亀田総合病院 感染症内科

亀田総合病院 感染症内科 医療法人鉄蕉会 亀田総合病院 感染症内科でのフェローシップ研修を検討している方に。
(※掲載される情報は投稿者あるいは感染症内科の意見であり、病院組織全体の意見ではありません)

亀田メディカルセンターが運営する公式facebookページ

亀田メディカルセンター』は、亀田総合病院を中心とした、亀田クリニック、亀田リハビリテーション病院などの医療サービス施設の総称です。千葉県南部に位置し、基幹病院としての役割を担う当センターには、診療科目34科(亀田クリニックは31科) 1日の平均外来患者数3,000名と近年では国内の様々な地域、また海外からも患者さまが来院されます。亀田メディカルセンターは外来診療から急性期の治療(入院)そして、急性期の治療を終えた回復期のリハビリまで、患者さまお一人お一人に合った質の高い医療を提供することにより患者さまのQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指しています。

◆外来診療 亀田クリニック(病床数19床)
◆救急・急性期医療・総合周産期 亀田総合病院(病床数917床)
◆亜急性期医療 亀田リハビリテーション病院(病床数56床)
◆健康管理 検診センター(鴨川・幕張)
◆亀田総合病院附属 幕張クリニック
◆亀田ファミリークリニック館山
◆亀田京橋クリニック
◆亀田IVFクリニック幕張

ミッション:
我々は、全ての人々の幸福に貢献するために愛の心をもって常に最高水準の医療を提供し続けることを使命とする。

 ~亀田メディカルセンターの価値観~
その最も尊ぶところ:患者さまのために全てを優先して貢献すること
その最も尊ぶ財産:職員全員とその間をつなぐ信頼と尊敬
その最も尊ぶ精神:固定概念にとらわれないチャレンジ精神

~亀田メディカルセンターの主義~
患者さまは我々全ての行動の中心である
職員は常に信頼と尊敬をもって医療に従事する
チャレンジ精神をもって常に高い理想への向上心を持ち続ける

来年度から高齢者への高用量インフルエンザワクチンが定期予防接種に入ります。従来の4倍量の抗原が入った高用量インフルエンザワクチンは欧米で先行して導入されていましたが、その有効性を証明する論文が複数報告されており、それを踏まえて厚労省の審議会...
28/11/2025

来年度から高齢者への高用量インフルエンザワクチンが定期予防接種に入ります。
従来の4倍量の抗原が入った高用量インフルエンザワクチンは欧米で先行して導入されていましたが、その有効性を証明する論文が複数報告されており、それを踏まえて厚労省の審議会予防接種・ワクチン分科会での議論を経て高齢者の定期予防接種Bとして採用されることになりました。
2024年のJournal of Infectionのシステマティックレビューでは従来のワクチンと比較して入院を減少(相対的ワクチン効果rVE23.5%)させました。死亡率には有意差を認めませんでした。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016344532400121X
2025年のLancetに報告された論文ではインフルエンザまたは肺炎によるに入院リスク(rVE)を8.8%減少させました。こちらの報告でも総死亡には差はありませんでしたが、検査で確定されたインフルエンザの入院を31.9%減少させており、患者への有益性とともに医療機関への負担減少という点でも重要な意味があると思います。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41115437/
以下に定期予防接種採用の発表と厚労省の分科会での資料、10月22日に開かれた厚労省の分科会でのインフルエンザのファクトシートのリンクを張っておきます。
https://www.sanofi.co.jp/assets/dot-jp/pressreleases/2025/251121.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001563875.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001583663.pdf

Sanofi.

先日のMicrobiology roundではScedosprium属を取り上げました。【語源】・Sced[ばらまく]、spora[胞子]、apio[しばる]、sperma[精子]、boyd[人名].【疫学】・温帯地域に多く見られ、種の分布...
18/11/2025

先日のMicrobiology roundではScedosprium属を取り上げました。

【語源】
・Sced[ばらまく]、spora[胞子]、apio[しばる]、sperma[精子]、boyd[人名].

【疫学】
・温帯地域に多く見られ、種の分布には地域差がある。(1)
・大部分は、オーストラリア、フランス、スペイン、アメリカ合衆国、インド、ドイツ、日本で報告されており、最も多く報告されている病原体はS. apiospermum。(2)

【微生物学的特徴】
・Scedosprium属には当初、Scedosporium apiospermumとS. prolificansの2種が認識されていた。その後、再分類されScedosporium属には現在18種が含まれている。
・Scedosporium属はAspergillus属に類似しており、2分枝の菌糸が見られるが、Scedosporium属ではY字型の2分枝ではなく、60-70度の角度で横に分岐することがより一般的。(3)
・標準的な真菌培地でよく増殖する。数日後、カビのコロニーは黄褐色になり、 Aspergillusとは全く異なる胞子を形成する。(3)
・Scedosporium属の形態学的特徴として、コロニーは白色や灰色、褐色の綿毛(フェルト)状の集落を形成する。菌糸幅は 2~5 μm とAspergillusの菌糸より細く、有隔壁で菌糸先端や側方には1~2個の卵円型の分生子を形成する。コロニーの発育速度や色調、性状による肉眼的な観察と、スライドカルチャー法での顕微鏡による形態から、属レベルまでは通常の細菌培養が行える施設でも同定可能である。種レベルの同定には形態学的方法に加えて質量分析法や遺伝子検査が重要となる。遺伝子検査では真菌の菌種同定で使用されるITS領域やβ-tubulin遺伝子などの塩基配列を解析することで同定可能である。(19) (20)
・βDグルカンなどの真菌マーカーに関する臨床研究は不足している。Scedosporium脳膿瘍およびL. prolificans真菌血症の症例報告では、血清βDグルカンが補助的検査として有用である可能性が示されている。(4)(5)
・通常無菌の部位からScedosporium属菌を分離すれば 診断可能。血液からScedosporium属菌を培養できるのは稀。(6)
・喀痰、気管支肺胞洗浄液、排液創、または副鼻腔吸引液からの菌の分離は、塗抹標本または生検で菌糸が認められない限り、感染の確固たる証拠とはなり得ない。(7)

【臨床像】
・2つの異なる疾患を引き起こす。
1. Mycetoma(菌腫):慢性皮膚感染症(粒状のものをつくる)
2. Scedosporiosis:Scedosporium属菌によって引き起こされる他のすべての感染症
・感染経路
(i)空気中に漂っている胞子を吸い込む、
(ii)怪我をした際に環境中の真菌が体内に入り込む(8)
・リスク因子:固形臓器移植と血液疾患の治療。(9)
・Scedosporium症の最も一般的な部位は、肺、骨、関節、および中枢神経系。副鼻腔炎、角膜炎、眼内炎、皮膚・軟部組織感染症、前立腺炎、心内膜炎も報告されている。(10)

・副鼻腔などの空気を含む空間は、胞子形成しやすい環境。好中球減少症の患者では、血管侵襲と血栓症がよく見られる。(3)
・世界中の土壌や淡水、特に溜まった水や汚染された水中に存在する。肺や副鼻腔に吸入したり、皮膚を通じた外傷によって感染が起こる。汚染された水での溺水後にScedosporium関連肺炎を発症した症例が多く報告されている。(3)
・定着は多いが、侵襲性肺アスペルギルス症に類似した侵襲性肺疾患が発生し、通常は免疫不全患者に見られる。外傷により、免疫正常者の眼、軟部組織、骨関節感染症の最も一般的な原因。CNS感染症は、免疫不全者と健康な人の両方に見られる(11)。
・免疫正常患者における感染症は通常、亜急性から慢性の経過をたどるが、免疫不全患者における感染症は頻繁に急性かつ重症(3)。

<呼吸器感染症>
・Aspergillus属に次いで2番目に頻繁に分離される真菌病原体。(12)

・侵襲性肺アスペルギルス症と同様に、侵襲性肺スセドスポリウム症は、遷延性好中球減少症の患者、長期間の高用量コルチコステロイド療法を受けている患者、または同種骨髄移植を受けた患者で最も多く発生する(13)。
・播種を伴う侵襲性肺疾患はよく見られ、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者や固形臓器移植後にも発生している(14) (15)。
・重度の免疫不全患者における肺疾患は、通常、発熱、咳、胸膜痛、そしてしばしば喀血として現れる。胸部X線検査では、結節性陰影、肺胞浸潤、consolidation、または空洞形成が認められることがある。(16)

【治療】
・Scedosporium症の効果的な治療法は依然として分かっていない。アムホテリシンBに対するin vitroおよび臨床的耐性、ならびにブレークスルー感染が繰り返し報告されている。(17)
・複数の研究において、ボリコナゾールベースの治療の転帰は、あらゆる製剤のアムホテリシンBによる治療よりも優れていたという報告がある。(17)(18)
・外科的デブリードマンは、軟部組織、骨、関節、胸膜および副鼻腔の治療において重要な補助手段となっているが、それ単独では治癒できない。関節内へのアムホテリシンB注入が、少数の患者における治療成功に寄与した可能性がある。脳膿瘍の死亡率は75%を超えると言われている。(11)
・ボリコナゾール単剤による治療失敗も報告されており、リポソーマルアムホテリシンB、ポサコナゾールの使用、ボリコナゾールへのミカファンギンの追加による治療成功の報告もある。ガイドラインではサルベージ療法としてポサコナゾールへの変更、もしくはエキノカンジン系の追加が中等度に推奨されている。
・アゾール系およびエキノカンジン系に対するin vitro感受性はさまざまであることが報告されている。(9)
・抗真菌薬と併行して免疫抑制のレベルを下げることが極めて重要である。

【治療期間】
・Scedosporium属細菌感染症の最適な治療期間はまだ確立されていないが、感染症の徴候や症状が消失するまで治療を継続することが推奨される。
・Scedosporium属細菌感染症の大部分が、3~6 か月の追跡期間中に抗真菌治療に反応を示している。これは、少なくとも 6 か月の長期治療が必要である可能性を示唆している。(2)

(1) Kaltseis J, Rainer J, De Hoog GS. Ecology of Pseudallescheria and Scedosporium species in human-dominated and natural environments and their distribution in clinical samples. Med Mycol 2009; 47: 398–405.
(2) Scedosporiosis and lomentosporiosis: modern perspectives on these difficult-to-treat rare mold infections. Clin Microbiol Rev. 2024;37(2):e0000423.
(3) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 2-Volume Set, 10th Edition

(4) Nishimori M, Takahashi T, Suzuki E, Kodaka T, Hiramoto N, Itoh K, Tsunemine H, Yarita K, Kamei K, Takegawa H, Takahashi T. 2014. Fatal fungemia with Scedosporium prolificans a patient with acute myeloid leukemia. Med Mycol J 55:E63–70.
(5) Levesque E, Rizk F, Noorah Z, Aït-Ammar N, Cordonnier-Jourdin C, El Anbassi S, Bonnal C, Azoulay D, Merle JC, Botterel F. 2017. Detection of (1,3)-β-D-glucan for the diagnosis of invasive fungal infection in liver transplant recipients. Int J Mol Sci 18:862
(6) Cortez K.J., Roilides E., Quiroz-Telles F., et al.: Infections caused by Scedosporium spp . Clin Microbiol Rev. 2008; 21: pp. 157-197.
(7) Fernandez-Flores A., Lopez-Medrano R., Fuster-Foz C.: Histopathological clues in the diagnosis of fungal infection by Scedosporium in a case of endophthalmitis starting as conjunctivitis . J Cutan Pathol 2016; 43: pp. 461-467.
(8) Scedosporiosis and lomentosporiosis: modern perspectives on these difficult-to-treat rare mold infections. Clin Microbiol Rev. 2024;37(2):e0000423.
(9) Hoenigl M., Salmanton-Garcia J., Walsh T.J., et al.: Global guideline for the diagnosis and management of rare mould infections: an initiative of the European confederation of medical mycology in cooperation with the International Society for human and animal mycology and the American Society for Microbiology . Lancet Infect Dis 2021; 21: pp. e246-e257.
(10) Guarro J., Kantarcioglu A.S., Horre R., et al.: Scedosporium apiospermum: changing clinical spectrum of a therapy-refractory opportunist . Med Mycol 2006; 44: pp. 295-327.
Cortez K.J., Roilides E., Quiroz-Telles F., et al.: Infections caused by Scedosporium spp . Clin Microbiol Rev. 2008; 21: pp. 157-197.
(11) Kantarcioglu A.S., Guarro J., de Hoog G.S.: Central nervous system infections by members of the Pseudallescheria boydii species complex in healthy and immunocompromised hosts: epidemiology, clinical characteristics and outcome . Mycoses 2008; 51: pp. 275-290.
(12) Heath CH, Slavin MA, Sorrell TC, et al. Population-based surveillance for scedosporiosis in Australia: epidemiology, disease manifestations and emergence of Scedosporium aurantiacum infection. Clin Microbiol Infect 2009; 15: 689–93
(13) Husain S., Munoz P., Forrest G., et al.: Infections due to Scedosporium apiospermum and Scedosporium prolificans in transplant recipients: clinical characteristics and impact of antifungal agent therapy on outcome . Clin Infect Dis 2005; 40: pp. 89-99.
(14) Lamris G.A., Chamilos G., Lewis R.E., et al.: Scedosporium infection in a tertiary care cancer center: a review of 25 cases from 1989-2006 . Clin Infect Dis 2006; 43: pp. 1580-1584.
(15 )Castiglioni B., Dutton D.A., Rinaldi M.G., et al.: Pseudallescheria boydii (anamorph Scedosporium apiospermum ): infection in solid organ transplant recipients in a tertiary medical center and review of the literature . Medicine (Baltimore) 2002; 81: pp. 333-348.
(16) Kantarcioglu A.S., de Hoog G.S., Guarro J.: Clinical characteristics and epidemiology of pulmonary pseudallescheriasis . Rev Iberoam Micol 2012; 29: pp. 1-13.
(17) Seidel D, Mei©¨ner A, Lackner M, et al. Prognostic factors in 264 adults with invasive Scedosporium spp and Lomentospora prolificans infection reported in the literature and FungiScope. Crit Rev Microbiol 2019; 45: 1–21
(18) Scedosporium apiospermum and Scedosporium prolificans in transplant recipients: clinical characteristics and impact of antifungal agent therapy on outcome. Clin Infect Dis 2005; 40: 89–99.
(19) 一般社団法人日本医真菌学会 希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン
(20) 畠山裕司, et al. Scedosporium 属が分離された津波肺の 3 症例. 日臨微誌, 2012, 22: 289-297.

当科で接種を開始していた妊婦さんへのRSVワクチンが来年度から定期予防接種になることになりました。良いことだと思います。RSVワクチンは2種類し市販されていますがファイザーの“アブリスボ”と言う製剤が妊婦さんへの接種に使用されます。
17/11/2025

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【NHK】生後まもない赤ちゃんがかかると肺炎を起こして重症化することもある「RSウイルス感染症」について厚生労働省は、こうした重症

先月になりますが、移植学会総会にて当科の大澤が「COVID-19総括 - 感染症学の観点から」のお題で、移植学会がどのようにコロナ禍を乗り切ったかというセッションに参加しました。また、オータムセミナーにて「固形臓器移植と感染症」について1時...
11/11/2025

先月になりますが、移植学会総会にて当科の大澤が「COVID-19総括 - 感染症学の観点から」のお題で、移植学会がどのようにコロナ禍を乗り切ったかというセッションに参加しました。また、オータムセミナーにて「固形臓器移植と感染症」について1時間のお話をする機会をいただきました。日本には体系的に移植感染症(特に固形臓器移植)を学べるプログラムは非常に少なく、当院では腎移植と造血幹細胞移植関連の感染症に併診という形で経験することができます。一般感染症はもちろんのこと、少し特殊な免疫抑制患者の感染症まで、基礎からしっかりと学びたい方は、感染症内科フェローシップ(3年)のコースがあります。1日の見学から、短期ローテーション(1ヶ月-1年など)も可能ですので、興味のある方はぜひご連絡ください。

この動画ちょと面白くて、風に抗菌薬は効かないってことを上手に伝えてると思います。
31/10/2025

この動画ちょと面白くて、風に抗菌薬は効かないってことを上手に伝えてると思います。

FUNNY MOVIE社制作 代理先生のこうきんやくんとギャルJKの軽妙ショートアニメ。「かぜに抗菌薬は効かない」をテーマに展開します。

亀田総合病院感染症内科のOBである大路剛先生(神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター)が、新著『どんなセッティングでも応用できる 大路のロジックで紐解く 感染症診療』を出版されました!感染症診療において「なんとなく」ではなく、「なぜそ...
19/10/2025

亀田総合病院感染症内科のOBである大路剛先生(神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター)が、新著『どんなセッティングでも応用できる 大路のロジックで紐解く 感染症診療』を出版されました!
感染症診療において「なんとなく」ではなく、「なぜそう考えるのか」を明確にすることの重要性と、その思考プロセスが丁寧に言語化されています。
市中病院、大学病院、クリニックなど、どんな医療現場でも応用できる実践的なアプローチが満載です。発熱患者の初期評価から、抗菌薬の選択、治療効果判定まで、感染症診療の各ステップにおける「大路のロジック」が具体的な症例を交えながら解説されています。
研修医の先生方はもちろん、感染症診療に関わるすべての医療者にとって、日々の診療を見直し、レベルアップするための良き指南書となるはずです。
当科で培った臨床的思考と教育への情熱が詰まった一冊を、ぜひお手に取ってみてください。
大路先生、素晴らしい本の出版、誠におめでとうございます!

●3つの情報源(病歴・自覚症状、身体所見、検査)から鑑別診断を絞り込む!鑑別診断のなかで感染症を疑う場合の適切な感染臓器の推定、および治療の選択などのいわゆる「一般感染症診療」は、 2018年から診療報酬に導...

先日のMicrobiology roundではAcinetobacter sp. を取り上げました。【名前の由来】a (ギリシャ語 not), kineô (ギリシャ語 動かす), acinetus (ラテン語形容詞 運動できない), ba...
17/10/2025

先日のMicrobiology roundではAcinetobacter sp. を取り上げました。

【名前の由来】
a (ギリシャ語 not), kineô (ギリシャ語 動かす), acinetus (ラテン語形容詞 運動できない), bacter (ラテン語 桿菌)→「非運動性の桿菌」という意味。1914年に分離され、1940年以降に多く報告されたが、ごく最近までA. baumanniiとA. calcoaceticusは区別できておらず、古い文献ではおそらく両種が混在している(A. calcoaceticus–A. baumannii complexという語が適切) 。同属には50種類以上があるが、大部分は非病原性で、感染症を起こす頻度の高いものは、A. baumannii (最も毒性が強い)、次いでA. calcoaceticus、その他A. lwoffii、A. nosocomialis 、A. pittiiなどがある。1

【微生物学的性質】 2, 13
・好気性、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、グラム陰性球菌。
・24時間で良好に発育し、5%ヒツジ血液寒天培地上では腸内細菌に比べやや小さめな(2-3mm)白色コロニーを形成する。 BTB寒天培地上では淡黄色の凸型コロニーを形成し、乳糖非分解性のため培地は青色を呈することが多い。
・MALDI-TOF MSにより属レベルで同定可能であるが、Acinetobacter属内の菌種間でスペクトルが類似していることや、生化学的性状による識別が困難であることから、日常検査では菌種レベルの正確な同定には限界がある。
・一方で、臨床的に重要なAcinetobacter calcoaceticus-baumannii complex(ACB)と、それ以外の菌種(non-ACB:NACB)とは、MALDI-TOF MSによりグループレベルで判別が可能であるため、日常検査では、「ACB」または「Acinetobacter sp.(NACB)」として報告されることが多い。
・当院検査室では、臨床現場での理解を促す目的でA. baumanniiを中心に構成される群を「Acinetobacter baumannii complex(ABC)」として報告している。
・アシネトバクター属の抗菌薬耐性の大部分はβ-ラクタマーゼの発現に因る。2番目は排出ポンプ。 またポーリンの数が少なく、サイズが小さいため、他のGNRよりはるかに透過性が低いことも一因である。(ex. セファロスポリンの透過係数は緑膿菌の方が2~7倍大きい 3)乾燥条件下で、細胞膜が肥厚して表面に生存しやすくなるため4、環境伝播の対策が非常に困難である。

【臨床症状】1
一般的な臨床像は、院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎、菌血症である。挿管チューブはバイオフィルムを形成するAcinetobacterの理想的な温床となる。その他、カテーテル関連尿路感染症、創部感染、骨髄炎、心内膜炎、術後髄膜炎(市中髄膜炎はほぼなし)など。市中感染は熱帯環境で発症するため、オーストラリア、オセアニア、中国、台湾、タイなどアジアで多く見られる。軍事紛や自然災害での外傷の原因にもなっている。

【治療】
Acinetobacter sp. 2
◯スルバクタム(ABPC/SBT、Durlobactam/SBT)
SBTはPBP1,3に結合する。SBT耐性は45-80%5だが、Durolobactam/SBTでは回復している。
◯セフタジジム、セフェピム6
◯カルバペネム
◯セフィデロコール 7
◯セフィデロコール+CAZ/ABV、セフィデロコール+ABPC/SBT ;セフィデロコール耐性を防ぐ8
△〜◯アミノグリコシド: 肺炎×髄膜炎×、感受性自動検査の精度が低いため注意。
△〜◯チゲサイクリン:併用で使用。血流感染に使用できない、治療中に耐性化する。
△〜◯コリスチン:治療中に耐性化することがある、A. juniiなどは内因性耐性、抗菌薬の毒性に注意。

carbapenem-resistant Acinetobacter baumannii (CRAB) 9
標準レジメンはない。データが限られるため、臨床的反応が見られるまで併用する。

◯Durlobactam/SBTとイミペネムを組み合わせる 10,11
IMPがPBP2に結合することで、Durlobactam/SBTのMIC低下すると考えられている10,11.

◯Durlobactam/SBTが利用できない時は、高用量ABPC/SBT(SBT 9g)+1剤を組み合わせる
 組み合わせる1剤:ポリミキシンB、ミノサイクリン > チゲサイクリン、セフィデロコール
標準用量・高用量が同等かデータは不十分であり、AMRガイダンスでは高用量を支持している.
カルバペネムは、Durlobactam/SBTとの併用でのみ推奨されている. コリスチン+カルバペネムでも有効性は実証できず12.

【予防】2
伝播の方法は、環境表面での持続や医療者の手への一時的な定着を介して起こるため、標準予防策は必須。ポーリン、排出ポンプの発現により消毒効果が低下するという報告もある。

【参考文献】
1. Wong D, Nielsen TB, Bonomo RA, Pantapalangkoor P, Luna B, Spellberg B. Clinical and pathophysiological overview of Acinetobacter infections: A century of challenges. Clin Microbiol Rev. 2017;30(1):409-447.
2. Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles & Practice OfInfectious Diseases, 10th Ed., in 2 Vols.; 2026.
3. Vila J, Martí S, Sánchez-Céspedes J. Porins, efflux pumps and multidrug resistance in Acinetobacter baumannii. J Antimicrob Chemother. 2007;59(6):1210-1215.
4. Fournier PE, Richet H. The epidemiology and control of Acinetobacter baumannii in health care facilities. Clin Infect Dis. 2006;42(5):692-699.
5. Gales AC, Seifert H, Gur D, Castanheira M, Jones RN, Sader HS. Antimicrobial susceptibility of Acinetobacter calcoaceticus-Acinetobacter baumannii complex and Stenotrophomonas maltophilia clinical isolates: Results from the SENTRY antimicrobial surveillance Program (1997-2016). Open Forum Infect Dis. 2019;6(Suppl 1):S34-S46.
6. Rodríguez-Martínez JM, Nordmann P, Ronco E, Poirel L. Extended-spectrum cephalosporinase in Acinetobacter baumannii. Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(8):3484-3488.
7. Bassetti M, Echols R, Matsunaga Y, et al. Efficacy and safety of cefiderocol or best available therapy for the treatment of serious infections caused by carbapenem-resistant Gram-negative bacteria (CREDIBLE-CR): a randomised, open-label, multicentre, pathogen-focused, descriptive, phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2021;21(2):226-240.
8. Gill CM, Santini D, Takemura M, et al. In vivo efficacy & resistance prevention of cefiderocol in combination with ceftazidime/avibactam, ampicillin/sulbactam or meropenem using human-simulated regimens versus Acinetobacter baumannii. J Antimicrob Chemother. 2023;78(4):983-990.
9. Tamma PD, Heil EL, Justo JA, Mathers AJ, Satlin MJ, Bonomo RA. Infectious Diseases Society of America 2024 guidance on the treatment of antimicrobial-resistant gram-negative infections. Clin Infect Dis. Published online August 7, 2024. doi:10.1093/cid/ciae403
10. Choi JY, Park YS, Cho CH, et al. Synergic in-vitro activity of imipenem and sulbactam against Acinetobacter baumannii. Clin Microbiol Infect. 2004;10(12):1098-1101.
11. Fernández-Cuenca F, Martínez-Martínez L, Conejo MC, Ayala JA, Perea EJ, Pascual A. Relationship between beta-lactamase production, outer membrane protein and penicillin-binding protein profiles on the activity of carbapenems against clinical isolates of Acinetobacter baumannii. J Antimicrob Chemother. 2003;51(3):565-574.
12. Paul M, Daikos GL, Durante-Mangoni E, et al. Colistin alone versus colistin plus meropenem for treatment of severe infections caused by carbapenem-resistant Gram-negative bacteria: an open-label, randomised controlled trial. Lancet Infect Dis. 2018;18(4):391-400.
13. 東 由桂, 渡 智久, 柴崎 有紀, 米沢 太亨, 山内 紫織, 友田 豊, 藤井 聡. 血液培養から分離されたAcinetobacter属菌の同定に関する検討. 臨床微生物. 2015;25(3):213–222.

13. Kollef MH, Ricard JD, Roux D, et al. A randomized trial of the amikacin fosfomycin inhalation system for the adjunctive therapy of gram-negative ventilator-associated pneumonia: IASIS trial. Chest. 2017;151(6):1239-1246.
14. Niederman MS, Alder J, Bassetti M, et al. Inhaled amikacin adjunctive to intravenous standard-of-care antibiotics in mechanically ventilated patients with Gram-negative pneumonia (INHALE): a double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3, superiority trial. Lancet Infect Dis. 2020;20(3):330-340.

先日のMicrobiology roundではCryptococcus neoformansを取り上げました。【歴史】(1)• 分類:Basidiomycota門、Tremellomycetes網、Tremellales目、Cryptoco...
25/09/2025

先日のMicrobiology roundではCryptococcus neoformansを取り上げました。

【歴史】(1)
• 分類:Basidiomycota門、Tremellomycetes網、Tremellales目、Cryptococcaceae科、Cryptococcus属
• 1894年:Sanfeliceが桃ジュースからCryptococcusを同定した。
• 1895年:BusseとBuschkeがヒトでの初報告(若年女性の脛骨上部慢性潰瘍で酵母菌を確認)。
• 当初はSaccharomyces neoformans、Cryptococcus hominis、Torula histolyticaなど複数の名称が使用されたが、1950年にBenhamがCryptococcus hominisと命名し、疾患名を「クリプトコッカス症」とした。その後Sanfeliceの種名使用に基づきCryptococcus neoformansに変更された。
• 2002年にはC. neoformans var. neoformans(血清型D)、C. neoformans var. grubii(血清型A)、およびC. gattii(血清型B・C)が提案された。
【疫学】(2)
• 1955年以前の報告は約300例であったが、HIV感染者の増加に伴い症例数は劇的に増加した。
• 2022年報告:CD4数

先日のMicrobiology roundではCardiobacterium hominisを取り上げました。※培地は発育がなくGram染色の写真のみ掲載しております。【歴史】・1962年にTuckerらによってPasteurella様の菌...
03/09/2025

先日のMicrobiology roundではCardiobacterium hominisを取り上げました。
※培地は発育がなくGram染色の写真のみ掲載しております。

【歴史】
・1962年にTuckerらによってPasteurella様の菌による感染性心内膜炎として初めて報告された1)。
・語源2)→ギリシャ語で心臓を意味するKardiaとラテン語で桿菌を意味するbacteriumから名付けられている。hominisはラテン語で『人間』を意味する。

【微生物学】
分類: Pseudomonadati門、Pseudomonadota網、Gammaproteobacteria目、Cardiobacteriaceae科、Cardiobacterium属
・Cardiobacterium属には、C. hominisとC. valvarumの2菌種のみが存在する。

・グラム陰性桿菌。しばしば2連鎖、短鎖状、涙滴状、ロゼット状(花が咲いているような形)、または集塊状に配列する3)。
・通常、血液培養において1~7日後に検出可能。3%以上の炭酸ガス存在下で発育する。
・標準的な栄養培地(血液寒天培地、チョコレート寒天培地)では良好に発育し、5〜7%炭酸ガス存在下で35℃、48~72時間培養で直径1mm程度の小さく光沢のあるスムース型の丸いコロニーを形成する。
・腸内細菌用選択培地(マッコンキー寒天培地、エオシンメチレンブルー寒天培地)では発育しない3)。
・本菌はオキシダーゼ陽性、カタラーゼ陰性、亜硝酸塩陰性、ウレアーゼ陰性、インドール弱陽性である。また、グルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、ソルビトールから酸を産生する。
・鼻、口、咽頭の常在菌で、他の粘膜や消化管にも稀に存在する4)。
・微生物の発育が遅く、感受性試験は微量液体希釈法が良いと思われる5)。

【臨床像】
・Cardiobacterium hominisは 、HACEK群に属するグラム陰性桿菌であり、ヒトにおける感染性心内膜炎の原因菌として知られている。
HACEK:
Haemophilus spp. (H. parainfluenzae, H. influenzae), Aggregatibacter spp. ( A. actinomycetemcomitans, A. aphrophilus, A. paraphrophilus, A. segnis), Cardiobacterium spp. (C. hominis, C. valvarum), Eikenella corrodens, Kingella spp. (K. kingae, K. denitrificans)
・細菌性心内膜炎症例のうち、HACEKによるものはわずか2~6%で、HACEKによる心内膜炎患者の27%はC. hominis によるもの6)。
・他のHACEKと異なり、感染性心内膜炎以外の疾患を引き起こすことがほとんどない4)。
・ほとんどの患者は、基礎疾患として解剖学的異常(例:リウマチ性心疾患、心室中隔欠損症、先天性二尖弁)または人工弁を有している7, 8)。
・感染性心内膜炎の患者の多くは、重度の歯周炎がある場合や、抗菌薬の予防内服なしに歯科治療を受けた経験がある。 上部消化管内視鏡検査後のC. hominis感染性心内膜炎の報告もある9)。
・亜急性症状として、徐々に発症し(診断前平均2-5か月前)、診断時には発熱がないことが多い6)。
・疣贅のサイズは大きく、他のHACEKよりも大動脈弁に疣贅を認めることが多い。死亡率は約10%で、約30%の症例で弁置換が必要となる10)。
・弁の疣贅がないC. hominisによるペースメーカーリード感染症の症例報告もある11)。
・C. hominis は 毒性が低いと考えられており、既に損傷した心臓弁や人工弁に感染する傾向がある1)。

【治療】
・通常、β-ラクタム系の抗菌薬、フルオロキノロン、クロラムフェニコール、リファンピシン、テトラサイクリンに広く感受性がある。 アミノグリコシド、エリスロマイシン、クリンダマイシンに対する感受性は様々。β-ラクタマーゼ産生株が報告されている5, 6)。
・AZM(15員環)はCAM(14員環)より分子量が大きく、マクロライド感受性に関わるリボソームの結合部位への親和性の違いでマクロライド系抗菌薬の感受性が異なると思われる。
・American Heart Associationによる感染性心内膜炎のガイドラインでは、in vitroで十分な発育が得られない限り、HACEKはアンピシリン耐性と考えるべきであり、これらの症例ではペニシリンやアンピシリンを感染性心内膜炎の治療に使用すべきではないと記載されている。HACEK群のほぼすべての株はセフトリアキソンに感性であり、使用することは合理的である。12)
・自然弁感染性心内膜炎の治療期間は4週間が妥当であり、人工弁心内膜炎では6週間の治療期間が妥当である。ゲンタマイシンは腎毒性リスクのため、推奨されない12)。
・微生物学的な治癒は通常達成されるが、治療中に合併症が頻繁に発生する。全身塞栓症、感染性動脈瘤、または心不全により、弁置換術が必要となる症例も数多くある4)。

1. Tucker D.N., Slotnick I.J. et al.: Endocarditis caused by a Pasteurella -like organism: report of four cases. N Engl J Med 1962; 267: pp. 913-916.
2. CHARACTERIZATION OF AN UNCLASSIFIED GROUP OF BACTERIA CAUSING ENDOCARDITIS IN MAN: CARDIOBACTERIUM HOMINIS GEN. ET SP. N. Antonie Van Leeuwenhoek. 1964;30:261-272.
3. Malani A.N., Aronoff D.M.,et al..: Cardiobacterium hominis endocarditis: two cases and a review of the literature. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2006; 25: pp. 587-595.
4. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. 10th
5. Kugler K.C., Biedenbach D.J., Jones R.N.: Determination of the antimicrobial activity of 29 clinically important compounds tested against fastidious HACEK group organisms . Diagn Microbiol Infect Dis 1999; 34 (1): pp. 73-76.
6. Chentanez T, Khawcharoenporn T, Chokrungvaranon N, Joyner J. Cardiobacterium hominis endocarditis presenting as acute embolic stroke: a case report and review of the literature. Heart Lung. 2011;40(3):262-269.
7. Pousios D., Gao F., Tsang G.M.: Cardiobacterium hominis prosthetic valve endocarditis: an infrequent infection . Asian Cardiovasc Thorac Ann 2012; 20 (3): pp. 327-329.
8. Revest M., Egmann G., Cattoir V., Tattevin P.: HACEK endocarditis: state-of-the-art . Expert Rev Anti Infect Ther 2016; 14 (5): pp. 523-530
9. Pritchard T.M., Foust R.T., Cantely J.R., Leman R.B.: Prosthetic valve endocarditis due to Cardiobacterium hominis occurring after upper gastrointestinal endoscopy . Am J Med 1991; 90 (4): pp. 516-518.
10. Brouqui P., Raoult D.: Endocarditis due to rare and fastidious bacteria . Clin Microbiol Rev 2001; 14 (1): pp. 177-207.
11. Nurnberger M., Treadwell T., Lin B., Weintraub A.: Pacemaker lead infection and vertebral osteomyelitis presumed due to Cardiobacterium hominis . Clin Infect Dis 1998; 27 (4): pp. 890-891.
12. Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al. Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association. Circulation. 2015;132(15):1435-1486.

先日のmicrobiology roundではMoraxella lacunata を取り上げました。【分類・命名】Pseudomonadota門 Gammaproteobacteria綱 Moraxellales目 Moraxellace...
22/08/2025

先日のmicrobiology roundではMoraxella lacunata を取り上げました。

【分類・命名】
Pseudomonadota門 Gammaproteobacteria綱 Moraxellales目 Moraxellaceae科 Moraxella属に属する。1900年にEyreが Bacillus lacunatus を報告し、1939年にLwoffが Moraxella lacunata として再報告した。属名はスイスの眼科医 Victor Morax に由来し、種小名 lacunata はラテン語で「穴」または「窪み」を意味する lacuna に由来する[1]。

【微生物学的特徴】
Moraxella lacunata は偏性好気性のグラム陰性球桿菌で、非運動性。0.8–1.2 µmのやや大型桿菌で、双桿菌または短連鎖で観察されることが多い。血液寒天・チョコレート寒天培地で35–37℃、CO₂ 5–10%条件下で24–48時間培養すると小さなコロニーが発育し、培地にくぼみ(pitting)を形成する。ブドウ糖非発酵菌で MacConkey 培地では増殖せず、ゼラチナーゼ活性および Tween80 エステラーゼ活性を持つ。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性で、βラクタマーゼ産生例も報告されている[2][3][4]。

血液培養では好気・嫌気条件下で陽性化し、グラム陰性桿菌を確認した。血液寒天・BTB寒天培地で24時間培養後にコロニーを観察し、MALDI Biotyperでは M. lacunata と同定(スコア1.86、カテゴリーB)、IDテスト HN-20 ラピッドでは M. lacunata / M. nonliquefaciens と判定された。16S rRNA 遺伝子解析では M. lacunata と100%相同性を示し、M. equi とは99.4%の高相同性であったが、ヒト由来報告がないため M. lacunata と判断された。正確な確認にはゼラチン液化試験の実施が推奨される[2][3][5]。

【臨床的特徴】
上気道常在菌として存在するが、結膜炎の原因菌となることが多い[6][7]。まれに菌血症、感染性心内膜炎(IE)、化膿性関節炎などの侵襲性疾患を引き起こすこともある。骨髄炎については小児の膝蓋骨骨髄炎の報告があるが、下顎骨骨髄炎の症例は報告されていない[6][7]。

【治療】
CLSIでのブレイクポイントは設定されていないが、β-ラクタム(ペニシリン含む)、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、アミノグリコシド、トリメトプリム/スルファメトキサゾールに感受性を示す報告が多い[8]。IEの場合は、非HACEKグラム陰性桿菌IEに準じて、β-ラクタムとアミノグリコシド系またはフルオロキノロン系の併用を6週間行うレジメンが推奨されている[9]。

【疫学・考察】
Moraxella spp.菌血症の頻度は低い。2000年から2019年にかけてクイーンズランド州で行われた観察研究では、8,600万人年の期間中に375件の Moraxella spp.菌血症が報告され、年間発生率は住民100万人あたり4.3人であった。年齢別では乳児で最も高く、加齢に伴い減少した。Moraxella lacunata は3件(2%)にとどまった[10]。

Moraxella lacunata 菌血症と口腔由来感染症との関連では、IE症例の診察で歯肉からの出血が確認され、口腔がエントリーサイトである可能性が示唆されている[11]。IEに関しては、Moraxella spp.によるシステマティックレビューで31症例中12症例を Moraxella lacunata が占めていた[12]。

【参考文献(番号順)】
[1] LPSN: Moraxella lacunata
[2] MANUAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, 13th Edition.
[3] 小栗豊子. 臨床微生物検査ハンドブック, 第5版.
[4] Nagano N, Sato J, Cordevant C, et al. Presumed endocarditis caused by BRO β-lactamase-producing Moraxella lacunata in an infant with Fallot's tetrad. J Clin Microbiol 2003;41:5310-5312.
[5] Hughes DE, Pugh GW Jr. Isolation and Description of a Moraxella from Horses with Conjunctivitis.
[6] Acta Ophthalmol (Copenh). 1985 Aug;63(4):427-31.
[7] Jpn J Ophthalmol. 2019 Jul;63(4):328-336.
[8] Infect Dis Clin Pract 2017;25:131–133.
[9] Eur Heart J. 2023 Oct 14;44(39):3948-4042.
[10] Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2023 Feb;42(2):209-216.
[11] J Infect Chemother 2014;20:61–64.
[12] J Clin Med. 2022 Mar 27;11(7):1854.

  先日のMicrobiology roundでは腸チフスを取り上げました。(1)【語源】enterica:腸に関する typhi:混迷を伴う発熱 typhus:雲がかった、霧の(2)【歴史】• 腸チフス(Enteric fever, Ty...
04/08/2025


先日のMicrobiology roundでは腸チフスを取り上げました。(1)

【語源】
enterica:腸に関する typhi:混迷を伴う発熱 typhus:雲がかった、霧の(2)
【歴史】
• 腸チフス(Enteric fever, Typhoid fever)は、typhoid salmonellaと呼ばれる細菌(Salmonella enterica sbsp enterica serovar Typhi, Paratyphi A)により引き起こされる、非特異的な発熱を伴う病気のこと。
• Typhoid(typhus-like)、すなわち、発疹チフス(typhus)に似た、という意味を持っており、19世紀のヨーロッパにおいて、腸チフスが、同時期に流行していたもう一つの長期間の発熱の原因である発疹チフスと臨床的に区別することが難しかった事実を反映している。

【微生物学的特徴】
• Salmonella enterica subspecies entericaという種・亜種に属する通性嫌気性、無芽胞性グラム陰性桿菌である。
• SalmonellaはO抗原、H抗原およびVi抗原によって各種の血清型(2500種以上)に型別される。(3)
• Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhiは習慣的にSalmonella Typhiと記載されることがある。
• Salmonella Typhi, Salmonella Paratyphi Aは臨床的にチフス性サルモネラと分類され、それ以外の病原性のあるS. entericaを非チフス性サルモネラと呼んでいる。これらは同じ種に属しており、血清型により分類される。
• S. TyphiはVi抗原を持つ菌であることから、莢膜様構造に似た被膜が認められることがある。
• SS寒天培地上の特徴は、35~37℃で18~20時間の培養で、硫化水素非産生(コロニーが黒色にならない、または中心部がごくわずかに黒色になることがある)。無色透明のS形コロニーを形成する。また、血液寒天培地上のコロニーは無色透明、BTB乳糖寒天培地上では青色を呈する。

【疫学】
• 低中所得国、特に南アジア、東南アジア、アフリカで流行。田舎よりも都市部で多い。
• 散発地域ではほとんどが旅行関連。南アジア、特にインド旅行者のリスクが高い。
• 感染は主に糞便で汚染された水や食物の摂取によって起こる。
• 流行地域における非加熱の水摂取、ストリートフードの摂食は感染のリスクである。
• 菌血症は5歳未満の小児で多い。
• 腸チフスから回復し、慢性の保菌者として便や尿に排泄を続ける場合もある。

【臨床的特徴】
• 3日以上の発熱があり、過去1-6週間以内に高蔓延地域での暴露がある場合には腸チフスを疑う。
• 症状は非特異的であり、インフルエンザ様症状(発熱、頭痛、悪寒、咳嗽、筋肉痛)、腹部症状(食欲不振、腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢)などがある。
• 腹痛は軽度で局在がはっきりしないことが多く、局所所見のない発熱だけが唯一の症状であることもある。
• バラ疹(1-4mmの淡いピンク色の斑点)は合併症のない腸チフスではまれである。
• 比較的徐脈は古典的な徴候として知られているが、多くの患者では認めない、
• 消化器系の合併症には消化管出血、消化管穿孔があり、神経学的な合併症として脳症、脊髄炎、髄膜炎、Guillain-Barre syndromeなどがある。
• 潜伏期間は通常1-2週間だが、摂取した病原体数により3-60日間と幅広い潜伏期間を示す。
• 未治療の場合は4週間程度発熱が持続することがあり、解熱後2週間以内に最大10%程度の症例で再燃する。再燃時の症状は通常、初回より軽度である。

【診断】
• 血液培養の感度は40-80%程度、最近のメタアナリシスでは感度59%と推定されている。(4)
• 便培養の感度は小児で50%、成人で30%である。
• 骨髄培養の感度は80-95%程度と高いが、実際的ではない。
• 血清学的検査 (widal test) は感度、特異度に問題があり、既感染やワクチンの影響を受けるため有用ではない。
• 培養の感度、特異度に限界があり、培養陰性であっても臨床的に強く疑い場合には治療を行うことは理にかなっている

【治療】
• 初代第一選択:クロラムフェニコール、アンピシリン、ST合剤。1980年代にこれら3剤すべてに耐性の多剤耐性(MDR)サルモネラ菌株が拡散した。
• フルオロキノロン:世界の多くの地域で推奨される治療薬である。第三世代セファロスポリンと比較して再発率やキャリア状態になるリスクが低いとされる。南アジアではフルオロキノロン耐性株が増加している。ナリジクス酸耐性は、フルオロキノロンへの感受性低下を示す代用マーカーとして使用されることがある。
• 第三世代セフェム:フルオロキノロン感受性が低下したサルモネラ菌株の出現により、経験的治療の選択肢が第三世代セファロスポリン系抗菌薬にシフトしている。短期間(7日以内)のセフトリアキソン投与は再燃と関連している。
• アジスロマイシン:MDRおよびフルオロキノロン非感性の腸チフス治療に優れた選択肢である。7日間投与は臨床的失敗率が低く、第三世代セファロスポリンよりも再発が少ない。
• ショック、及びせん妄や意識障害を伴う重度の脳症を合併している場合、高用量のデキサメタゾンを併用する。
• 慢性保菌(1年以上)は胆嚢癌と関連していると考えられているが、除菌を行うことで癌のリスクを減らせるかどうかは不明である。
• 慢性保菌者が食品を扱う職業に従事している場合、公衆衛生的な観点から除菌が必要となる。28日間のシプロフロキサシン投与により80-90%の有効性で除菌できる。
• ポリサッカライドワクチンの接種により、腸チフスに対して50-80%の予防効果がある。

【参考文献】
1. Andrews JR, Harris JB, Ryan ET, Charles R. 102 - typhoid fever, paratyphoid fever, and typhoidal fevers. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases. :1300-1313.e4.
2. Species: Salmonella typhi [Internet]. [cited 2025 Aug 1]. Available from: https://lpsn.dsmz.de/species/salmonella-typhi
3. 細菌の検査 各論|神奈川県衛生研究所 [Internet]. [cited 2025 Aug 1]. Available from: https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/002_kensa/02_microbe/detailed.htm
4. Antillon M, Saad NJ, Baker S, Pollard AJ, Pitzer VE. The relationship between blood sample volume and diagnostic sensitivity of blood culture for typhoid and paratyphoid fever: A systematic review and meta-analysis. J Infect Dis. 2018 Nov 10;218(suppl_4):S255–67.

02/08/2025

昨年から流行し始めた百日咳は今年に入り大きな流行となり続いています。診断のための検査は近年大きく変わって来ています。
臨床微生物学会から百日咳検査についてのQ&Aが公表されました。
感度を考えると遺伝子検査が良いのですが、今流行しているマクロライド耐性株を確認するためには培養も併用すると良いと思います。保険ではどちらか片方しか認められない可能性がありますが、診療には重要です。(ちょっと困りますね)
ご参照ください。

https://www.jscm.org/uploads/files/news/2507_hyakunichizeki.pdf

#百日咳 #アジスロマイシン耐性 #百日咳検査

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