
21/08/2025
『脱皮』
#高齢者施設
高齢者施設に入居されている87歳男性の奥様と面談。
理由は、深夜多量に嘔吐し、一時は酸素濃度が低下。吸引までは必要としなかったものの、今朝からは微熱が続いているので、急遽、奥様をお呼びたてしました。
2年前、施設入居時のチェックシートには、その当時の奥様の希望が書かれています。
・急変時の対応について:
気管切開、人工呼吸器を希望しますか?
(はい)
・看取りについて:
施設での看取りを希望しますか?
(はい)
医師から、夜間のご主人の様子をお話しし、今は落ち着いておられるけれども、先日救急搬送で入院した時の様に、誤嚥性肺炎を起こされる可能性がある事をお伝えしました。
すると、奥様は、今までご主人のデイサービスの合間を縫う様に、色んな病気の治療でご主人の病院へ一緒に通い、やっとの思いで今の施設へ入居したこと。
先日、肺炎で夜間に救急搬送で入院した病院では15分しか面会が出来ず、担当医には一度も会えなかったこと。
病棟の看護師から、「あれを持って来て、これも持って来て」と連絡がある度に、炎天下の中を購入に走り、病院へ届けたこと。
そして、それら届けた品が退院の時にはなくなっている物もあったこと。
病院から渡された用紙には、医師との面談を希望する場合には申し出る様にと小さな字で書かれていたこと。
奥様は、
「腹が立ったので言わせて下さい」
と、やや興奮した様子で約15分間、ずっと話し続けられました。
そして、
「ここでみてもらう訳にはいかないんですか⁈」
と。
そこで、施設の看護師、ケアマネより、ここは介護施設で病院ではないので、治療が必要な場合には病院へお願いする形になること。
ここでのお看取りを希望される場合には、ご家族皆様の意向確認とそのための文章にサインをもらう必要があることをお伝えしました。
医師からは改めて、次にまた肺炎になった場合、命に関わる様な状況になる可能性も高く、救急車で病院へ搬送をお願いしたとしても、前回の様に必ず良くなって帰って来れるとは限らないこともお伝えしました。
すると奥様は、
「病院からこちらへ戻る介護タクシーを待っている時、『やっと家に帰れる』って主人がぼそっと言ったんです。それまで何回面会しても何も言わなかった主人が、帰る時にそう言ったんです。主人にとって、もうここが家なんだなって。主人の両親を家で看取ったんです。主人も家で看取る様にここで看取ってもらいたいです」
「病院はもういいです」
先程までの興奮はすっかり収まり、落ち着いた様子で話されました。
今の施設を自分の家だと思っておられる認知症の入居者の方々、そしてそのご家族のために、我々医療介護者は何をどの様に対応することが求められるのか。それはなぜなのか。
それぞれが自分の言葉で思いを伝え合い、互いの思いを聞いた上でご本人にとって1番いい方向性を一緒に考える。
時間はかかりましたが、なぜか、その場の全員がちょっと脱皮が進んだ様に感じられた瞬間でした。
写真は、今年7月上旬の猛暑に早くも脱皮した気の早いセミの抜け殻です。