01/10/2025
群馬県北毛保健生活協同組合 北毛診療所、医師の菅野です。
2025年10月の医療情報、二つ目です。
今回はうつ病に関する説明内容による治療効果について。
1.臨床的な疑問:うつ病を内因性の病気としてではなく環境への適応として説明することは抑うつ症状のある患者さんの転帰を良くするか?
→紹介文での答え:患者さんに対して、抑うつ症状は「他の病気」ではなく、現在の環境への適応であると説明することは、スティグマ(差別や偏見)を減らし、患者さんの受容と自己効力感を高める可能性がある。うつ病を内因的なものとしてではなく、患者さんの生活の中の何かにもっと注意を払う必要があるというシグナルとして、私たち全員が考え始める時なのかもしれない。うつ病の "化学的不均衡 "という説明は、もし真実であったとしても、結果であって原因ではないかもしれない。
2.僕の意見:説明の仕方というか患者さん本人の受け取り方で症状の改善がみられるかもしれないというのは興味深いデータですね。確かに「腑に落ちる」ことで、診察室に入ってきた時は暗い顔をしていたのに、診察後(症状などを聞いてそれに対する考えられる解釈をお話した後)に明るい顔で帰って行かれることは時々あるので、もしかしたらそういった影響があったのかもしれないと思いました。
3.原文の紹介:Daily POEMSより
Schroder HS, Devendorf A, Zikmund-Fisher BJ. Framing depression as a functional signal, not a disease: Rationale and initial randomized controlled trial. Soc Sci Med 2023;328:115995.
まとめ
Study Design:非盲検無作為割付比較試験(隠蔽化あり)
「あなたは脳の化学的なバランスが崩れている」というのは、うつ病患者さんに対する一般的な説明方法である。このような説明は、患者さんの自責の念を減らすかもしれないが、回復への希望を減らすだけでなく、本人や周囲の人に対して「うつ病」という「レッテル」を貼ることにもつながる。また、一部の患者さんにとっては、うつ病のもう一つの説明、つまり現在の症状は自分が置かれている生活状況への適応状態である、ということを理解しにくくする可能性もある。この研究では、うつ病の既往歴があるが(Patient Health Questionnaireうつ病尺度の平均スコア10.51)、精神科専門医による精神療法や薬物処方を受けていない877人が登録された。研究者らの目的は、「うつ病は病気である」という説明を受けていないうつ病患者さんを見つけることであったが、プライマリ・ケアの臨床医によるうつ病治療を受けていても(ということは専門医の診療を受けていなくとも、すでにどちらかの説明を受けていた可能性がある)参加を認めたのは奇妙である(さらに奇妙なことに、研究者らはこれらの患者さんを「治療経験のない患者さん」と呼んだ)。隠蔽化した割り付け方法を用いて、参加者は一連のビデオでうつ病に関する2つの説明のうち1つを受けるように無作為に割り付けられた。一方のビデオでは、うつ病は「脳内の化学的不均衡を含む様々な要因によって引き起こされる病気(症状)である」と説明した。もう一方は、「うつ病の症状は生活の中でもっと注意を払う必要があることを知らせる機能的な信号である」と説明するものであった。「うつ病の症状は(注意)信号である」という説明には、うつ病を克服できる(P = 0.02)、うつ病は新しい洞察につながる適応反応である(P < 0.0001)という参加者の肯定的な信念を持たせるという点でわずかな利点があり、またこのグループでは精神病に関連する偏見や差別が少なかった(P = 0.026)。うつ病のために助けを求める態度、参加者の症状に対する責任感、うつ病に対する成長マインドの指標には差がなかった。有意な結果のエフェクトサイズは小さく、患者さんが以前の治療経験を通じて、あるいは「Google先生(医師)」に相談することによって、うつ病は病気であるというモデルに染まっていた可能性がある。
Schroder HS, Devendorf A, Zikmund-Fisher BJ. Framing depression as a functional signal, not a disease: Rationale and initial randomized controlled trial. Soc Sci Med. 2023 Jul;328:115995. doi: 10.1016/j.socscimed.2023.115995. Epub 2023 Jun 3. PMID: 37301109.
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