
 
 リステリア属菌は、2013年以降平均的に2種類/年のペースで増加しているが、基本的にヒトに感染症を起こす菌はL. monocytogenesだけである。もともと菌体由来のO抗原と鞭毛由来のH抗原による血清型が用いられていたが、14の血清型のほとんどすべての感染症が血清型1/2a,1/2b,4bによって起こるため、疫学的調査で血清型の有用性は限られている。近年は、全ゲノムシーケンシングを用いた菌株解析と、疫学情報を組み合わせたサーベイランスが実施されている。
 
 L. monocytogenesの至適発育温度は30-37℃だが、他の多くの細菌と異なり、冷蔵庫内の温度(4-10℃)環境でも発育可能である。L. monocytogenesは低温、酸性、高食塩濃度などの厳しい環境でも適応して発育する。そのためL. monocytogenesのアウトブレイクに関連する食品は、汚染のリスクがある食品、L. monocytogenesが増殖しやすい食品、長期間保存できる食品(摂取時に細菌の菌量が多くなる)、冷蔵保存される食品に多い。
 
  L. monocytogenesは、小型、通性嫌気性、非芽胞形成性、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、不完全なβ溶血を形成するGram陽性桿菌である。Gram染色ではGram不定性で、時にGram陰性に見えることがある。ジフテリア、腸球菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、腸内細菌目細菌と誤認されることもある。発育培地次第で短い桿菌、長い桿菌または楕円形の球菌が生成される場合があるある。Group B Streptococcus(GBS)との鑑別は、BTB培地で発育があればL. monocytogenesで、発育がなければGBSである。また、Corynebacterium属菌との鑑別は、運動性があればL. monocytogenesで、運動性がなければCorynebacterium属菌である。L. monocytogenesは極鞭毛を持っていおり、室温(25℃)で、タンブリングと呼ばれる特徴的な鞭毛による回転運動を示す。
 
【臨床的特徴】
1.感染経路
 典型的には、リステリアに汚染された食品の摂取により感染する。他に、経胎盤あるいは感染した産道を通じての母子感染、および新生児室内の交差感染がある。L. monocytogenesは、腸管内で内皮細胞による能動的なエンドサイトーシスによって粘膜バリアを突破し、血行性の播種が起こる。L. monocytogenesは中枢神経系と胎盤への特異的な指向性を有している。
 
2.潜伏期間
 1985から2015年までにCDCに報告された侵襲性リステリア症例のアウトブレイク事例の解析では、リステリア曝露から発症までの中央値は11日(範囲:0〜70日)で、症例の90%が曝露から28日以内に発症していたと推定された4)。 ※胃腸炎の場合は1日と非常に短い。
 
3.危険因子
 年齢(高齢または新生児)、妊婦、グルココルチコイド含めた免疫抑制剤治療中、血液悪性腫瘍・固形臓器腫瘍、臓器移植後、糖尿病、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群、アルコール依存症、HIV感染症、鉄過剰状態、PPI使用など。
 
4.臨床像
 無症候性感染や自然治癒する胃腸炎から菌血症や髄膜脳炎などの侵襲性感染症まで広範囲にわたる.侵襲性感染症はa)周産期感染症,b)菌血症,c)中枢神経感染症の3病型が主.他に感染性心内膜炎,血管内感染,関節炎,骨髄炎,腹膜炎,尿路感染症,肺炎なども起こる.
 
a)周産期感染症
 妊娠中は軽度の細胞性免疫低下が生じるため、妊婦はリステリアの感染リスクが一般人口(0.7人/10万人)と比較して17倍高い(妊婦0.7人/10万人)。母体自体は軽症で、予後は良好であることが多い。症状は非特異的でインフルエンザ様症状を呈することもある。妊婦のリステリアによる中枢神経感染症は稀である。細胞性免疫が落ちる妊娠後期に母体が感染しやすいとされている。一方、胎児への垂直感染は経胎盤的に生じるが、胎児死亡、早産、新生児リステリア症を引き起こすことがあり、高い罹患率と死亡率を伴う。フランスで行われたリステリア症の大規模な前向き研究では、胎児または新生児における重大な合併症が妊娠症例の最大83%で発生していた5)。
b)菌血症
 侵襲性リステリア症で最も多く、感染性心内膜炎や化膿性関節炎などと同様に神経リステリア症へ進展することがある。非妊婦患者で、L. monocytogenes菌血症を発症した患者のうち、97%に何らかの免疫不全(医学的疾患または免疫抑制剤使用など)がある。菌血症の症状は、発熱や筋肉痛など他の菌による菌血症の症状と同じで非特異的である。下痢や嘔気などの前駆症状を認めることがある。3か月死亡率は45%程度と報告されている。
c)中枢神経感染症
リステリアの中枢神経感染症は、侵襲性リステリア症で菌血症に次いで2番目に多い症状である。L. monocytogenesは、細菌性髄膜炎をきたす他の一般的な細菌(肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌)と対照的に、髄膜のみならず脳そのもの(特に脳幹)への指向性がある。そのため、リステリア髄膜炎は13%程度であるのに対して、リステリア髄膜脳炎が84%で生じる。L. monocytogenesは、小脳症状や脳幹症状を伴う脳炎(rhombencephalitis)を引き起こすこともある。中枢神経リステリア症の776例のレビューでは、症例の約3割がリスク因子がなかったと報告されている6)。患者の約90%で発熱症状を呈するが、他の症状の感度は低くく、また42%は受診時に髄膜刺激徴候がなかったとも報告されている6)。また、先に述べたフランスの前向き研究では5)、項部硬直の所見は65%程度に認め、検査の感度は、髄液グラム染色は32%、髄液培養は84%、髄液PCRは63%程度であった。
 
【診断】
 以下のいずれかの臨床状況においては、リステリア症を鑑別疾患の1つとして強く疑う必要がある。
 ・新生児における呼吸困難・敗血症・髄膜炎
 ・次の患者に生じた髄膜炎または脳実質の感染症
  血液悪性腫瘍患者、固形腫瘍患者、臓器移植後患者、AIDS患者、免疫抑制療法(がんに対する化学療法、副腎皮質ステロイド、抗TNF阻害薬)を受けている患者
  亜急性経過
  50歳以上の成人
  髄液でGram陽性桿菌が認められる患者
 ・髄膜と脳実質が同時に侵される感染症
 ・皮質下脳膿瘍
 ・妊娠中(特に妊娠第3期)の発熱
 ・食品媒介性の発熱性胃腸炎のアウトブレイクにおいて、通常の培養で病原体を同定できなかった場合
   
 侵襲性リステリア症は、通常は無菌である血液、髄液、羊水、胎盤組織、房水、または硝子体液などの検体の培養からL. monocytogenesを検出することで診断される。先に述べたフランスの前向き研究では5)、周術期リステリア症の診断において、胎盤の培養や胎児の胃液培養の感度が高かったと報告されている。画像検査では、MRIはCTよりも脳実質病変、特に脳幹部の病変を描出するのに優れている。
 
【治療】
 リステリア感染症に対する、第一選択薬や治療期間に関する質の高いエビデンスはない。第一選択薬として、アンピシリンおよびペニシリンGが、単独もしくはアミノグリコシドと併用で使用されている。慣習的にアンピシリンが使用されているが、ペニシリン系抗菌薬が使用できない患者では、代替薬としてST合剤やメロぺネムが使用される。セファロスポリンは使用するべきではないとされている。In vitroで、βラクタム系抗菌薬は L. monocytogenesに対して静菌的であり、アミノグリコシド系抗菌薬を追加すると相乗的に殺菌効果が強化されることが示されている、しかし、動物実験・臨床研究いずれにおいても、アミノグリコシドの有効性に関するデータはまちまちである。またアミノグリコシド系抗菌薬併用によるアウトカムの改善は示されていない。併用によって死亡率が増加した報告もあれば、死亡率の改善を示すものもある。そのため、米国および欧州のリステリア髄膜炎の治療ガイドラインでは、アミノグリコシド併用療法は正式な推奨ではなく、検討することを推奨するにとどまっている。ペニシリン系抗菌薬もST合剤も使用できない場合には、メロぺネムやイミペネムの使用が検討される。ただし、両者ともけいれん発作の閾値を下げ、さらに治療失敗も報告されてる。動物実験ではイミペネムはアンピシリンよりも有効性が劣っていることが報告されている。
 侵襲性リステリア症の最適な併用期間は不明である。周産期リステリア感染症や菌血症では、最低2週間が推奨されている。リステリア髄膜炎/ 髄膜脳炎では、最低3週間、脳膿瘍では6~8週間の治療が推奨されている。
 細菌性髄膜炎の治療でデキサメタゾンが使用されることがあるが、デキサメタゾンは中枢神経リステリア症の死亡率を増加させる報告があり5)、細菌性髄膜炎の治療開始後にリステリア症と診断された場合は投与を中止する。
 
【予防】
 食品媒介性のリステリア症の予防では、生野菜は調理前や食べる前によく流水で洗うこと、肉類は十分に加熱調理すること、生乳(低温殺菌されていないもの)や生乳を含む食品を食べないこと、が推奨されている。また、キッチンを清潔に保つこと、例えば調理後にはてや調理器具はよく洗うことが大切である。リステリアは低音であるほど繁殖しにくいため、食品を保存する場合には、冷凍庫やチルド室を活用する。
 臓器移植患者やHIV/AIDS患者で、ニューモシスチス肺炎の予防薬としてST合剤が使用されている場合があり、この場合には理論上リステリア症も予防されているが、リステリア症の発生率が低すぎるため、予防における有効性を評価することはできない。高リスク群における予防は、上記の対策に加え、さらなる食品の消費と取り扱い方法を実践することによる予防がより重要である(例:惣菜売り場の店頭に並べられている食品は購入しない、など)。
 
【参考文献】
1) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 9th edition, 206, 2543-2549.e2
2) シュロスバーグの臨床感染症学 第2版, Section 18 微生物各論.142.Listeria.
3) 厚生労働省 リステリアによる食中毒 消費者のみなさまへ
4) Clin Infect Dis. 2016 Dec 1;63(11):1487-1489.
5) Lancet Infect Dis. 2017 May;17(5):510-519.
6) Medicine (Baltimore). 1998 Sep;77(5):313-36.

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