10/12/2022
臨死体験(2):体外離脱体験と幽霊
月刊誌『ムー』はUFO、宇宙人から怪奇現象、超科学までを網羅するオカルト雑誌として有名です。その「世界の謎と不思議に挑戦する」『ムー』が2022年12月号で「怪奇現象の最新脳神経科学」という特集を組みました。駒ヶ嶺朋子著『死の医学』が2022年3月に出版されたことがきっかけになったと思われますが、そこでは「臨死体験」、「体外離脱」、「悪魔憑き」などについて、脳科学の研究成果と結びつけて『ムー』らしく解説しています。
『体外離脱体験』は”Out-of-body” experiences の訳です。以前は「幽体離脱」とも言いましたがスピリチュアルの意味合いが強くなるので科学的意味をもたせる用語としては「体外離脱」が使われます。ジュネーブ大学のオラフ・ブランケOlaf Blankeは「てんかん治療中の患者において、脳の右の角回(angular gyrus)を局所的に電気刺激することにより、この体験を繰り返し誘発した」と報告しました(Nature 2002)。彼は、体外離脱体験は、複雑な体性感覚と前庭情報の脳による統合の失敗を反映しているのではないかと考えています。電気刺激中、患者は意識があり、「ベッドに寝ている自分が上から見える」「体がベッドから2メートルぐらいの高さの天井近くに浮かんでいる」と証言したとのこと。体外離脱体験についての論文が一流科学雑誌Natureに掲載されていたことは驚きです(しかも症例報告です)。
オラフ・ブランケはその後、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の教授となっていますが、この分野の研究を続け2014年には「神経とロボット制御による幻視の誘発」”Neurological and robot-controlled induction of an apparition”という論文を発表しました(Current Biology, 2014)。自分の傍らに目に見えないが何かがいると感じる、これを”feeling of presence”というらしいですが、これがいわゆる幽霊gohstだそうです。そして”feeling of presence”は、側頭頭頂葉、島皮質、特に前頭頭頂葉の3つの異なる脳領域の病変によって引き起こされる感覚運動喪失と関連している、といいます。この3つの領域は、自己意識や空間認識など身体感受の重要な知覚性運動信号(sensorimotor brain signals)を処理しているといわれています。そして研究チームは、「幽霊」の存在を感じることは、脳のこれらの知覚運動性信号が適切に処理されていないことが原因と結論づけ、「幽霊は脳内の現象である」と報告しました。
「体外離脱体験」や「幽霊」をもはや非科学的と切り捨てることはできないようです。これらが脳内の現象なのであれば、ヨガの修行をしなくても、このような体験を将来人工的に造り出しアトラクションとして楽しむことができる日が来るかもしれません。SF映画『トータル・リコール』に出てくるようなマシーンができるかも。。。
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