
03/12/2024
抗生物質の在り方について思う…
久しぶりの投稿でまた長文すみません
最近目やにが出ているお子さんが多くいます。多くは鼻水が出ていて、鼻風邪症状なのでしょうが、鼻づまりがあると目やにが出やすいのでそれも一つの原因と考えられます。
ただ、目やにのお子さんがあまりにも多いとそれは鼻風邪の原因ウイルスが「目やに」を出させやすい軽い結膜炎を起こすものなのかなと推察しています。
そのため、当院では目やには基本的に鼻水をしっかり吸う、出てきた目やには濡れたタオルなどでふき取ってもらう、という方針で抗生物質の点眼は処方しません。
かならずしも 目やに=細菌感染 ではないからです。
しかし、目やにを気にする親御さんや保育園からは目薬の処方を希望する方が非常に多く、困惑しています。
中にはうちでは出してもらえないからほかのクリニックへ行って出してもらえという極めてふざけた事を平然と親御さんに指示する保育園もあるようです(今日患者さんから聞いて知りました笑)。
別に自分は完全な医者ではないと思っていますし、ヤブだろうが腕が悪いと思われても何とも思いません。居直りのようですが、診断を間違うことなんて日常茶飯事、それによって得られる気づきもありますし、一度では診断つかずあれやこれや検査や治療を行って反応をみつつ診断に繋げていく、というのが医療なので間違って当たり前なのです。いかにそれを少なくできるか、が多分医者の腕の違いなんでしょう。
ちなみに、「私失敗しませんから」なんて医者は存在しませんからね。
心臓も脳外科手術もできるブラックジャックやコトー先生もいません(いたらすみません)。
確かに眼科へ行けば抗菌薬の点眼を出してもらえるでしょう。
目やにには点眼が必要である、という眼科の先生なりの考えもあるのかもしれませんし、小児科で出してもらえないから仕方なく出してあげているのかもしれません。自分は後者だと思っていますが。
抗生物質は非常に優れた薬剤です。10年以上前にやっていた『仁』というドラマでは現代からタイプスリップした医師が江戸時代には存在しなかったペニシリンを作り出し、数多くの人々を結核や梅毒から救う、というお話です。私は綾瀬はるかばかり見ていてお話が入って来ませんでしたが(嘘です)。
まぁ創作のお話なんですが、現実では第2次世界大戦前後に実用化され、数多くの兵士の創感染や結核、ハンセン病の治療に使用され、事実多くの人を救いました。
このように画期的な人類の大発明の抗生物質ですが、敵もさるもの、細菌も次々と変異を起こし抗生物質が効きにくいように自身を変化させていきました。これを「耐性菌」と言います。
ちょうどこのコロナ禍でコロナウイルスが次々と変異を起こし、ワクチンが効きにくくなったという話を見聞きしたことがあるでしょう。
ウイルスと細菌は違うものですが、耐性化と同じようなイメージです。
抗生物質も様々なものが開発され、ペニシリン系、セフェム系、キノロン系、アミノグリコシド系、カルバペネム系、マクロライド系など多種多様です。
抗生物質は全ての菌に効果があるわけではなく、この菌にはこの系統、この菌は昔はペニシリンが効いたけど今は耐性になっているのでこちらの系統を使う、など臨床現場では状況によって使い分けを行っています。
さて、科学も医学も発展した現在においてさぞ抗生物質も日々新しいものが作られているとお考えでしょう。開発にはお金がかかりますし、日本ではせっかく開発しても薬価がクソ安すぎるのでその開発費に見合ったリターンがないので日本の製薬企業もあまり本腰は入れられません。民間企業なのだから当たり前です。
実際にこの10年で新しく開発された抗生物質は数種類(修正前の3種類は誤りでした)のみです。
その間細菌たちはどんどん耐性を獲得しており、効果のある抗生物質がどんどん減っているのが現状です。
このままでいくと皆さんの子ども、孫たちは抗生物質が効かない細菌がうようよしている世界がもう現実に始まっているのです。
日本ではすでに多剤耐性結核菌(スーパー結核菌)、多剤耐性淋菌(スーパー淋菌)なども認められています。
そのため10年以上前から世界各国、日本でもAMR(薬剤耐性)対策に力を入れ、抗生物質を不用意に使わない、ということに力を入れています。
昔は風邪にもバンバン抗生物質を処方されていたのに今は全然出されませんよね?
自分が子供のころ飲まされていたのがペニシリン系の薬だというのは医者になって知りました。そう、あのツンと鼻につく匂いの薬です。
うちも基本風邪などには抗生物質は処方しません。中耳炎や溶連菌感染など必要な場合のみ処方しています。
ここ最近ではマイコプラズマ肺炎が流行しているとテレビで報道されていますが、子どもが飲めるマクロライド系(クラリスロマイシン)はほぼ耐性であり、殆ど効きません。ではほかの効果のある薬剤は年齢制限があったり、処方しても昨今の医薬品不足で調剤薬局にも在庫がなく、結局もらえないという状態です。
マクロライド耐性はこのクラリスロマイシンの濫用が影響していると考えています。クラリスロマイシンは広い菌種に効果があるので、ここ何十年と濫用された結果、効果のある菌はほとんどなくなり、ただ苦いだけのクソまずい薬という何のために存在しているのかわからない代物になりました(抗菌活性のほかに粘膜の炎症を抑えたり、繊毛運動をよくするという効果はあるようですが)。これは濫用した我々医師の先達たちも猛省すべき点かと思います。
抗生物質の使用で確かに目やには少し早く良くなるかもしれません。放ってもいても治ります。でもそれによって耐性菌が増え、苦しむのは自分の子ども、未来の子孫たちなのです。
こんな長文書いて何が言いたかったかというと、保育園の看護師だか保育士だかわからないけれど、子どもの未来の関わる仕事してるんだからその場限りで都合の良いことばっか考えてヌルいことやってないでもっと考えろや!ってことです(笑)
これを機に医師だけではなく、皆さんも抗生物質、そして適正使用について知ってみませんか?
興味ある方は「AMR 薬剤耐性」でググってみてください。