
26/09/2025
『ドーパミン中毒』(著:アンナ・レンブケ 訳:恩蔵絢子 新潮新書)読了。
最近、夢中になって読み進めていた一冊です。
この本は、現代における「快楽」をドーパミンという切り口から解き明かし、なぜ人は快楽を求め、依存してしまうのか。そしてどうすれば依存から抜け出せるのかを描いています。本当に面白かった!
ドーパミンという言葉は、きっと誰もが耳にしたことがあると思います。
簡単に言えば、ドーパミンは神経伝達物質のひとつで、「好き」という感情よりも「欲しい」という衝動に深く関係しています。
たとえば通販サイト。
欲しいと思った瞬間からドーパミンは放出され、「購入」ボタンを押し、商品を待っている間も期待で分泌が続きます。そして荷物を開封する瞬間が興奮の頂点。その後は一気に下がっていく。
…まるでジェットコースターのような波を描くのです。
つまりドーパミンは、「手に入れる結果の満足」よりも「手に入るまでの期待」によって強く動かされる物質なのです。
さらに脳には、快楽と同じだけ苦痛を生み出す仕組みがあります。
快楽と苦痛を処理する脳内の部位は同じで、まるでシーソーのように働きます。
快楽が増せばその反動で苦痛も増える。一時的な快楽を追えば追うほど、その後に虚脱感や苦痛がやってくる。これがドーパミン依存のサイクルです。
この仕組みは東洋医学の陰陽の働きに似ています。
陽が強くなりすぎれば、必ず陰へと振り戻される。快楽に偏りすぎないよう、陰陽の調和を意識して生きることが、心身を健やかに保つために欠かせないのです。
本書では、恋愛やゲーム、SNS、ギャンブルなど、身近な快楽がビジネス化され、ドラッグと変わらない性質を持つことが指摘されています。
簡単に快楽が得られる時代だからこそ、刺激との付き合い方、そして依存しない生き方が問われているのだと痛感しました。
また、日本の話ではありませんが、アメリカでは成果を出し続けなければならない職業の人々に、ドーパミンを強く放出させる薬が処方されることがあるそうです。
一見すると成功のためのツールのように思えますが、実態は依存のサイクル。私たちの社会もまた、同じような構造に巻き込まれているのではないでしょうか。
映画や音楽、コーヒーなど、自分を奮い立たせる方法は人それぞれ。若いうちはそれで十分でも、年齢を重ねると効かなくなり、さらに強い刺激や薬物に頼ってしまう人もいます。
長くは続かず、心身を蝕んでいく。
実際にそうした背景を持つ方が、私の鍼灸院を訪れることも少なくありません。
問題は個人だけでなく、社会のシステム自体にあるのかもしれません。
本を読みながら、私はふと「縄文時代」に思いを馳せました。
争いが少なく、皆で子育てや食事を分け合い、調和して暮らしていたユートピアのようなイメージ。
もちろん縄文に戻れということではありません。けれど現代のテクノロジーを活かしながら、支え合う社会を築ければ、現代にもユートピアを描けるのではないか。
当たり前の生活を当たり前に送れる社会なら、心と体を消耗することなく、ドーパミンに振り回されない暮らしができるはずです。
『ドーパミン中毒』は、現代社会が直面する課題と、これから私たちがどんな未来をつくるのかを考えさせる、大きな問いを投げかけてくれる本でした。
多くの人に読んでもらいたい。そして一緒に語り合いたい内容です。
現代を生きるヒントが詰まった一冊。ぜひ手に取ってみてください。