16/11/2025
【潰瘍性大腸炎にFMTを行った症例について】
今回は最近経験した潰瘍性大腸炎の方に行ったFMT(腸内フローラ移植)について書いておきます。(患者様の同意を得ています)
潰瘍性大腸炎と診断された時、多くの方は「この先どうなるのだろう」という強い不安を抱きます。
特に、薬を増やしても良くならない時、その不安はさらに大きくなります。
今、潰瘍性大腸炎と診断され、下記のような症状でお悩みの方には是非読んでいただきたいと思います。
・下痢・腹痛が続いている
・血便が不安
・薬を増やされていく恐怖
・生物学的製剤をいつ打つか迷っている
・将来への不安
・家族の心配
・学校・仕事が続けられない不安
etc.
【症例:20歳男性】
この20歳の方は3年前に潰瘍性大腸炎(全大腸型)と診断され大学病院に通院していましたが、なかなか寛解に持ち込めず主治医から生物学的製剤を勧められて迷われていました。ちょうどそのタイミングでご家族が当院のことを知り、受診してくださいました。
初診時は慢性的な腹痛〜不快感、下痢、下血、倦怠感が続いており、ちょうど30年前の私を見ているようでした。私もそうであったように、この方も将来に大きな不安を抱えているのが痛いほど良くわかりました。
ちなみにこの方の症状は重症度分類で言うと「中等症」でした。
当院では標準治療を一通り受けているがなかなか良くならない方や、まだ比較的新しい薬剤(生物学的製剤など)は使ってはいないいが、できれば他の方法で治療したいというような方からのご相談を受けることが多く、この男性やご家族も同じようなご要望をお持ちでした。特に当院が行なっている腸内フローラ移植(FMT)にご関心をお持ちで、初診時からFMTに関するご質問が多く、ひとつひとつ丁寧にお答えさせていただきました。
【私の病の経験】
私自身も20代で潰瘍性大腸炎を患い、寛解と再燃を繰り返し、37歳で大腸全摘という辛い体験をしたということもあり、一人でも多くの潰瘍性大腸炎の方の症状を寛解させ、少なくとも大腸を切除するようなことのないようにサポートしたいと考えてきました。
私は45歳でFMTという治療法を知り、私自身が大腸全摘後にも付き纏った「回腸嚢炎(大腸全摘例の一部に起こる合併症。主に下痢や下血、発熱などを伴う)」の治療のために受けたことで、FMTの研究を始めることになりました。
2017年には水素ナノバブル水を用いたFMTを導入し、これに関連した研究会を立ち上げ、精力的にFMTの臨床と研究に勤しみました。その中でいくつかの潰瘍性大腸炎症例も経験しましたが、当時はなかなか思うように改善しない例も多く、試行錯誤の連続でした。
そして2025年に導入した高濃度の水素ナノバブル水の注腸をFMTと併用し始め、潰瘍性大腸炎に対する効果が上がってきていることを実感し始めていた時に、今回の男性が受診されたのです。
【水素NanoGAS水を用いたFMT】
この方の腸内フローラ検査は多くの潰瘍性大腸炎の腸内フローラがそうであるように非常に多様性が少なく乱れたバランス(dysbiosis)でした。
週1回ずつ計6回のFMTを高濃度NanoGAS水の注腸を併用して受けていただきましたが、最初の頃は顔色も悪く、元気のない様子でしたが、後半になってくると徐々に顔色も良くなり、徐々に便通にも変化が出てきました。
FMTが終了し2週間後に受診された時は、随分と覇気が出てきているのがわかり、腹部症状も改善していることが確認でき、腸内フローラの変化を確認するために腸内フローラ検査を行うことにしました。
それから2ヶ月経過し、先日術後の腸内フローラの検査結果を聞きにご家族と来院されました。
その結果はFMT前の結果に比べ大きく変化し、多様性の向上が著明でした(図)。
自覚症状もほぼ消失し、長年の腹痛から解放されたことにご本人もご家族もとても喜ばれ、学業にも専念できることにとても感謝されていました。
とはいえ、潰瘍性大腸炎は「難病」に指定されている疾患でもあり、油断は禁物です。引き続き食事の重要性を説き、ストレスマネジメントについてもアドバイスを行いました。
【病の恩恵リスト】
このタイミングで私は患者さんによく宿題を出すのですが、それは「病の恩恵リスト」です。
病を経験して辛かったことや嫌だったことを列挙したらきっと多くの方はいっぱい書けることでしょう。でもこの「病の恩恵リスト」は、辛かったことに焦点を当てるのではなく、病を経験して「得たこと」「良かったこと」に焦点を当てていただき、ノートに書きだいてリストにしていただくと言うものです。
多くの方は最初は戸惑うのですが、書き始めるとどんどん書けるようになり、ほとんどの場合は「辛かったこと」リストより多くなります。
この「病の恩恵リスト」は多くの場合、これまで自分の無意識が欲求していたこととリンクし、無意識がそれを叶えるために「病」を発症させたとも考えられるのです。こう考えることで、これからの人生において、いかにして体や無意識の欲求にも耳を傾けて過ごしていくかの指針となりうるのです。実は心理学的な視点から病を理解することは、症状の予後にも影響することが医学的にも知られています。
潰瘍性大腸炎は一般的には自己免疫疾患の一つとして捉えられていますが、私の見立てはそれ以外にも現代型の栄養失調(亜鉛不足やビタミンD不足など)や消化能力の弱さ(ヒスタミン分解酵素の弱さ)、腸内細菌叢の乱れ、そして心理的な葛藤など様々な要因が複雑に絡んでいると考えています。
【私の使命】
FMTは決して魔法の治療でもありませんし、保険適用の治療でもありません。
しかし、今回のように私たちが改良を行ってきたFMTを受けていただくことで、重症化したり、大腸全摘のような辛い経験をせずにすみ、一人でも多くの患者さんが自分らしい人生を送られるようにお手伝いができるのであればそんな嬉しいことはありません。
特に潰瘍性大腸炎の患者様のお役に立つことは、同じ病を経験した私の使命だと感じています。
今後もFMT更なる安全性と有効性を向上させるため努力していこうと改めて思いました。
もしご関心があればお気軽にお問い合わせください。