
18/02/2023
臨床現場での「違和感」
高齢男性が自宅で倒れているとのことで搬送されました。病院に行くのが嫌で、知人に処方薬を受け取りにいってもらっていたとのこと。入院中にコアグラーゼ陰性ぶどう球菌による菌血症に引き続き、Candida albicansの真菌血症を来しました。
この方の「病院嫌い」は、何から生じたのでしょうか? もしかしたら過去の医療体験、あるいは家族のある出来事がそうさせたかもしれません。沖縄には「医者半分、ユタ(霊媒師)半分」という言葉もありますが、そもそも医療への信頼が薄い方かもしれません。その割には内服薬は処方されています。実はそれも内服していなかったかもしれません。
臨床上の「何か変だ」という違和感を感じる場合、その問題の核心が存在し、眼に見える疾患や病態はその周辺にあります。その核心に触れることなく、患者は退院し、時にはそのまま亡くなることもあります。
本人と家族の背景を知るために、病状説明の際に行うことが2つあります。
1) 患者のLife review(一編の映画を観るように患者の人生を振り返る)を行う
2) 家系図を描く。この時家族間の関係や、Key personが誰かを意識しながら行う
病歴聴取を通じて、患者が自分の一部と思える瞬間があります。言い換えると、患者情報と自分の内なる何かが共鳴し、共有出来た瞬間。疾患の全体像と、臨床医としての内なる「臨床像」の一部が重なった場合です。その瞬間、核心に触れた実感が自分の中に蓄積され、次の患者を診るときの力になります。その経験の積み重ねが、ある1つの臨床像をより奥行きのある味わい深いものにしていきます。共鳴と共有は、患者自身と医療者が「同化」することになります。「患者が悪寒戦慄していたら、一緒にShakingしろ」とは私の師匠の言葉ですが、患者と同化するための傾聴法を紹介します。
同化的傾聴法 Assimilate listening “QUALE”*
Be Quiet 沈黙を利用せよ
Let his emotional issues Uncork 思いを吐き出させろ
Animate our interaction with open-mind 心を開いて会話を活気づけよう
Listen to understand 考えるために(意識的に)聞け
Keep Eye-contact to your patient アイコンタクトを保て 眼でも聞け
*Qualia(クオリア)の単数形 主体的に体験される「感じ」や印象。
研修医の皆さんは、まだ患者さんとの関わりを始めたばかりです。良い臨床経験を積むために、医学的側面のみならず、患者さんそのものの人生から何かを学びましょう。きっと多くの学びがあるはずです。
(医学書院 総合診療 Vol.30 No.10 参照)