諏訪赤十字病院 教育研修推進室

諏訪赤十字病院 教育研修推進室 諏訪赤十字病院の教育・研修に関する情報を発信しています!

30/08/2022

Diagnostic Aspirations コメント
 
 On further questioning(しっかり病歴を聴取してみると、再び聞き返してみると)というフレーズがNEJMのCase RecordsやClinical Problem Solvingでは頻出します。また、臨床の現場では、後からの病歴聴取やコメディカル(場合によっては看護学生も)などからの情報が診断に結び付く場合が少なくありません。「病歴聴取と身体所見で、診断のかなりの部分が方向づけられる」とよく言われますが、まさに本例はその1例ではないでしょうか。
 しかし、闇雲に話を永遠と聴くことは時間もかかり、さらに的外れになることも多く、様々なclue、key(とっかかり、鍵)から焦点を絞っていく「攻める問診」が重要ではないかと思っています。また、これは臨床経過の中でも、「意外なこと」や「新規の問題が出てきた時」には再度振り返ってみることが大事ではないでしょうか。
本文にも、
経過観察の結果、右中葉のコンソリデーションは消失していたが、MSSA感染に対する適切な抗生剤治療後もレントゲン所見が持続していることから、細菌感染以外の原因が懸念される。
と臨床経過に疑義を投げかけ、
低画素値のGGO、クレイジーペイビング、リンパ節腫脹等を認めることから、外因性リポイド肺炎、肺胞タンパク症、閉塞性肺炎(内因性リポイド肺炎)、器質化肺炎、異型感染、粘液性または脂質優勢腺癌(lipidic predominant adenocarcinoma)などの広範な鑑別診断がある。
と肺の画像診断での画素値にまでこだわり、ある程度の鑑別診断を用意したうえで、
On further questioningしておりました。
また、
市販鉱油製剤の添付説明書では、一般に就寝時使用を推奨しており、食道または嚥下機能障害を有する患者では、外因性リポイド肺炎のリスクが高くなる
などの事実、
頸椎疾患があり外科手術を施行してあると、食道嚥下障害や運動障害を合併する場合がある。嚥下評価は正常であったが、食道運動障害があり、特に就寝直前摂取のミネラルオイルを無意識に誤嚥する可能性があることが判明した。
 などの、経過にもつながっていきました。後から考えるとconnect the dotsですが、これをある程度予見して実践していることは素晴らしいですね。

なお、リポイド肺炎は、あまり臨床経験はありませんが、内因性、外因性の区別、基礎疾患、外因性の曝露源になる物質、画像診断の特徴 治療(曝露源回避)等がよくまとまっており(きもに記載)、勉強になりました。
            Diagnostic Aspirations Teaching Points きも
●様々なこと
下気道感染症の再発・持続は,
① 耐性菌,②免疫機能障害,③粘膜繊毛運動障害,④解剖学的異常、⑤癌などの宿主要因 
非特異的呼吸困難と咳嗽+肺門リンパ節腫脹+GGOの鑑別診断
癌、肺出血、じん肺、心疾患、リウマチ性疾患、アミロイドーシス、肉芽腫性疾患
喫煙歴:閉塞性肺疾患が潜んでいる可能性 電子タバコ使用は肺損傷と関連
呼気性喘鳴+rhonchi:慢性閉塞性肺疾患の増悪、分泌物、病変、炎症等による急性気道閉塞
手掌紅斑:肝疾患の他、甲状腺機能亢進症、リウマチ性疾患(肺疾患合併RA、皮膚筋炎)
慢性肺疾患と関連するリウマチ性疾患:GPA,シェーグレン症候群,強皮症等
Crazy paving:小葉間隔肥厚を伴うGGOを示唆、
感染、腫瘍性疾患、炎症、油性物質の吸引または吸入等に関連しうる非特異的所見
低画素値(-150から-30HU)は、脂肪の存在1,2。
低画素値+GGO+クレイジーペイビング、リンパ節腫脹等
外因性リポイド肺炎、肺胞タンパク症、閉塞性肺炎(内因性リポイド肺炎)、器質化肺炎、
異型感染、粘液性または脂質優勢腺癌

●リポイド肺炎:肺胞に①内因性または②外因性の脂質が蓄積することを特徴とする疾患
内因性リポイド肺炎(①):気道閉塞、マクロファージ機能障害、サーファクタント代謝障害等
外因性リポイド肺炎(②)は、胃の内容物または外因性物質の誤嚥
① GERD、②解剖学的異常、③神経疾患による誤嚥の素因を有する年齢層等で見られる
石油ゼリー、鉱物油、植物油、リップクリーム、パラフィン(スプレー塗料や機械潤滑油)3、4。
肺胞マクロファージが脂質を貪食→慢性的異物反応→マクロファージが死滅で脂質が放出
→肉芽腫性反応、慢性炎症、そして最終的には線維化を誘発
細菌および非結核菌に対して易感染性
下葉にGGOまたはコンソリデーション 低画素値(-150~-30)は、外因性リポイド肺炎を示唆
リポイド曝露中止後も持続することが多い2,9,10
オイルレッドO染色により、外因性脂質識別が可能、非特異的所見
治療:曝露物回避(25~46%で臨床症状が軽減、33~43%のレントゲン所見が改善2,7)
外因性リポイド肺炎の診断は難しい。
診断飲み込み違い(診断の見込み違い?)
    よく聴いてみると(Case Recordでよくあるパターン)。それを聴けるか?
           経験すべき29症候 呼吸困難 経験すべき26疾病・病態 肺炎

●63歳女性が呼吸困難と咳嗽で来院した。今まで健康状態に問題はなかったが、2日前に筋肉痛と歩行時の息切れが出現し、また,緑色調の喀痰を認めた.発熱,悪寒,咽頭痛,鼻漏,動悸,関節痛,ふらつき等はなく,シックコンタクトもなかった.   入院7カ月前に右下葉の肺炎と診断され(図1A),筋肉痛や呼吸器症状もあったが,アモキシシリン・クラブラン酸塩の7日間投与で症状は改善した.入院の3カ月前に、その4カ月前(入院7か月前)の肺炎診断時と同様の症状で、地元の緊急医療クリニックを受診した。初診時の胸部X線写真では、右中葉と上葉に浸潤が認められた。グルココルチコイド(GC)とアジスロマイシン(AXM)の投与を受けたが,症状は持続した.その後入院し,胸部CTで、主に右肺に「crazy paving」様のGGOと,コンソリデーション(consolidative opacities),縦隔リンパ節および肺門リンパ節腫脹等を認めた.SARS-CoV-2 RNAのPCR検査は陰性であった.浸潤と症状が持続するため,気管支鏡による気管支肺胞洗浄(BAL)と気管支超音波ガイド下縦隔リンパ節および肺門リンパ節の細針吸引が施行された.BAL液は膿性で,培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が陽性であった.リンパ節吸引液の細胞学的検査では,癌の所見は認められなかった。14日間の抗菌薬投与により呼吸困難,咳嗽,筋肉痛等は完全に消失したが、入院2日前に再発した.
○本症例は,下気道感染症が疑われる.このような再発・持続のパターンは,①耐性菌や,②免疫機能障害,③粘膜繊毛運動障害,④解剖学的異常、⑤癌などの宿主要因によって見られる場合がある.本症例はMSSA感染の既往があるが、他の非定型感染や日和見感染、炎症性の原因等も考慮しなければならない。非特異的な呼吸困難と咳嗽+肺門リンパ節腫脹とGGO等のレントゲン異常は、いくつかの癌、肺出血症候群、じん肺、心疾患、リウマチ性疾患など、さまざまな疾患で発生する可能性がある。アミロイドーシスや肉芽腫性疾患などの浸潤性疾患も、同様の特徴を示すことがある。喫煙歴があれば、閉塞性肺炎につながる癌の懸念が高まる。動物および職業上の暴露(例:鳥、アスベスト、またはシリカ)は、過敏性肺炎またはじん肺等が示唆される可能性がある。
●患者の病歴は、不安症、高脂血症、片頭痛、甲状腺機能低下症、C6-C7椎体切除術(現在でも頸椎椎間板症関連の慢性疼痛がある)等であった。咳嗽、胸部うっ血(chest congestion)、喀痰を特徴とする気管支炎と思われる病歴が約8年あり、GCとAZM投与で、通常軽快するとのことであった。投薬は,アミトリプチリン,クロナゼパム,エボロクマブ,ラモトリギン,レボチロキシン,痛み止めとして屯用のオキシコドン-アセトアミノフェン等であった。サルファ剤に対してアレルギーがあり、フルオロキノロンとスタチンには副作用があった。    18歳から1日に約半箱の喫煙歴があったが、今回入院の3か月前に禁煙した。入院の1年以上前に数回ニコチンの電子タバコ(vape)を試みことがある。大麻使用,飲酒,違法薬物注射等はなかった.動物とのコンタクト(exposure)はなかった。最近の旅行歴にフロリダがあった。姉は関節リウマチを、母親は卵巣癌を患っていた。彼女は高齢者介護の仕事をしていたが、現在は引退していた。
○本患者の喫煙歴は20箱年以上であり、気管支炎と推定されるエピソードを毎年繰り返していることから、閉塞性肺疾患が潜んでいる可能性がある。電子タバコ使用は肺損傷と関連しているが、一時的な使用であり、症状の発症は最後使用後の時間が経ってからであった。姉が関節リウマチを患っているが、本人は肺合併症を思わす結合組織疾患を示唆する病歴はなかった。また,過敏性肺炎やじん肺に関連する明らかな曝露もない.
●身体診察では、体温36.8℃、心拍数96/分、血圧142/63mmHg、呼吸数18/分、酸素飽和度93%(鼻カニューレから2L/分酸素)等で、他のバイタルサインは正常であった。下の歯(lower teeth)はなく,口腔内の病変や潰瘍は認められなかった.頸静脈膨張はない.心音は規則的で、摩擦音、雑音、ギャロップ等はなかった。吸気音は正常でスムースな会話可能であるが,聴診ではびまん性rhonchiと呼気性喘鳴を認めた.腹部は軟で,圧痛,彎曲,肝脾腫等もなかった.手掌紅斑と鼻,頬,顎,頸部等に頸顔面紅斑を認めた.その他、発疹,滑膜炎,浸出液,関節圧痛等も認めなかった.四肢は温かく,循環良好で,末梢浮腫も認めなかった.
○呼気性喘鳴+rhonchiは、基礎疾患である慢性閉塞性肺疾患の増悪、または分泌物、病変、炎症など急性気道閉塞に関連する他の病態等から生じる可能性がある。手掌紅斑は、肝疾患と関連することが多いが、甲状腺機能亢進症や、リウマチ性関節炎、皮膚筋炎など、肺合併症を呈する可能性のあるリウマチ性疾患にも生じうる非特異的な所見である。鼻と頬の紅斑は、肺胞出血、肺炎、間質性肺疾患を合併する可能性のある疾患である全身性エリテマトーデスなどでよく見られる頬の発疹(malar rash)と合致する場合がある。多発性血管炎性肉芽腫症,シェーグレン症候群,強皮症等の慢性肺疾患と関連する他のリウマチ性疾患も,炎症マーカーと自己抗体検査等で適切に評価する必要がある.
●白血球数は8960/mm3(正常範囲は4000〜10000)で、分画も正常であった。Hbは13.5 g/dl(正常範囲:11.5〜16.4)、血小板数は412,000/ mm3(正常範囲:150,000〜450,000)であった。Cr、電解質,重炭酸塩,BUN,NTproBNP,高感度トロポニンT,プロカルシトニン,CK,アルドラーゼ,肝機能等は正常であり、LDHは244 U/Lであった(正常範囲135〜225).SARS-CoV-2 RNAのPCR検査,尿中レジオネラ菌と肺炎球菌抗原,ヒト免疫不全ウイルス検査を含む呼吸器系ウイルスパネル等は陰性であった.TSHは0.40μIU/ml(正常範囲0.50〜5.70),T3は7.2μg/dl(93nmol/l;正常範囲4.6〜10.7μg/dl[59〜138nmol/l])であった。血沈は16 mm/時(正常範囲:0〜30),高感度CRPは3.4 mg/l(正常範囲:0〜3.0)、C3は203mg/dl(正常範囲90〜180)、C4は20mg/dl(正常範囲10〜40)であった。RFは22IU/ml(正常値13未満)と陽性で,抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体は陰性であった.抗リン脂質抗体,抗核抗体,抗好中球細胞質抗体,抗Smith,抗Jo-1,抗Ro,抗La,抗ds DNA,抗RNP,抗Scl-70,抗セントロメア抗体等はすべて陰性であった.
○本患者の検査では、白血球数とプロカルシトニン値が正常であり、細菌性肺炎の懸念は幾分(somewhat)低い。甲状腺機能異常は、おそらく過剰な甲状腺ホルモン補充療法の結果であろう。リウマトイド因子の軽度上昇は、関節痛や滑膜炎がなく、臨床的意義は不明である。他の検査結果からは自己免疫疾患は示唆されない.
●心電図では洞性頻脈以外には異常はなかった。胸部CT肺血管造影では,多病巣性GGOが認められ,いくつかの領域はcrazy-paving様所見を呈し,また,主に気管支血管周囲の低画素領域(-84 Hounsfield units(HU))のコンソリデーション(consolidative opacities)が認められた.両側肺の縦隔および肺門リンパ節腫脹と上葉優位の軽度肺気腫も認められた。肺塞栓は確認されなかった。前回入院時の胸部CT画像で認められた右側のコンソリデーションは軽快していたが,crazy-paving外観を呈するGGOとリンパ節腫脹等の所見に大きな変化はなかった.
○経過観察の結果、右中葉のコンソリデーションは消失していたが、MSSA感染に対する適切な抗生剤治療後もレントゲン所見が持続していることから、細菌感染以外の原因が懸念される。Crazy pavingは、小葉間隔肥厚を伴うGGOを示唆し、感染、腫瘍性疾患、炎症、油性物質の吸引または吸入等に関連しうる非特異的所見である。画像診断では、低画素値(すなわち、-150から-30HU)は、脂肪の存在と合致する1,2。低画素値のGGO、クレイジーペイビング、リンパ節腫脹等を認めることから、外因性リポイド肺炎、肺胞タンパク症、閉塞性肺炎(内因性リポイド肺炎)、器質化肺炎、異型感染、粘液性または脂質優勢腺癌(lipidic predominant adenocarcinoma)などの広範な鑑別診断がある。
●入院3日目に軟性気管支鏡検査(図2)で両肺に多量の乳白色分泌物を認めた。右気管支粘膜の一部は敷石状外観(cobblestone appearance)を呈していた。右中葉と下葉からBAL検体を採取した.呼吸器検体の微生物学的検査(好気性,嫌気性培養,真菌培養,抗酸菌塗抹標本など)は陰性であった.BAL液は主に好中球優位であった.細胞診ではマクロファージが認められ,細胞質内に巨大空胞がみられた.縦隔リンパ節および肺門リンパ節の細針吸引では癌の所見を認めなかった。右中葉の気管支内生検標本と右中葉と下葉の経気管支生検標本も採取された。これらの標本の組織学的検査(図3)では,気腔内に多核巨細胞に混在した巨大空胞を有するマクロファージによる,肺胞隔壁や間質中での局所的器質化が確認された.この所見は、脂質に富んだ物質の慢性的な吸引によって惹起される外因性リポイド肺炎と診断された。
○組織学的検査での外因性リポイド肺炎所見は、彼女が脂質の豊富な物質曝露についての曝露疑義を投げかけている重要な所見である。外因性リポイド肺炎管理の主な柱は、曝露忌避であるため、脂質の吸引または吸入原因特定目的に、徹底した病歴聴取が重要である。
●詳細な問診では、患者は「過去10年間、下剤としてミネラルオイルを摂取していた」ことを明かした(週に2〜3回、就寝直前に大さじ3杯のミネラルオイルを摂取していた)。彼女はまた、ペトロラタムとパラフィンを含むリップクリームを1日に3回使用していた。タラ肝油や同様のサプリメント等は使用していなかった。ベッドサイドでの嚥下検査では誤嚥は認められなかったが,その後のバリウム嚥下検査で食道運動障害が認められた.
○外因性リポイド肺炎は誤嚥性症候群であるため、嚥下困難(嚥下機能)を評価した。本患者のように頸椎疾患があり外科手術を施行してあると、食道嚥下障害や運動障害を合併する場合がある。嚥下評価は正常であったが、食道運動障害があり、特に就寝直前摂取のミネラルオイルを無意識に誤嚥する可能性があることが判明した。外因性リポイド肺炎は、鉱物油、パラフィン、ワセリンなど、脂質の豊富な物質が含まれる物質で報告されているが、本患者はそれらいずれの物質も継続的に使用していた。
●本患者の入院中,GCと抗菌薬治療は延期された.入院4日目に酸素吸入を中止し,症状は自然軽快した.①就寝前の食事回避、②ベッド上の頭部挙上での就寝など、誤嚥に関する注意事項が説明され、7日目に退院した。退院1ヵ月後の胸部CTでは,多病巣性GGO所見に著変はなかったが,呼吸困難は大幅に軽快し,呼吸困難なく2マイルの歩行が可能であった.聴診ではrhonchiが残っていたが、呼気性喘鳴はなくなり、酸素飽和度は室内気で約96%を維持していた。

解説
●本症例は、再発性呼吸困難と咳嗽を呈し、crazy-paving appearanceを呈するground-glass opacity所見を呈した女性である。鑑別診断は感染性,炎症性,腫瘍性など多岐にわたった.最終的に,BAL液の細胞学的検査と経気管支生検標本の組織学的検査で,鉱物油摂取歴を支持する外因性リポイド肺炎と診断された.
●リポイド肺炎は、肺胞に①内因性または②外因性の脂質が蓄積することを特徴とする疾患である。内因性リポイド肺炎(①)は、主に気腔内の内因性脂質の蓄積を反映している。これは特定の疾患ではなく、例えば、気道閉塞、マクロファージ機能障害、サーファクタント代謝障害等に関連して発生する、サーファクタントのクリアランス障害疾患の一要素である3。外因性リポイド肺炎(②)は、胃の内容物または外因性物質の誤嚥により肺損傷が惹起される一連の疾患のひとつである。外因性リポイド肺炎に関連する暴露物には、石油ゼリー、鉱物油、植物油、リップクリームの過剰使用、スプレー塗料や機械潤滑油などのパラフィンまたはその他の油性物質への職業的暴露等がある3、4。鉱物油摂取により、その生物物理的特性により胃液の上層に蓄積する特徴があるため、胃食道逆流症(GERD)患者では、鉱物油吸引リスクが高まると考慮される1。    鉱物油下剤を含む多くの油含有物質は、危険性に関する情報未開示のまま一般に販売されている。さらに、市販鉱油製剤の添付説明書では、一般に就寝時使用を推奨しており、食道または嚥下機能障害を有する患者では、外因性リポイド肺炎のリスクが高くなる可能性がある。これらの物質は、吸引または吸入されると、肺胞マクロファージが脂質を貪食し、代謝不可能な慢性的異物反応を惹起する。マクロファージが死滅すると、脂質が放出され、このサイクルが繰り返される。この生理的パターンにより、肉芽腫性反応、慢性炎症、そして最終的には線維化を誘発する可能性がある。
●外因性リポイド肺炎では、無症状のこともあれば、発熱、呼吸困難、咳嗽、体重減少などの非特異的な症状を示す場合もある2。肺機能検査では、閉塞性または拘束性障害を示すことがある。非特異的な症状のため、診断が困難なことが多く、診断遅延もある。外因性リポイド肺炎は、①GERD、②解剖学的異常、③神経疾患による誤嚥の素因を有する年齢層等で観察される2,8,7。 加えて、外因性リポイド肺炎では、細菌および非結核菌に対して易感染性であると考えられる1,6。誤嚥された脂肪源同定には注意深い病歴聴取が必要である。
●画像検査では、外因性リポイド肺炎は、下葉にGGOまたはコンソリデーションを呈することが多い。本患者にみられたような、コンソリデーション内での低画素値(-150から-30HU)領域の存在は、外因性リポイド肺炎を示唆するが、(確定)診断的ではなく、常に存在するわけでもない。また、癌に類似した結節やリンパ節腫脹を呈する場合もある。肺葉隔壁間の肥厚パターン(crazy paving)とGGOも外因性リポイド肺炎でも報告されているが、特徴的所見はない3,8,9。外因性リポイド肺炎のレントゲン的特徴として、リポイド曝露中止後も持続することが多い2,9,10。
●感染症や癌の除外目的に、BAL が実施されることが多い2 。細胞学的検査では、好中球、リンパ球、好酸球、炎症性細胞の混合物等が観察される場合がある。オイルレッドO染色により、外因性リポイド肺炎患者のBAL検体において外因性脂質識別が可能になるが、本染色は、他の多数の肺疾患に関連した内因性脂質の識別も可能であることを考慮すると、非特異的所見である。組織学的検査では、脂質を含んだマクロファージは、組織球、巨細胞、その他の細胞性炎症、線維化などの慢性炎症所見を伴っている場合があり、その組み合わせはさまざまである5,9。外因性リポイド肺炎の診断には経気管支生検による小さなサンプルで十分で(診断)可能である。本症例では,初回BAL時にMSSA感染による好中球の反応が重複し,外因性リポイド肺炎の特徴に対する検出感度が低下していたと思われる.しかし,2回目のBALは外来性リポイド肺炎を強く示唆し,経気管支生検により診断確度が高かった(diagnostic)ため,より侵襲的処置の回避が可能となった.
●外因性リポイド肺炎の治療は、曝露物回避(termination)である。本患者は,鉱油とリップクリームの使用を中止後,多くのレントゲン異常が残存していたものの,臨床的には顕著な改善を示した.外因性リポイド肺炎と診断され、曝露を避けたケースシリーズでは、25~46%の患者で臨床症状が軽減し、33~43%の患者でレントゲン所見が改善した2,7。逸話的報告では、全身性GC治療後に外因性リポイド肺炎の重症例で臨床的改善が見られたとされているが、治療におけるGCの役割(役割があるとした場合)はまだ明らかにされていない11。脂肪物質除去目的の全肺洗浄(whole-lung lavage)で軽快した症例報告もある12,13。外因性リポイド肺炎が限局している場合や、再発性感染症合併の場合、肺の最大障害部分切除目的に、外科的切除が行われることがまれにある1,2。本患者初回入院時の抗菌薬(初回)反応性は、当時の重複肺炎(の経過)に合致している。
●本症例は再発性呼吸困難と咳嗽を呈し,X線学的,組織学的に下剤目的の鉱物油の長期連用による外因性リポイド肺炎と合致する所見を得た.本症例は、他の感染症、腫瘍、炎症性疾患に類似した非特異的な症状を示すことから、外因性リポイド肺炎の診断の難しさを浮き彫りにしている。
           
            診断:外因性リポイド肺炎

23/08/2022

Case23-2022 Teaching Points コメント

今回は、本年6月に登場したばかりのインスリン自己免疫症候群(After Dinner Dip)に引き続き、低血糖症候の論理的鑑別診断のお勉強症例でした。
https://drive.google.com/drive/folders/1LihbHN7kW8iJrqWzMBy-zPrO6Cg9PifY?usp=sharing
「低血糖→(直観思考)→インスリノーマ」との記憶(反射神経)が呼び起こされ、第一にインスリノーマを鑑別に挙げた方が多いと思います。今回はまさにその直感が当たったのではないでしょうか。しかし、前回の症例のコメント(↑)でも述べましたが、プライマリーケアでは、きちんと低血糖を論理的に解明していく技を身につけたいものです。

低血糖の原因特定目的の鑑別診断には、①全身性疾患、②薬物または毒物の摂取、③内因性インスリン産生の3カテゴリーを検討する必要がある。

また、低血糖防止のメカニズムとして、

身体には低血糖防止のためのいくつかの調節機構があり、①摂取によるグルコース利用確保目的のホルモンおよび神経のシグナル伝達経路、②肝および腎の糖新生、③肝グリコーゲン分解などがある。しかし、全身性疾患では、これらの経路の一部が機能不全や障害を来し、正常代償過程の破綻により低血糖を惹起することがある。

も確認しておくといいと思います。
さらに、今回、糖尿病治療薬を用いた低血糖の分類として、

① 偶発的(accidental)低血糖:意図しない薬物服用や、他人による薬物投与など
② 偽性(factitious)低血糖は、意図的・密かな薬剤服用
③ 悪意ある(malicious)低血糖は、低血糖誘発目的の意図的投与 代理ミュンヒハウゼン12
とのまとめもあり知識の確認になりました。
 
インスリノーマはおなじみの疾患ですが、改めて教科書的な記載を確認することができました。また、本年4月にCPCで取り上げた、神経内分泌腫瘍(NET)も2010年の分類を含めて記載されており、インスリノーマの位置づけとともに再確認になりました。
https://drive.google.com/drive/folders/1OCh7wrwba2skiCLc-zOC5_Y65EifZDid?usp=sharing

Case23-2022:低血糖の49歳男性
低血糖を論理的に鑑別診断する 経験すべき29症候:意識障害

Dr. Mollie Sands(医学博士)。49歳の男性が低血糖を主訴に当院入院となった。 患者はこの入院の3時間前まで元気であったが、仕事中に精神状態が変化した。会議中,患者が注意を払わず,会話に参加していないことに同僚が気づいた.それどころか、まるで他人と会話しているかのように、そわそわとつぶやくような話し方で、携帯電話が鳴ってもそのままにしていた(との話である)。   入院の2時間前、患者は会議室の床で転倒の状態で同僚に発見された。開眼していたが、意識朦朧状態で、無目的な動作をしていた。救急医療サービスが呼ばれた.評価時,指尖血糖値は39 mg/dl(2.2 mmol /l,基準範囲:70~109 mg/dl [3.9~6.1 mmol/l)であった.ブドウ糖が静脈投与され,患者は精査目的で当院救急診療部に搬送された.    救急外来到着時,患者は混昏迷状態で,胸骨摩擦(sternal rub)に無反応であった.ブドウ糖の追加静注し,糖輸液も開始したところ、精神状態は改善し、追加の病歴聴取が可能になった。当日朝、「夢のような」状態にあることを感じていたが、他の症状はなかった。精神状態の変化は回復したが、入院3時間前に行われた会議を含めて午前中のほとんどの出来事の記憶がなかった。   過去3ヶ月間に意図せず体重が1サイズ増加し(gain of one pant size)、過去3年間に時々朝にめまいがあったが、飴や朝食等の摂取により回復していたという。最近の病気、うつ病、不安、活動や運動の変化、食物や飲料水の摂取量変化などは報告されていない。典型的な1日では、午前5時に朝食、午前10時に2回目の朝食、午後1時に昼食、午後6時に夕食、午後8時に間食を摂取しており、救急部受診の約7時間前にも直近の食事摂取があった。   2年前,患者は仕事中に左顔面下垂と感覚低下,言葉の発音困難等の症状を経験し、当院救急外来を受診した.血糖値は64mg/dl(3.6mmol/l)、ライム病検査は陰性であった。ベル麻痺と診断され,プレドニゾンとアシクロビルで治療され,症状は消失した.2ヵ月後,患者は当院のプライマリーケアクリニックで治療を開始した.定期的な臨床検査で,血糖値は46 mg/dl (2.6 mmol/l)であった. 患者はビタミンB12とビタミンDのサプリメントを摂取していた。他の薬は服用しておらず、薬物アレルギーもない。飲酒はほとんどせず、喫煙、違法薬物使用もなかった。16年前に東南アジアから米国に移住し、現在はニューイングランドの都市部で一人暮らで、正看護師として働いていた。父親と兄は2型糖尿病を患っており、インスリンを使用していた。   身体診察では、体温35.7℃、心拍数82/分、血圧146/76mmHg、呼吸数14/分で、BMIは27.6で、容態は良好であった。肝脾腫や皮膚の色素沈着はなく,その他の身体所見も正常であった.    救急部到着時の血糖値は36 mg/ml(2.0 mmol/l)で、ブドウ糖投与後の指尖血糖値は158 mg/dl (8.8 mmol/l)であった。血算,電解質濃度,肝機能,腎機能検査等は正常で、HbA1cは5.4%であった(基準範囲:4.3〜6.4).血清と尿の毒性学的パネルは陰性であった。臨床検査結果は表1に示すとおりである.患者は当院入院となった.診断検査が施行された。
鑑別診断
Amy W. Baughman博士:この49歳の男性は、再発性症候性低血糖を呈していた。最近の体重増加、1日5食の食習慣、断続的な朝のめまい(食事で解消される)等を報告した。病歴にはベル麻痺と低血糖症があったが、これまで未検査であった。社会歴は、医療施設での看護師をしており、家族歴に糖尿病がある。初回の臨床検査では、HbA1cは正常で、血糖値低値(36mg/dl)であった。   鑑別診断にあたり、本患者の最も特異的な特徴は、症候性低血糖である(ことを明記したい)。Whippleの3徴候は、1930年代にインスリノーマ膵臓手術の基準確立を試みたAllen Whipple博士によって初めて記述された1。Whippleの3徴候は、①空腹時または運動後にしばしば生じる低血糖の症状、②(その際の)血糖低値、③ブドウ糖投与による症状消失の3徴 である。今日、この3徴候は、低血糖症の正式な評価を受けるべき人物特定に有用である。    低血糖の原因特定目的の鑑別診断には、①全身性疾患、②薬物または毒物の摂取、③内因性インスリン産生の3カテゴリーを検討する必要がある。
●全身性疾患    低血糖は、糖尿病、非糖尿病患者ともに、入院患者によくみられる症状である。低血糖は、いくつかの全身性疾患で認められる2 。低血糖は、敗血症や神経性食欲不振症のような栄養失調状態を惹起する疾患でみられることがある。また、肝不全、腎不全、うっ血性心不全、ホルモン欠乏症(副腎不全など)、炭水化物代謝異常等でも見られることがある。通常、身体には低血糖防止のためのいくつかの調節機構があり、①摂取によるグルコース利用確保目的のホルモンおよび神経のシグナル伝達経路、②肝および腎の糖新生、③肝グリコーゲン分解などがある。しかし、全身性疾患では、これらの経路の一部が機能不全や障害を来し、正常代償過程の破綻により低血糖を惹起することがある。   低血糖症惹起可能性のある全身性疾患としては、非膵島細胞腫瘍性低血糖症(NIH: Non-islet cell tumor hypoglycemia)を合併するがんがあるが、かなり稀である。この腫瘍随伴症候群は、インスリン受容体を刺激するインスリン様成長因子 II の過剰産生が生じる3。本合併症を有する患者は通常、間葉系腫瘍、線維腫、腺癌、肝細胞癌などの、臨床的に巨大腫瘍を呈する4。   本症例では、患者の全身状態は全般的に良好で、全身性疾患、腎臓・肝臓疾患、癌等の所見はなく、これらの原因による低血糖は考えにくい。また、肝糖新生などの機能的代償機構があるにもかかわらず、低血糖が持続していたことから、別の機序、特に薬物療法や高インスリン血症等が考慮される。
●薬物・毒物の摂取    低血糖は、薬物または毒物摂取に起因する場合がある。栄養状態不良者、または肝グリコーゲン枯渇による肝機能障害患者では、大量飲酒により低血糖が生じうる5,6。 低血糖はSU剤やglyburide含有のハーブ製剤の内服後でも報告がある8,9。本患者は、飲酒はほとんどせず、入院時のエタノール濃度は0mg/dlであったと報告されている;また、栄養不足または肝疾患を示す所見はなかった。   糖尿病治療薬以外に、いくつかの薬剤が低血糖と関連しているが、164の薬剤の系統的レビューでは、関連を裏付ける証拠の質は低から中程度に過ぎなかった7。低血糖の原因としてよく指摘される薬剤は、フルオロキノロン、キニン、βブロッカーおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤等である。本患者は、ビタミンB12とビタミンDのサプリメントを摂取していたが、他の薬剤やハーブサプリメント等の使用は報告されておらず、低血糖症状は慢性経過であり、薬剤が低血糖の原因とは考えにくいと思われた。    糖尿病治療薬のインスリンやスルホニル尿素薬、メグリチニドなどのインスリン分泌促進薬は、低血糖を惹起する可能性がある。①偶発的(accidental)低血糖は、薬の取り違えや混入などの、意図しない服用や、他人による意図しない糖尿病治療薬投与などにより生じる。これに対して、②偽性(factitious)低血糖は、患者が意図的または密かに糖尿病治療薬を服用して低血糖を誘発することによって惹起される。低血糖発症者は、糖尿病患者、糖尿病患者との密接な交友関係を有する場合、医療従事者などが多い。また、大うつ病などの精神疾患や自殺歴がある場合も可能性がある10。ある症例報告では、低血糖を起こした患者10人のうち2人が自殺に至っている11。最後に、③悪意ある(malicious)低血糖は、低血糖誘発目的に誰かが意図的に患者に糖尿病薬を投与した場合に起こり、これは代理ミュンヒハウゼン症候群で見ることができる12 。偶発性、偽性、悪意ある低血糖等はしばしば、絶食状態や食事とは無関係に、いつの時間にも生じる。    本患者は、家族に糖尿病患者がおり、看護師であったため、糖尿病治療薬入手が(容易に)可能と思われるが、精神疾患やうつ病の既往はない。さらに、低血糖のエピソードはランダムな時刻ではなく、絶食状態時に誘発されたものであった。
●内因性高インスリン血症    内因性インスリン産生の原因には、①非インスリノーマ膵臓性低血糖症候群(NIPHS)、②インスリン自己免疫性低血糖症、③インスリノーマ等がある。NIPHS(①)は、膵島細胞腫瘍はないが、肥大やnesidioblastosisなどの異常な形態的特徴を有する膵島細胞の存在を特徴とする13。NIPHSはインスリノーマよりも低頻度で、低血糖は食後2~4時間で起こるが、本患者では空腹時に低血糖が来たした13。    インスリン自己免疫性低血糖症(②)は、インスリンまたはインスリン受容体を標的とする抗体によって惹起される。インスリン自己免疫性低血糖症のひとつに、内因性インスリンに対する自己抗体が産生される平田病(インスリン自己免疫症候群)がある。平田病での低血糖の程度は様々であるが、通常は軽度で食後に多い14。平田病は、チオール化合物15などの薬剤やウイルス16曝露により発症することが多く、自己免疫疾患や血液疾患と関連することもある17。平田病は日本で最初に報告され、日本における低血糖症の原因の第3位となっているが15、世界的にまれで、1970年から2009年の間に世界中での報告は380例のみである19。    インスリン自己免疫性低血糖症のさらに稀な形態として、インスリン受容体に対する自己抗体が産生されるB型インスリン抵抗性症候群がある。B型インスリン抵抗性症候群は、2014年までに世界で67例しか報告されていない20。B型インスリン抵抗性症候群の患者は、重症糖尿病と高度のインスリン抵抗性を呈することが最も多いが、低血糖を呈することもある18。(自己抗体が)低抗体価の場合、抗インスリン受容体抗体はインスリン作用と同様に低血糖を惹起し、高抗体価になるとインスリン抵抗性と高血糖の原因となる20、21。B型インスリン抵抗性症候群も自己免疫疾患と強く関連していると言われている。本患者は、糖尿病や他の自己免疫疾患や血液学的疾患の所見がなかったので、平田病とB型インスリン抵抗性症候群の両方は考えにくい。    インスリノーマ(③)は、膵臓のβ細胞から発生するインスリン産生腫瘍である。インスリノーマの最大6%が、副甲状腺、下垂体または膵島細胞の2つ以上の腫瘍の存在を特徴とする常染色体優性疾患である多発性内分泌腫瘍1型(MEN1)と関連している22。インスリノーマのほぼすべての患者が低血糖症状を呈し、進行性で、空腹時に誘発されることが多く、食後の低血糖症状はまれである23。ある症例報告では、患者の 77%が自律神経症状、96%が神経性低血糖症状を呈していた23。本患者は、食事により消失する断続的な朝のめまいの既往を報告し、今回の低血糖症の発症日朝、職場で床に転倒した状態で発見されたが、最後に食事をしたのは発症 7 時間前だった。さらに、体重増加はインスリノーマ患者の18~56%に認められ23,24、本患者は、低血糖の症状を避けるために頻繁に食事をする傾向があるため、最近意図せずに体重が増加したと報告している。    インスリノーマ患者237人を含むケースシリーズでは、患者の43%が男性で、発症時年齢中央値は50歳、診断前の症状期間中央値は1.5年であった22。本患者は49歳の男性で、2年前のルーチン検査評価で低血糖が確認され、低血糖の症状が少なくとも3年前から生じていた。   本患者の年齢、症状、臨床歴、症状の持続期間等は、インスリノーマの診断に最も合致している。確定診断には、監視下断食により、症候性低血糖の有無を監視し、さらに、血糖、インスリン、C-ペプチド、プロインスリン、β-ヒドロキシブチレート等の血清値を測定することになる。

エイミー・W・バックマン博士の診断結果:インスリノーマ

診断テスト
ナンシー・J・ウェイ博士 自然発症症候性低血糖の監視目的で、監視下絶食を実施した。絶食中、患者は水分のみの摂取とした。2時間ごとに指尖血糖値を測定し、低血糖の自覚症状と精神状態変化の客観的所見を臨床評価した25。4時間後,指尖血糖値は53mg/dl(2.9 mmol/l)であり,低血糖症状や精神状態の変化は認められなかった.採血により,血糖(解糖剤入りチューブ),インスリン,Cペプチド,プロインスリン,β-ヒドロキシブチレート等を測定した.監視下絶食は継続され、30分後に再度指尖血糖値測定の予定であった。 4.5時間後,指尖血糖値は45mg/dl(2.5 mmol/l)であり、低血糖症状や精神状態の変化は認められなかった.血液採取により血糖,インスリン,C-ペプチド,プロインスリン,β-ヒドロキシブチレート値を測定し,経口血糖降下薬(hypoglycemic agents)をスクリーニングした.監視下絶食が終了し、ブドウ糖が投与された。絶食試験の結果、インスリノーマと合致する高内因性インスリン血症が認められた(表2)。CTおよび内視鏡的超音波検査により(インスリノーマの)局在検査が実施された.

画像検査
Peter F. Hahn博士。低血糖が膵神経内分泌腫瘍(NET)由来を示唆していたため、腹部のマルチディテクターローヘリカルCTを2相の造影で施行した。動脈後期相画像では,膵頭部に7mmの増強焦点があり,そのすぐ隣には十二指腸憩室周囲のガス気泡が認められた(図1A).この所見は約25秒後の標準的な門脈相で得られた画像では確認不可能であった(図1B)。    造影動脈相画像は、通常小さく一過性に増強する機能性NET検出の唯一の画像の可能性がある。これら腫瘍に対するCTでの局在診断成功率は、感度63~82%、特異度83~100%と報告では幅が広い26 。2009年のコンセンサスステートメントでは、感度73%、特異度96%とされている27。    膵NET疑いでの腫瘍の位置確認において、CTの代わりに、またはCTに加えて、しばしばMRIが用いられる。MRIは、CTよりも患者動作による(画像)劣化を受けやすく、画質は患者の静止能力に依存する。しかし、MRIはCTよりも優れている。T2強調画像や拡散強調画像では、膵NETの高輝度表示(正常膵臓組織と比較して)が可能である。さらに、最近の進歩により、動脈相の増強時に複数の画像セット描出が可能になった。高度の時間分解能により、膵NETのわずかな赤色調(brief blush)が捉えられる可能性が高くなる。MRIはまた、まれな嚢胞性NETと分枝管内乳頭状粘液性新生物の鑑別にも有用である。膵尾部の病変については、MRIにより膵NET類似の膵内脾臓(intrapancreatic splenules)同定が可能である。本症例ではMRIは実施されなかった。    また、本症例では、Gd-68標識ソマトスタチンアナログ核医薬品を用いたハイブリッドPET+CT(PET-CT)や、最近導入されたPET+MRI(PET-MRI)は実施されていない。これらの技術によりインスリノーマの局在診断は可能であるが、通常はソマトスタチン受容体を有する十分な分化度の悪性神経内分泌腫瘍からの転移検出目的に使用される28。

内視鏡検査
Dr. Brenna W. Casey 腹部画像での病変の局所診断後、リニアアレイエコーエンドスコープ(linear array echoendoscope)を用いた超音波内視鏡検査が実施された。超音波内視鏡検査では、直径3~5mm程度の小さな膵NETの識別は最大92%可能である。本症例では、超音波内視鏡検査により、膵頭部に低エコーの腫瘤が認められた(図2)。腫瘤径は最大断面径で11mm×10mmで、内視鏡的境界は明瞭であった。カラードップラー画像で血管がないことを確認後,細針生検を施行し,可視可能な組織コアを採取した。標本の迅速細胞診の結果,神NETを示唆する悪性細胞が検出された。これらの所見に基づき,患者は外科的切除目的に紹介され,初診から15日後に膵頭部核出術が施行となり、成功した。

病理学的考察
M. Lisa Zhang博士。膵頭部核出標本切片は,均質で軟らかい褐色の切断面を呈した。組織学的検査では、腫瘍細胞は巣状(nests)とロゼッタ状(rosettes:円花飾り)を呈し、丸い均一な核、粗造な「塩と胡椒salt and pepper」クロマチン、顆粒状のピンク色細胞質等を認めた(図3A)。このような構造的、細胞学的特徴は高分化型NETに特徴的であった。免疫組織化学染色では、腫瘍細胞は①神経内分泌マーカーであるシナプトフィシン、クロモグラニン、②ホルモンマーカーであるインスリン等が陽性であった(図3B、3C、3D)。これらの所見から、インスリノーマと確定診断された。    NETは膵臓腫瘍の2〜5%を占め、そのほとんどは散発性で非機能性である29 。NETは症候群、特に MEN1 と von Hippel-Lindau 病に合併する場合があり、この場合(これら症候群に合併する場合)多臓器に出現(multifocal)する可能性が高くなる。非機能性NETでもそのほとんどが少量の不顕性ホルモンペプチドを産生することを考慮すると、機能性NETはホルモン産物の免疫組織化学的発現のみを根拠には診断不可能で、主にホルモンに関連する臨床症候群に基づいて診断される29。    インスリノーマは機能性膵NETの最も一般的なタイプであり、切除症例の4~20%を占めている。散発性の孤立性インスリノーマ発生における原因は不明である(no known causal factors)が、これらのインスリノーマの4~5%がMEN1と関連している30。インスリノーマはほぼ膵臓にのみ存在し、他の機能性腫瘍よりも(進行は)緩徐である;転移は症例の10%未満で、通常直径2cm以上の腫瘍と関連している。    膵NETの最も重要な予後因子は、①病期と②悪性度である。本症例では、腫瘍の直径は12mmであり、腫瘍は切除縁に接していたが、リンパ管侵襲、神経周囲侵襲、リンパ節転移等は認めなかった(核出術ではしばしば認められる)。腫瘍径(2cm未満)、膵実質内での局在、リンパ節転移陰性等を根拠に、米国がん合同委員会の腫瘍節転移ステージングシステムに従い、病理学的ステージはpT1N0と決定された。    2017年のWHOの膵NET分類では、有糸分裂数とKi-67増殖指数によって高分化型腫瘍を3つの組織学的グレードに分類している29。 本症例の腫瘍は、有糸分裂数わずか1個/2mm2とKi-67増殖指数2.75%であり、グレード1高分化型NETの示す特徴(有糸分裂数

16/08/2022

Case 22-2022  コメント

  今回の症例は、①肺の空洞性病変+tree in bud opacitiesを呈する(免疫低下)患者で、どのような疾患を考えるかという鑑別診断と、②(むしろこちらに主体を置きたいと思いますが)、臨床推論、診断エラーの2点が注目されました。
前者に関しては、キモにまとめたように、いくつかnoteしておくパールが散りばめられて
おりました。
ツ反は免疫不全では偽陰性があり 大麻の燃焼は、肺アスペルギルス症に関連する7
アスペルギルス感染ではガラクトマンナンは有用な代替マーカーとなることが多い
ヒストプラズマ症では1,3-β-D-Gを産生し9、血中では侵襲性真菌感染のマーカー となる   ブラストミセスは1,3-β-D-Gを産生しない10 HisとBla抗原は交差反応がある
さて、後半の臨床推論ですが、NEJMでは、たびたび取り上げられ、とても勉強になります。今回は、
① 問題の表現-信号とノイズ
② PIVOT POINTS
③  連続したベン図(SEQENTIAL VENN DIAGRAM)
の3点について論じられ、とても勉強になりました。
まず、①で、症例を
「長期にわたる高COR血症のために免疫低下した34歳の女性で、現在、慢性の潜行性かつ進行性のtree-in-bud病変と空洞性肺病変を呈している」  
と再表現(再構築)し、
②で、
2つのPivot Pointとして、Ⅰ:空洞性肺病変とⅡ:tree-in-bud opacitiesを選択し、認知的負荷を最小限に抑え、可能な診断数を少なくしている
そのうえで、③で、
ベン図はを用いて、異なる情報の集合に共通する特徴を強調し、重複部分に出現する特徴に無関係な診断を除外している。
具体に本症例では、感染症や自己免疫過程を残す→本患者の免疫低下を表示すると、重複部分から、鑑別診断を感染症に絞り込んだ→最終的にtree-in-bud opacitiesと空洞病変両者を惹起する感染症にのみに焦点を当てた という論理だと思います。いつもながらのすばらしいMGHの鑑別診断における推論が、今回は方法論の解説付きで勉強させてもらいました。
ここら辺は、獨協医科大学総合診療部教授の志水太郎先生(研修医の間では有名な先生と思います)、著書「診断戦略」に詳しいので、興味のある方は読むといいと思います。

Case 22-2022:空洞性肺病変を有する 34 歳の女性
                 肺病変をどう考えるか   臨床推論を学ぶ 

Dr. Theodore R. Pak(医学)。34歳女性が、転移性膵神経内分泌腫瘍に伴う高コルチゾール(COR)血症で当院入院となった。    患者は入院4年前まで元気であったが,その際腹痛,下痢,腹水が出現した。肝臓と脾臓に転移のある膵神経内分泌腫瘍と最終診断され、オクトレオチドとエベロリムスが開始された。    3年前にペプチド受容体放射性核種治療(peptide receptor radionuclide therapy)が開始され,その後2年間で4サイクルが終了した。8ヶ月前に、患者は疲労のためエベロリムスの服用中止を決定した。  7ヶ月前、体重増加、高血糖、気分変化等のため、他院で診察を受けた結果、血中ACTHと唾液中および尿中のCOR値上昇が認められた。    アディナ・ハラマティ博士 頭部MRIでは、最長径1.3cmの下垂体病変が認められた。下垂体静脈洞(inferior petrosal sinus)からの採血により、ACTH分泌が下垂体由来であることを確認した。   Pak先生:オクトレオチド(OCT)を中止し、3ヵ月前に下垂体病変を経蝶形骨で切除した。術後、CORとACTH値は上昇したままであった。頭部MRIの再検査で下垂体病変残存が判明し、入院2カ月前に,残存病変の経蝶形骨洞(残存下垂体腫瘍)切除術が施行された。  2回目の手術後,CORとACTH値は低下したが,正常化しなかった.下垂体切除標本の病理学的評価では、ACTH分泌細胞腺腫とは合致せず、正常下垂体前葉構造を認めた。退院後,内分泌内科で経過観察中,24時間尿中遊離COR値が再上昇し,パシレオチドが開始された.   10日前に,患者は錯乱,尿失禁,転倒等を繰り返すようになり、他院の救急外来を受診した。オンラインショッピングや過食などの非日常的、衝動的行動があったことを夫が報告した。
ハラマティ先生 頭部MRIでは、トルコ鞍左下側面に小さな増強減少部位があり、術後変化または残存腺腫と合致する所見であった。    Pak医師:朝の血中COR 80μg/dl(2207nmol/l;基準範囲4〜23μg/dl[110〜635nmol/l])、ACTH 519pg/ml(114pmol/l;基準範囲7.2〜63pg/ml[1.6〜14pmol/l])であった。24時間尿中遊離COR 9450μg(26,069nmol/l;基準範囲:3.5~45μg(10~124nmol/l))であった。
ハラマチ先生。腹部MRIでは、左副腎に広範に接する膵尾部の滲出性腫瘤、両副腎肥厚、左側後腹膜転移、門脈の慢性海綿状変化と広範囲な肝転移等が確認された。  パク先生:パシレオチドを中止し、ケトコナゾールを開始し、さらに低カリウム血症に対するカリウム補給とスピロノラクトンも開始した。他院での治療10日目に当院転院となり、治療を継続した。   当院の診察では,疲労感はあるが,発熱,悪寒,寝汗,体重減少などは認められなかった.咳嗽,喀血,胸痛,リウマチ様症状,嚥下困難,胃食道逆流症等の既往はなかった.病歴は,喘息,腹水を合併した門脈血栓症,経蝶形骨洞下垂体切除術後の甲状腺機能低下症および中枢性尿崩症等があった.投薬は,アトバコン,コレカルシフェロール,デスモプレシン,ケトコナゾール,レボチロキシン,メトホルミン,パントプラゾール,スピロノラクトン、塩化カリウム等であった.薬物アレルギーの既往はなかった。飲酒、喫煙、ベイプ製品(電子タバコ)使用等はなかったが、マリファナは時々吸っていた。夫とバーモント州在住で、以前の職場が医療施設であったため、結核菌の皮膚テストを何度か受けたが、すべて陰性であったという。発病前、彼女は地元でよく園芸やハイキングをしていた。カナダに旅行したことはあるが、その他の旅行はニューイングランド内のみであった。父方叔母に卵巣癌の家族歴があった。    体温36.9℃,血圧152/87mmHg,脈拍77/分,呼吸18/分,酸素飽和度97%(室内気)、BMI 24.0等であった。患者は覚醒しており、オリエンテーション良好で、質問への回答も適切であった。顔は丸みを帯び、ざ瘡と薄毛が見られ、腹部脂肪が増加し、線条が認められ、四肢にはいくつかの打撲痕があった。入院時の胸部X線写真では,静脈アクセスデバイスが留置され,右肺上部に斑状混濁(patchy opacity)がみられた.    OCTが再開され、他剤も継続された。高COR血症は,転移性膵神経内分泌腫瘍からのACTH分泌によるものと考えられた.両側副腎摘出術が計画されたが,入院2日目に患者は内向的になり,会話せず、内服も食事もしなくなった。集中治療室に移され,エトミデートの点滴が開始され,COR血中濃度を10〜20μg/dlに調節された.その後,ロラゼパム静注により精神状態は著明に改善し,命令に従順になり,質問にも適切に応答するようになった.第6病日に両側副腎摘出術を施行し、術後はヒドロコルチゾン静注を開始し,7日目に当院内科に転院し,さらに治療を継続した。    ハラマチ先生 入院8日目に洞性頻脈が出現した。肺塞栓症プロトコールでの胸部CT(図1)を施行。右上葉に空洞と隣接するtree-in-bud opacityを伴う斑状のコンソリデーションと、両側胸水が少量確認された。肺塞栓症所見は認めなかった。過去の画像は未確認であるが、8カ月前に他院施行のポジトロンCT検査で、右上葉に直径7mmの新規空洞性結節を認めたとの記録がある。    Dr. Pak:喀痰培養では,扁平上皮細胞が少数,多核白血球が少数,グラム陽性菌とグラム陰性菌が混在(優勢な特定菌種はなかった)していた。尿中Legionella pneumophila抗原とStreptococcus pneumoniae抗原、血中クリプトコックス抗原等は陰性であった.血中1,3-β-D-グルカン濃度は31 pg/ml以下(基準値60以下),血中ガラクトマンナン指数は0.05(基準範囲0〜0.49)であった.その他の臨床検査結果は表1に示す.   9日目に気管支鏡検査を施行し,気管支洗浄液と気管支肺胞洗浄液(BAL)を採取したが,膿性分泌物は認めなかった.BAL液のグラム染色では,少数のグラム陽性菌とグラム陰性菌の混合菌が存在したが,抗酸菌塗抹標本および修正抗酸菌塗抹標本では菌は認められなかった.BAL液のPneumocystis jirovecii検査は陰性であった.    11日目にBAL液の培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が少数増殖していた.バンコマイシン,セフェパイム,メトロニダゾールの静脈投与が開始された.入院12日目の尿検査で,ヒストプラスマ抗原が2.25 ng/mlで陽性となった(基準範囲:0.00~0.10[陰性],0.11~1.10[不定],1.11以上[陽性]).
管理(方針)が決定され、診断検査の結果を受けた。

鑑別診断
ダニエル・レストレポ博士 この 34 歳の女性は、転移性膵神経内分泌腫瘍で、異所性ACTH分泌と高COR血症を合併し、断層画像では肺所見が進行していた。患者の病歴は複雑であり、大量の臨床データがある。まず本者の臨床所見(presentation)の特徴を特定し、効率的診断を目的に、余計な情報は排除してみようと思う。
●問題の表現(Problem Representation)-信号とノイズ    臨床医が複雑な症例に直面した際、患者との面会時やカルテのレビュー等で、大量データから顕著な特徴の選別が必要となることが多い。この場合、鑑別診断の最初のステップは、"信号 "と "ノイズ "の区別である。本患者の病歴の特徴は、稀な合併症によって顕在化した稀少腫瘍であり、それに対して複数の治療を受けてきたことである。治療は免疫調節剤とソマトスタチンアナログであり、腫瘍は、門脈血栓症起因の非出血性門脈圧亢進症なども惹起している。しかし,最初の課題は,コルチコトロピン分泌性神経内分泌腫瘍があり、内因性グルココルチコイド(GC)が大量産生されている病態下で,この肺の画像所見で考慮される原因の検討である.本患者は高COR血症であり、免疫不全であると考慮される。    問題表現の作成には、患者の話から重要なデータを抽出し、目下の臨床問題を要約した簡潔な文章を作成することが必要である1。一般に、問題の表現には、特定の疾患に関する疫学的な危険因子や、疾患進行速度、臨床症状など、患者を特徴づける情報が含まれている2。本症例の情報に基づいて、私は次のように問題(本症例)を(再)構築し表現する:「長期にわたる高COR血症のために免疫低下した34歳の女性で、現在、慢性の潜行性(insidious)かつ進行性のtree-in-bud病変と空洞性肺病変(tree-in-bud opacities and cavitary lung lesions.)を呈している」 である。このような問題意識を持つことで、本症例に対するアプローチの枠組み構成により、患者の画像所見に基づく鑑別診断の絞り込みが可能になる。   
●PIVOT POINTS(回転軸、支点、要所要所)-空洞性肺病変とTree-in-bud病変
ピボットポイントとは、鑑別診断が限られている症例で、医師が診断に至るために焦点を当てることの可能な一面(facet of a case)と定義される3。①認知的負荷を最小限に抑え、②可能な診断数を少なくする、ためには、ピボットポイント(の設定)が膨大な臨床データを有する症例において非常に有用である。本患者の2つのPivot Pointとして、Ⅰ:空洞性肺病変とⅡ:tree-in-bud opacitiesを選択した。    空洞性肺病変(Ⅰ)とは、肺にガスが充満した空洞、コンソリデーション、腫瘤等を伴う固形病変(solid lesions)で、画像検査で確認可能であり、様々なプロセスにより惹起される。非感染性の原因は、①自己免疫疾患と②がんに大別される。肺空洞症に関連する自己免疫疾患(①)には、多発性血管炎性肉芽腫症、サルコイドーシス、関節リウマチ等がある。原発性肺腫瘍および転移性癌はいずれも空洞性肺病変を惹起する可能性があり、診断上重要な考慮疾患である(②)。しかし、空洞性肺病変の大部分は③感染症により惹起され、特に免疫不全宿主では、潜在的な病原体リストは広範囲に及ぶ4。   tree-in-bud opacities(Ⅱ)は、CT画像で確認可能で、肺の遠位気管支における炎症または陥没(impaction)に起因し、健常肺には認められない。この病変は、「気管支周囲の小結節集簇が、発芽した葉に囲まれた木の枝に類似する」ことから名付けられた。tree-in-bud opacitiesは、感染症や口腔咽頭または胃内容物等の誤飲により生じることが多いが、まれに、シェーグレン症候群や肺病変を伴う関節リウマチなど、特定の自己免疫疾患でも出現する可能性がある。肺病変(opacities)の感染性原因としては、結核性や非結核性マイコバクテリア感染症、真菌感染症、黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌などの一般細菌病原体による感染症がある5。    
●連続したベン図(SEQENTIAL VENN DIAGRAM)    このような2つの軸を用いても、鑑別診断が広範なことに変わりはない。そこで、可能性のある診断を絞り込む目的で、もう一つの認知戦略であるベン図(venn diagram)を作成する必要がある。ベン図は、異なる情報の集合に共通する特徴を強調する目的で頻繁に用いられる。臨床推論では、図の重なり合う領域に出現する特徴に無関係な診断除外が可能となる。    例えば、肺のtree-in-bud opacitiesと空洞性病変の両方を呈する診断を考慮する場合、がんを除外し、感染症や自己免疫過程を残すことが可能である(図2)。このベン図に3つ目の円を加えて、本患者の免疫低下を表示すると、重複部分から、鑑別診断を感染症に絞り込むことが可能となる。また、このベン図により、tree-in-bud opacitiesと空洞病変両者を惹起する感染症にのみに焦点を当てることが可能になる。
○細菌感染   本患者の呼吸器検体から黄色ブドウ球菌が分離されたが、両画像パターンに(黄ブ菌は)関連する可能性がある。しかし、①画像所見は持続しており②本患者は無症状であることから、黄色ブドウ球菌が本例の原因菌ではない強い証拠となる。放線菌や真菌症の可能性もあるが、微生物学的検査は陰性であり、定型・非定型いずれの細菌感染症も考えにくい。
○マイコバクテリア感染症    結核菌と非結核菌の両菌が、本患者にみられたような肺画像所見を呈し、免疫不全宿主には数多く(disproportionately)存在するので、両感染菌の除外は困難である。患者は医療施設が職場であり、受けたツベルクリン皮膚テストはすべて陰性であったと聞いているが、これらのテストは免疫不全の患者では偽陰性になりうる。マイコバクテリア感染の可能性について考慮すべき最も重要な点は、誘発喀痰サンプルと気管支鏡検査で得られたBAL検体では、抗酸菌が陰性であった所見であろう。有空洞患者では、①菌の接種量が多く、②病変が気道と連続していることが多いため、無空洞症患者よりも診断率が高い6。したがって、呼吸器検体の染色で抗酸菌が認められなかったことから、本患者の感染はマイコバクテリアによるものとは考慮しにくい。
○真菌感染症   本患者はガーデニングが趣味で、時々マリファナ吸引があり、連続したベン図にもう一つの円を追加することが可能である。この重複部分から、診断が導かれる。両者の事象(exposures)からは、真菌吸入の危険性がある。したがって,この症例全体を考慮すると,侵襲性真菌感染症,具体的には①アスペルギルス(Asp)症,②ヒストプラスマ(His)症,③ブラストミセス(Bla)症等が最も懸念される.患者の疫学的危険因子と、提示された検査結果から、確定診断が可能となる。    Asp(①)は、免疫不全宿主に頻繁に感染するユビキタスな真菌である。Asp症は、アレルギーから血管への直接侵襲まで、さまざまな臨床症候群を惹起する。肺に侵入した場合、喀血や呼吸不全を生じる可能性がある。大麻の燃焼は、肺アスペルギルス症に関連する7。Asp症は、長期間のGC療法患者に見られることがあるが、長期の好中球減少の存在は、侵襲性疾患のリスクを最大限に増加させる。Asp症の確定診断は、菌の培養、または生検標本や呼吸器標本で真菌の直接確認等により施行される。真菌の細胞壁の成分であるガラクトマンナンのBAL液または血液での検査は、結果解釈時に検査の限界を考慮すれば、Asp感染症に有用な代替マーカーとなることが多い(offten)。本患者には好中球減少症がなく、血中ガラクトマンナン検査が陰性であったことから、Asp症とは診断されない。    ②本患者は尿検査でHis抗原が陽性であった。His症は二型真菌Histoplasma capsulatumによって惹起される風土病の真菌症である。オハイオ川とミシシッピ川流域の風土病であるが、米国東部、テキサス州、中南米にも生息している。Hisの一次感染は無症状であることが多いが、肺外症状を有する肺炎症候群として出現することがある8。尿中ヒストプラズマ抗原が他の二型性(dimorphic)真菌と交差反応を生じることがあり、注意すべきである(本抗原は急性播種性感染に対して高感度ではあるが特異度は低い)8。本患者の臨床症状、画像所見、尿検査His抗原の陽性等は、すべてHis症の診断に合致している。しかし、Hisは真菌の細胞壁の成分である1,3-β-D-グルカンを産生し9、血中1,3-β-D-グルカンの測定は侵襲性(His)真菌感染のマーカーとしてよく用いられる。本患者は血中1,3-β-D-グルカン濃度は未検出であり、His症の診断可能性は低かった。    ③Bla症は、二型真菌であるB. dermatitidisによって惹起される風土病の真菌症である。Blaは、Hisと多くの臨床的特徴を共有しているが、北米における分布は、米国の東海岸沿いに集中し、カナダに向かって上(北?)方に広がっている。Hisと異なり、Blaは細胞壁に1,3-β-D-グルカンを産生しない10。この特徴は、本患者の検査結果と合致している。さらに、His抗原とBla抗原の尿検査には交差反応があることが知られており、本患者のHis抗原検査陽性の説明が可能である。バーモント州とカナダでの土壌への暴露等の疫学的危険因子から、本患者はBla症罹患が疑われる。Bla症診断確定には、真菌培養を待ち、陰性であれば、真菌の染色と培養目的の空洞病変の経気管支生検施行になるであろう。

ダニエル・レストレポ博士の診断:ブラストミセス症。

病理学的考察
Dr. John A. Branda    本症例の診断手順はBALであった。BAL液の細胞学的検査(図3)により、Blaに最も合致した出芽酵母が検出された。同検体採取の直接真菌湿潤塗抹標本は陰性であったが,真菌培養によりB. dermatitidisのコロニーが認められ,形態学的同定と核酸ハイブリダイゼーションプローブにより確認された.また,血液検査でBla抗原が陽性(0.25 ng/mL)であった.以上より,B. dermatitidis感染症と診断した.

病理診断:Blastomyces dermatitidis感染。

マネージメントのディスカッション
Suzanne M. McCluskey博士 抗真菌療法の選択にあたっては、患者の状態でいくつかの点を考慮する必要があった。①まず、患者の精神状態変化が持続しているため、中枢神経系病変有無の評価が必要であった。腰椎穿刺を施行したが,脳脊髄液検査ではリンパ球増多を認めず,安心できる結果であった.脳脊髄液の真菌ウェットマウント標本と培養液も陰性であった。さらに、神経放射線科専門医と、早期段階での頭部と脊椎のMRI画像をレトロスペクティブに検討したが、中枢神経系への侵襲は認められなかった。②第二に、患者の肺所見の、皮膚やその他の肺外疾患との関連有無を判断する必要があった。その結果、本症例は軽度の限局性肺感染症であると判断した。③最後に,本患者の短期化学療法計画について腫瘍科医と話し合い,薬物相互作用を有するあらゆる薬物を禁止する可能性につき評価した。    最終的に、イトラコナゾール経口溶液(錠剤よりもバイオアベイラビリティーが格段に上)を推奨した11。また、イトラコナゾールの血中濃度を注意深くモニタリングし、薬物相互作用を慎重に評価するようアドバイスした12。リポソーマルアムホテリシンBによる初期治療も検討したが、患者が無症状で肺炎は限局性であることから、薬剤毒性作用リスクと本例での潜在的利益を比較検討して、リポソーマルアムホテリシンBは断念した。    我々は,患者に投与中の免疫抑制の程度に応じて,イトラコナゾールの長期抑制コース(少なくとも12カ月)を計画していた。入院中、重複黄色ブドウ球菌性肺炎(superimposed S. aureus pneumonia)のため、14日間の抗菌療法も施行された。その後,他院に転院して治療を継続し,抗菌薬治療を終了するとともに,イトラコナゾール経口溶液の副作用が懸念され始めたため,イトラコナゾール錠剤に変更した。その後、すぐに自宅へ退院した。    しかし、残念ながら癌は進行し、エベロリムスによる治療が再開となった。イトラコナゾールによる治療開始後、約6ヵ月後に撮影された最新の胸部CTでは、右上葉のコンソリデーションとtree-in-bud opacityの両病変の著明な軽快が示された。エベロリムスによる治療の結果、免疫抑制(状態)が持続していることから、患者はイトラコナゾール服用の無期限継続が予想される。

最終診断:ブラストミセス・デルマティディスの感染。
Case 22-2022 Teaching Points  きも

●臨床推論
●問題の表現-信号とノイズ
鑑別診断の最初のステップは、"信号 "と "ノイズ "の区別1
問題を(再)構築し表現  問題意識を持つ(鑑別診断絞り込みが可能になる)
●PIVOT POINTS-空洞性肺病変とTree-in-bud病変
ピボットポイントとは、診断に至るために焦点を当てることの可能な一面3
① 認知的負荷の最小限化、②可能な診断数を少なくする
膨大な臨床データを有する症例において非常に有用
●連続したベン図(SEQENTIAL VENN DIAGRAM)
異なる情報の集合に共通する特徴を強調 重複領域の特徴に無関係な診断除外が可能

●空洞性肺病変とTree-in-bud病変 
Ⅰ:空洞性肺病変
① 自己免疫疾患(GPA、サ症、RA)と②がん(原発性、転移性)③感染症(大部分)
Ⅱ:tree-in-bud opacities、
肺の遠位気管支の炎症やimpactionに起因
気管支周囲の小結節集簇が、発芽した葉に囲まれた木の枝に類似から名付けられた。
誤飲、シェーグレン症候群や肺病変を伴うRA
結核性や非結核性マイコバクテリア感染症、真菌感染症、黄色ブドウ球菌やインフルエンザ5
Ⅰ×Ⅱ
○細菌感染:黄色ブドウ球菌 ○マイコバクテリア感染症(ツ反は免疫不全では偽陰性あり)
○真菌感染症 ①アスペルギルス,②ヒストプラスマ,③ブラストミセス
①Asp大麻の燃焼は、肺アスペルギルス症に関連する7 
ガラクトマンナンは有用な代替マーカーとなることが多い(offten)
②Hisの一次感染は無症状多いが、肺外症状を有する肺炎症候群として出現も8
1,3-β-D-グルカンを産生し9、血中それは侵襲性真菌感染のマーカー   
③Bla症 1,3-β-D-グルカンを産生しない10。尿HisとBla抗原には交差反応がある
評価a:中枢神経系病変有無 b:肺所見の、皮膚やその他の肺外疾患との関連有無判断
c:化学療法計画イトラコナゾール   リポソーマルアムホテリシンB

住所

湖岸通り5-11/50
Suwa-shi, Nagano
392-8510

電話番号

0266-57-6286

アラート

諏訪赤十字病院 教育研修推進室がニュースとプロモを投稿した時に最初に知って当社にメールを送信する最初の人になりましょう。あなたのメールアドレスはその他の目的には使用されず、いつでもサブスクリプションを解除することができます。

共有する

Share on Facebook Share on Twitter Share on LinkedIn
Share on Pinterest Share on Reddit Share via Email
Share on WhatsApp Share on Instagram Share on Telegram

カテゴリー